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「ママインターン」で挑戦 〜それぞれのママの自分らしい生き方、働き方〜

2014/02/27   更新:2018/11/30

結婚や出産を機に離職した女性が「もう一度働きたい」と希望したとき、どのような不安が彼女たちを取り巻くだろうか。

一つは、子供を持つことを望む女性であれば誰しも感じる「育児と仕事をうまく両立できるか」という不安。「子供を預ける保育園が見つからない」「勤務先の育児休暇制度や時短制度が整っていない」「周囲に家事を分担してもらえない」など周囲や環境の態勢が整っていないことなどが要因となりうる。

しかし、それだけではない。一度離職を経験している女性にとって再就職の壁となるもう一つの要素、それは離職して時が経っていること、つまりキャリアブランクそのもの。

「スキルが足りず会社に迷惑をかけてしまうかもしれない」「新しく仕事を始めてもすぐ挫折してしまうのではないか」「ビジネスの基礎から学ばなくてはいけない、それに残業もできない。そんな人材を雇ってくれるのか」など、責任感のあるママたちは見えない不安を抱え、再就職を諦めていることがある。

平成23年度の厚生労働省の調査によると、未婚女性が希望するライフプランは、「結婚や出産に関わらず就業を継続したい」(30.6%)よりも「結婚・育児を機に一度離職し、家事や育児に専念した後再就職したい」(35.2%)の割合が多いことが分かる。つまり、離職せずに継続して就業できる制度よりも、安心して再就職できるような制度を求めている女性が多いのだ。

そこでこのような女性の希望に応えるため、再就職できるよう支援する「ママインターン」という制度がある。「ママインターン」とは、その名の通りママのための職場研修制度のことだが、実は中小企業庁が主導で支援をしている「中小企業戦略プロジェクト」に後押しされるかたちで、このママインターンを導入する企業、活用するママが増えているという。

女性向けボディケア商品やコスメ商品の企画・開発などを行う株式会社シルキースタイルも昨年6月からこのママインターンを導入した。今回はこのシルキースタイルの山田社長とインターンとして入社した二人のママに取材させていただき、キャリアにブランクを持つママたちの悩み、そしてママインターンの魅力について伺うことができたので紹介したい。

「ママへの理解が深い」、ママインターンを導入する企業の魅力とは?

「優秀なのに、出産を機に仕事を辞めてなかなか復帰できないでいる友人が多く、もったいないと感じていた。」シルキースタイルの代表取締役山田奈央子(やまだなおこ)さんは、ママインターンを導入しようと思ったキッカケについてこのように答えてくれた。

実は、山田さんご自身も昨年9月に第一子を出産されたばかり。つまりママインターンの面接を行った6月頃、お腹には7ヶ月の赤ちゃんがいたことになる。お腹の大きかった山田さんの「働くママを応援したい」という気持ちは、インターンに応募したママたちの不安を和らげただけではなく、「ママとして働くからこそ会社へ貢献できることがあるかもしれない」と働くママとしての価値を気づかせるきっかけとなっていたのだ。

ママインターン制度を導入する企業はママへの理解が深い。これは、ママの再就職を後押しする魅力の一つかもしれない。

山田 奈央子さん

Profile

山田 奈央子 Naoko Yamada

上智大学卒業後、大手下着メーカーに入社し下着の企画、MDから国内製品、インポートなどの販売を経験。2006年に大学時代の友人と有限会社(現:株式会社)シルキースタイルを設立。現在は同社にて代表取締役を務めるとともに、下着コンシェルジェ、女性の自己実現を応援するウーマンリーダーとして、各地でセミナーや講演会などを開催している。プライベートでは2013年9月に第一子を出産し、現在も働くママの視点を活かした商品プロデュースやサービス展開を行っている。

ではママへの理解が深い会社で働くということには、どのようなメリットがあるのだろうか?

