ChatWork Academyさんに聞く、うまくいく在宅勤務のためのIT活用とコミュニケーション
2014/06/27 更新:2018/11/30
今や、仕事においてメールは欠かすことのできないツールだ。でも、あまりにもたくさんのメールが届くようになって仕事の効率が落ちている、ストレスも溜まる…、とメールに関する課題を感じている人も多いのではないだろうか。
Profile
作宮 幸代 Sakumiya Yukiyo
私自身あまり器用ではなく、家事、育児、仕事を両立していくのは大変だなと実感。産後1年で復職するものの通常の勤務体系では両親のサポートが無いかぎり子供の負担も大きくなるという理由で前職を退職。
「ITの環境をうまく使えばコストもかけず、時間や場所にとらわれず、仕事ができる」
ChatWork Academy 株式会社は常識にとらわれない働き方をご提案、実現。会社のポジションや役割に関係なくクラウドの仕組みを使って世界中どこにいても、まるで隣に人がいるような仕事の仕方ノウハウを提供している。2020年には高齢者が全人口の29.1%、1/3が65才以上だといわれている日本で、働き方が自由で子育てがしやすい環境、子供を産みやすい環境を作っていく事がミッション。
子供ができて洗濯物や掃除などが以前の5倍くらいに増えて大変な事も多いが、2歳の娘からは学ぶ事もたくさんあり、これからは家族や子供との時間を大事に仕事を通して社会にも貢献していきたいと考えている。
Profile
加藤 絵美 Kato Emi
パソコンとネット環境があれば、”時間と場所”に縛られない「ITを使った新しい働き方」を実践するため、ChatWork Academy 株式会社で様々なワークスタイルを追及。現在は在宅勤務で経理業務を担当し、日々の仕事を楽みながら家事や自分の時間を充実させている。
前職は食品会社や歯科助手の勤務経験を経て、結婚と同時にChatWork株式会社の創業メンバーとして経理業務を5年間担当。しかし家事に専念したいという思いから一時退職。
3年前に夫がChatWork Academy 株式会社を設立したのをきっかけに、”時間と場所”に縛られない「ITを使った新しい働き方」に挑戦し現在に至る。
そんなメールに代わり、仕事のコミュニケーションやタスク管理などを便利に効率的に行う新しいツールを導入する組織が、徐々に増えている。そのようなツールのひとつである「チャットワーク」は、2011年という早い時期にサービスを開始し、昨年6月には20万ユーザーを突破。現在では46,000社が使うサービスとなっている。
この「チャットワーク」を開発・販売しているChatWork株式会社は、「従業員満足度の高い会社」としても有名だ。山本敏行社長による書籍『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』では、それまでの「会社の当たり前」を覆すような、それでいてとても合理的な仕事のやり方や人事制度が紹介されている。
中でもITツールの活用は重要なポイントだ。ChatWork株式会社には、業務効率アップのノウハウについての問い合わせがたくさん寄せられるようになったそう。
今回インタビューにご協力いただいたChatWork Academy 株式会社は、そのようなニーズを受けて設立された会社だ。主に中小企業に対し、多額の費用をかけなくてもできる、ITを活用した業務効率化のコンサルテーションサービスなどを行っている。
「探さない、移動しない、繰り返さない」で仕事をもっと楽に
ChatWork Academy 株式会社の作宮幸代(さくみや ゆきよ)さんによれば、一般のサラリーマンはメールの処理に週平均14時間、資料を探すのに年間160時間使っているというデータがあるそうだ。
ITをうまく活用することで、資料を探す、現地に移動する、同じ作業(話)を繰り返す、といった手間が減って仕事はもっと楽になる。それを徹底してきた自社のやり方を、ChatWork Academy 株式会社は他の会社にも伝授している。
移動しなくても仕事ができる状態、というのはつまり在宅勤務にも最適ではないか、ということで、今回は特に在宅勤務を成功させるためのノウハウについて、作宮さんと、ChatWork Academy 株式会社で実際に在宅勤務をしている加藤絵美(かとう えみ)さんに教えていただいた。
近距離在宅勤務で、新しいワークスタイルを確立中
インタビューは、ChatWork Academy 株式会社の東京支社で行われた。しかし、東京支社にいるのは作宮さんひとり。大阪で在宅勤務する加藤さんとは、チャットワークのビデオ会議機能を使って、画面越しに対面した。