冒頭で、結婚や出産を望む全ての女性が不安に感じているのは「育児と仕事の両立」であると紹介したが、実際にママたちの一日は忙しく仕事に集中できる時間は限られている。朝は子供を保育園、幼稚園、学校に送り出し、夕方以降はお迎えや帰宅した子供たちの世話、更に空いた時間で掃除や洗濯なども行う。このような育児や家事への時間そして仕事への時間、働くママにとって両者のバランスを保つことは非常に大切な要素となる。

シルキースタイルで募集するインターンは、週2、3日から時間応相談という非常に柔軟な条件だ。実際に後で紹介するママたちの働き方は多様であり、お一人は週5日7時間、もうお一人は週3日5時間、と個々の希望に応じて設定されている。またインターンというと無償のイメージだが、中小企業庁の「中小企業新戦力プロジェクト」を利用すると国から日額5.000〜7,000円の補助金が出ることもママたちには嬉しい仕組みである。

しかし柔軟な勤務体系だけでは十分ではない。子供が風邪をひいた場合は急に休まなくてはならず、子供のお迎えがあれば仕事が残っていても帰らなくてはいけない。そこでシルキースタイルでは、ママに任せる仕事を他の社員とのワークシェア方式にしたり、取引先に迷惑がかからない社内業務をメインにしたりすることで、急なお休みや仕事が溢れてしまった時に柔軟に対応できるよう備えている。

ママインターンでは、ママとママを雇う会社双方が気持ちよく働けるよう工夫されているようだ。では実際にインターンを利用したママたちは、どのようなメリットを感じているのだろうか。

子供を言い訳にしない、そして無理のない範囲でキャリアアップを目指す

仁藤 夏子さん

Profile

仁藤 夏子 Natsuko Nito

3歳の子供を育てる31歳のママ。出産前は生命保険会社で営業として勤務、第一子を出産後に一度離職。育児休暇期間含め3年のブランクを経て、再度働きたいという気持ちから株式会社シルキースタイルのママインターンに応募。現在は平日10時〜17時で出社し、社内事務全般を担当。

仁藤夏子(にとう なつこ)さんは、第一子を出産した後、一度育児休暇を取得するかたちで前社に籍を残していた。しかし実際に出産を経験してみて感じたのは、乳児を育てる難しさ、育児と仕事の両立への不安だったという。「授乳中は十分な就眠時間がとれず苦しむこともありました。更に保育園に預けることができず、両親が近くにおらず頼ることができなかったため、育児休暇を終えるタイミングで離職を決意しました。」

もともと仕事をするのが好きだったという仁藤さんだが、子供が母乳を卒業してしばらく経つと「また働きたい」「人と関わりたい、社会に出て視野を広げたい」と感じるようになったという。

働きたい、でも子供はまだ3歳。その状況で働く場として選んだのは、このママインターン。実は仁藤さん、無理のない柔軟な勤務体系のもと新しい仕事にチャレンジし、スキルアップを目指しているのだ。

「前職では結婚・出産を予定していることを前提に仕事を選んだので、やりたいことを優先していませんでした。ある意味自分の本当にやりたいことを諦めていたのかもしれません。」「しかし子供を産んで改めて感じたことは、子供は自分の邪魔をするために産まれてきたわけではないということ。実際に出産を経験して価値観が変わり、子供を言い訳にせず自分のやりたいことに挑戦しようと思いました。」出産を経て変化のあった価値観について、このように教えてくれた。

インターンを始めて半年、覚えることはまだまだたくさんある。日々の業務でExcelやWord、基本的なビジネス会話など感覚を取り戻しながら習得しているが、加えて今まで経験のなかったIllustratorやPhotoshopなどでの作業も教わっているそう。

そして今後もスキルアップを目指していきたいと前向きな彼女に対し、シルキースタイルも毎週月曜の朝礼や定期的な個別面談などを通じて本人の望むキャリアアップを応援している。

ママインターンは出産を経て「やりたいこと」に再チャレンジする、そんな機会をも提供しているようだ。

両立だけが価値のあることではない、育児に専念しその後再就職するという選択肢

Profile

三浦厚子(仮名) Atsuko Miura

第一子を出産と夫の転勤のタイミングで前職(事務職)を離職し、現在は小学3年生(9歳)と小学1年生(7歳)のママ。現在44歳。10年間のブランクを経たのち、末の子が小学校に上がったことを機にまとまった時間がとれるようになったためママインターンへ応募。現在はママインターンを経て株式会社シルキースタイルに就職。週3日10時〜15時という勤務体系は変えず、育児と仕事の両立を果たす。

先ほどの仁藤さんと異なり三浦厚子(みうら あつこ(仮名))さんのプロフィールで特徴的なのは、そのブランク期間。10年間のキャリアブランクを経て就職すること、それは大きな不安を伴い、再就職へのハードルを高くする一つの要素となるだろう。