チャットワークのビデオ会議機能で加藤さんと会話する作宮さん
加藤さんはもともとChatWork株式会社の創業メンバーとして働いた後、いったん専業主婦になり、夫の加藤利彦さんがChatWork Academy株式会社を立ち上げるときに復職した。そしてそのとき以来在宅勤務を続けている。
在宅勤務というと、自宅と会社が遠いなど、何らかの理由で会社に通いにくい事情がある場合に取られる手段という印象が強いが、加藤さんの場合、実は自宅とオフィスは目と鼻の先。社長である旦那さんは毎日オフィスに出勤しているという、ちょっと珍しいタイプの在宅勤務者だ。
時間と場所に縛られないワークスタイルを確立したい、いずれ子どもができたときに育児をしながらでも仕事ができる環境を整えておきたい、家事と仕事を両立したい、という理由から、あえて在宅勤務をするという選択をしたのだそう。
「いつでもどこでも」を可能にするITツール
加藤さんは、以下のようなツールを活用し、自宅だけでなく外出先や会社など、どこにいても同じように仕事ができる環境を整えている。
- Windows PCとMacBook AirとTeamViewer
自宅では経理の仕事に使いやすいWindowsのパソコンを使用。外出時は軽くて持ち運びやすいMacBook Airを持って行くが、TeamViewerというリモートコントロールソフトを使い、インターネット越しに自宅のWindows PCを操作している。 - Google Apps
データはパソコンの中ではなく、クラウド上に保管することで、どこからでもアクセスが可能に。 - ScanSnap
紙でやりとりした情報もすべてスキャンし、Google Appsに保管。 - チャットワーク
仕事相手とのコミュニケーションやタスク管理に利用するほか、直接口頭で話した内容もまとめて書き込み、議事録としても利用する。 - eFax
ファックスをメールで送受信できる。 - iPhone
Wi-Fi環境のないところでは、テザリング機能を使ってネット接続する。
このようにインターネット上のサービスを活用することで、場所にとらわれずスムーズに仕事をすることが可能になる。一方で、セキュリティ面では注意が必要だ。加藤さんは、以下のような対策をとっている。
- Google Appsは2段階認証を利用。
- 家のW-iFiのパスワードを複雑に設定。
- iPhone、パソコンなどのパスワードを複雑に設定。
- 各種ネットサービスのログインパスワードは14文字以上の英数字記号を混ぜた複雑なものにし、定期的に変更する。
これについては、ロボフォームというログイン情報の管理ソフトを使用して、ひとつひとつのパスワードを覚えたり紙に書いたりしておかなくても、マスターパスワードひとつで、それぞれにログインができるようにしている。
チームの一員でいるためのコミュニケーションの取り方
加藤さんの場合、社内で在宅勤務をしているのは自分だけ。他の社員はみんなオフィスに出勤しているため、ひとりで孤立してしまわないようにコミュニケーションの取り方を工夫している。
- 成果ややりとりの見える化
仕事の連絡などはチャットワークのグループチャット機能を使い、メールで連絡が必要な場合も、CCに関係者を入れて、何をしているかが他の社員からも分かるようにしている。
また、スケジュールはGoogleカレンダーに入力している。社員がお互いの予定を見られるので、誰が何をやっているのかが分かりやすいそう。 - 情報をデータで残して共有する
会議をしたら必ず議事録をとって、いなかった人にも分かるようにすることを他の社員にも徹底している。
議事録はMindMeisterというマインドマップツールで取るのがChatWork Academy流。
こちらにその方法が紹介されているが、このような形で、誰でも分かりやすい議事録を書けるようにしている。
また、社員向けの説明会などは、動画で残して共有することも多いそうだ。 - 顔を合わせる機会を作る
最初は月に1回の飲み会だけが他の社員と顔を合わせる機会だったが、なんとなくぎこちない雰囲気になってしまっていたという。そこで、今は週に1回は出社して仕事をし、それ以外の日も昼食や夕食にはなるべく合流して、何気ない会話も大事にしているそうだ。
このような形で、在宅勤務者ゆえに情報から取り残されてしまったり、何をやっているかわからない人、縁遠い人、といった存在にならないようにしている加藤さん。それでも、「他の人は出勤しているのに、自分だけ楽をしているようで申し訳ない」と思うことがあったそう。その気持を切り替えることができたのは、他の社員の一言だったという。
「社内の人に私の在宅勤務がどう見えているか聞いたら、『新しいスタイルで面白いですよね。すごくいいと思います!』と言われたんです。それからは、在宅でできる仕事のスタイルを確立しているんだ、と考えられるようになりました」
オンとオフを切り替えるための時間管理・環境管理
在宅勤務をしたことがない場合、「家にいたらだらだらしてしまって仕事なんてできないのでは?」と心配になる人が多いようだ。もちろんそういう課題もあるが、逆に働き過ぎが問題になることも多い。
起きてから寝るまで仕事ができる環境にあるので、加藤さんも以前は仕事が長時間になりがちだったという。今は、オン・オフを切り替えができるように以下のような工夫をしている。
- 仕事ができる環境を整える
家の中で落ち着いて仕事ができるスペースを確保し、気が散らないように、デスク周りには趣味のものを置かない。
また、デスク、椅子、パソコンのモニターなどは会社の備品と同様のものを揃えている。(先に紹介した本でも、ChatWork株式会社では、ひとりがモニターを2つ使う“デュアルモニター”で仕事の効率を上げていることが紹介されている。また、椅子は当初安いものを使っていたら腰が痛くなってしまい、1脚10万円以上するものを中古で安く手に入れたそうだ)

加藤さんの自宅の仕事スペース

こちらはChatWork社のオフィス。それぞれのデスクに2つのモニターが備えられている。
- 一日の時間割を決める
仕事の開始時間、休憩時間、終業時間を決め、休憩時間に犬の散歩をしている。
在宅勤務は運動不足になりがちなので、定期的に身体を動かす時間を作ることも大切だ。
また、土日はなるべくパソコンに触らないでプライベートの時間を確保するようにしている。
このような工夫によって、終業時間を決めずに長時間仕事をしていた時よりも、むしろ効率よくできているそうだ。
編み出したノウハウを社内に還元
加藤さんのお話を聞いていると、うまくいっていない部分は地道に改善しつつ、上手な在宅勤務の方法を確立してきていることがよく分かる。
インタビューの日はたまたま社内のプレゼン大会があるということで、加藤さんは在宅勤務のノウハウをシェアする予定だと聞いた。ChatWork Academy 株式会社では、育児の都合で出社時間をずらすなど、柔軟なワークスタイルが認められているということなので、「いつでもどこでも」と「その場にいなくてもチームの一員」を実現する加藤さんのノウハウは大いに役に立つだろう。
在宅勤務を始める動機のひとつであった「家事との両立」についても、洗濯機を回しながら仕事をしたり、休憩時間にさっとネットスーパーで買い物したりと、うまくいっている様子の加藤さん。昼食や夕食を一緒にとるといったコミュニケーション方法は自宅とオフィスが近距離であるからこそだが、「もし、オフィスが遠くに移転したらどうしますか?」と聞いたら、「そのときは午前中だけ出社して午後は在宅勤務という新しいワークスタイルを試してみたい」と答えてくれた。
出社したら何か理由がない限り終業時間までそこにいるものと、当たり前のように考えてしまいがちだが、1日のうち半分は出社というのも確かにアリだ。それによって、たまった家事を週末に片付けなければならないとか、平日はあまり子どもとの会話の時間が取れないとか、日常のちょっとした、だけど結構重要な課題を解決できる可能性がある。
こういう新しい発想は、やってみて初めて出てくるものではないだろうか? 在宅勤務をやってみようかと検討中の方は、ここで紹介されたような先駆者のノウハウを取り入れつつ、まずは試しながら、自分たちなりの良い方法を編み出していくことをおすすめしたい。
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参考情報
- ChatWork株式会社
- ChatWork Academy 株式会社
- TeamViewer
- Google Apps
- ScanSnap
- eFax
- ロボフォーム
- 『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方
』
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取材・文/やつづか えり 撮影/三原 明日香

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