しかし実際に三浦さんのお話を伺って感じたことは、不安の大きさだけではなく、両立だけが全てではないこと、そして子供と向き合う時間の大切さだった。

近頃は仕事とプライベートの両立を重要視するような価値観のみ先行し、結婚・出産を経験しても仕事を継続することばかりが取り上げられているように感じることがある。取材の中でワークライフバランスについて三浦さんのご意見を伺った際、こんなことを教えてくれた。

「親として絶対的に子供に愛情を注がなければならない時期があるように感じます。人生に一度、それもたった数年。」、母親が育児に向き合うことの大切さだ。

末の子供が小学校に上がったタイミングでまとまった時間がとれるようになり、ママインターンに挑戦したという三浦さん、このように「育児専念期間」を経て「育児・仕事両立期間」として再就職することは、一つの非常に価値のある生き方だということを改めて気づかされた。

ブランク期間があることは、確かに再就職を阻む大きな不安要素となるだろう。しかし育児に専念する期間を持ったことで学んだことは多く、悩みながらも育児に十分向き合ったことは三浦さんにとってかけがえのない経験だったという。

現在三浦さんは、インターンを経て週3日勤務の社員として働いている。第一歩をインターンとして始めたことによって、家事・育児とのバランスに無理のないペースで仕事の感覚を取り戻し、今後どのようにそのバランスを再構築していくか、どういう働き方をしていきたいかなど具体的に考えることができたそうだ。

長いブランク期間を経ても安心して職場復帰できる制度、ママインターンは日々慣れる環境を提供することでブランク期間を埋める手助けをしてくれる。

ママだけではない、ママインターンを通じて得られる周囲のメリット

office

さて、ここまではママインターン制度をママの視点から紹介したが、どうやらメリットがあるのはママたちだけではない。

取材をする中で、三浦さん、仁藤さん共に非常に向上心がありそして自分の考えをしっかりと持っていることにとても感銘を受けた。仕事をして視野を広げたい、やりたいことを諦めない、このような「仕事への前向きな態度」は会社全体を刺激し、良い雰囲気に導いているという。

働くママを含む様々な価値観の女性が会社で働くことは、会社のダイバーシティを豊かにするだろう。ママたちは男性や独身の社員の価値観を知り、男性や独身の社員たちはママたちの価値観を知り、お互いの人生について視野を広げる良い経験となる。社員個人個人の広い視野は、間違いなく会社の大きな財産となるはずだ。

「女性が妊娠、出産、転勤等に左右され諦めることのないよう、最優先したい事を自分の意思で調整・選択できる社会になればいいと思います。」(三浦さん)

「人それぞれの環境があって、それぞれの人がどう生きてるかが大事だと改めて感じました。仕事を優先して子供を産まない選択をした人もいる。産めなくて諦めた人もいる。産みたいけど相手がいない人もいる。それぞれの環境があって、それぞれの人がどう生きるかが大事だと。正解も不正解もない。今おかれている環境の中で自分がどう生きるかを考えたら、子供に関しても広い視野で接することができたような気がします。」(仁藤さん)

人生は長く、どのように価値観が変わるか分からない。たくさんの価値観があり、たくさんの生き方がある。取材を通じて、それぞれの生き方が尊重される社会であることの大切さに気づかされた。

一方育児と仕事のためにはママたち自身の工夫が必要なことも忘れてはいけない。三浦さん、仁藤さんともに家事・仕事の両立の難しさに負けず、日々効率的な方法を模索し生産性のある仕事ができるよう取り組んでいるのだ。例えば前日に家でメールをチェックし、会社での時間を有効に使う。炊飯や洗濯は予約機能を使うなど家事に工夫を加える。こういった効率化への意識は、仕事に専念している人より高いように感じる。

今後安倍首相の成長戦略のもと様々な制度が整うことが期待されるが、会社や私たち個人がママたちをより理解できるよう意識したうえで、ワークシェアリングや子連れでの出勤も可能にするなど柔軟な対応が浸透していくこと。これが「女性が安心して活躍する」ための必要なアクションと言えるだろう。

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取材・文/マミ 撮影/やつづか えり(山田さんの写真はシルキースタイル様より提供)

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