今年の11月20日(水)から26日(火)の1週間、渋谷ヒカリエ8階のイベントスペースと渋谷界隈のコワーキングスペースを中心に「Tokyo Work Design Week 2013」というイベントが開催される。
「これからの働き方」を考える人たちに向けて、色々な人のトークを聞いたり、職業体験をしたり、具体的なアドバイス・サポートを受けたりできる場が、1週間毎日提供される予定だ。
かなり大掛かりなイベントになるが、企画と運営はTWDWのテーマに興味を持って集まったボランティアスタッフたちが担っている(実は筆者もスタッフの一人だ)。
スタッフの中心層は20〜30代の社会人(最年少は10代の大学生)。それぞれに本業をもつ大人たちが自主的に集まってイベントを作りあげていく様子はどんなものなのか、各々はどういう気持で参加しているのか、本記事ではそんな舞台裏の部分にフォーカスをあてて紹介したい。
前編では、TWDWの発起人でありリーダーである横石崇さん、後編では、普段は会社で働きながらTWDWのスタッフとして活動する、3人の社会人の話を紹介する。
世の中は「働き方」ブーム、だけど語れる場がなかった
ここ1,2年、「働き方」をテーマにした書籍や雑誌の特集を目にすることがとても多くなった。それだけ多くの人が、「働き方が変わる」という予感や不安・期待を抱き、自分の働き方について考えるようになっている、ということだろう。
だが、本や雑誌で情報は得られても、自分の想いを語り合ったり悩みを相談したりする場がないと、横石さんは感じていたという。
「僕はBENCHという小さな会社で企画制作の部分をひとりでやっているので、外部の人とのコンタクトが多く、いろいろな働き方をしている人に会うんです。一緒に会社をやっている小島はキャリアカウンセラーなので仕事についての悩みを聞くことが多い。だから、僕達二人の間では、新しい働き方についてよく話します。だけど、周りの人にはそういう機会がないみたいだなと感じていました。
“働き方”についてみんなで集まって共有・交換・体験出来る場があったらいいな、ないなら自分たちでやろうか、いうことを『greenz.jp』の兼松くん(兼松佳宏greenz編集長)、『日本仕事百科』のナカムラくん(ナカムラケンタ編集長)や『ライフハッカー』の年吉くん(年吉聡太編集長)とかに話したら、やろうやろう、ということになりまして…。今から1年ちょっと前のことです」
2013年の11月に渋谷で1週間かけたイベントにしよう、ということは初期の段階から考えていたという。
「“働き方のフェスティバル”をやろうと思ったんです。イメージしたのは野外ロックフェス。お客さんがいろんなステージを回って偶然いいバンドに出会ったり、たまたま隣り合ったバンドのスタッフ同士が仲良くなったりするような…。1日だけだとそういう偶然は生まれにくいでしょう。
それから、東京では10月にファッション・ウィークがあって、デザイナーズウィークがあって、その後の大きなイベントはクリスマス。その間にはまる“勤労感謝の日”というせっかくのホリディがあるので、そこでやりたいなと」
「勤労感謝の日」。今の日本ではみんなが習慣的に行う行事などもなく、祝日の中でも地味な存在だ。でも確かに、「新しい働き方」をテーマにイベントを開催するのにぴったりの日のように思える。
「渋谷という場所は今、“遊ぶ街”から“働く街”にシフトしてきています。
ヒカリエの大きな建物はそのシンボルみたいなもの。そして渋谷には大企業ばかりじゃなくて中小企業やスタートアップ企業もたくさんあって、多様性があるのがいいですよね。コワーキングスペースもたくさんある。
TWDWはヒカリエの他に、コワーキングスペースをサテライト会場にすることで、普段は“点”として存在しているコワーキングスペースをつないで線にして面にできたら面白いと思う。普段コワーキングスペースを使わない人も、このチャンスにいろいろ覗いてみてもらえるといいですね」
予想の10倍集まったボランティアスタッフ
TWDW開催に向けて、ロゴマークを作り、公式サイトをひっそりとオープンしたのが昨年の11月。
その後、「まずはキックオフをやったほうがいい」という話になり、今年4月19日(金)にキックオフイベントの開催が決まった。(参考:キックオフイベント告知ページ)

4月に開催したキックオフイベントの様子 (c)rakuda
体外的な窓口は法人の方が都合がよいことが多いため、横石さんの会社が事務局ということになっているが、横石さん自身、TWDWを会社の利益のための仕事とは考えていない。キックオフイベントも、これから11月に行うイベントも、一部の必要経費(ロゴやWebサイトのデザイン、会場代、登壇者への謝礼等)を除いて、すべて手弁当だ。
しかし、肝心のボランティアスタッフの募集を始めたのは、キックオフイベント開催の告知と同時で、開催まで1か月というタイミング。かなり綱渡りなスケジュールに感じられるが、横石さんは「なんとかなる」と思っていたという。
「“新しい働き方”というテーマに賛同してくれる人はたくさんいたので、イベントの実働部隊は周りにいる知人友人にも声をかければなんとかなると思ってました」
フタを明けてみると、イベントのチケットはすぐに売り切れとなり、ボランティアスタッフの応募も予想以上に集まった。
「ボランティアの応募は2,3人くらいを予想してたんだけど、実際には30人くらい応募があってびっくりしましたね。
長いメールで熱い想いをぶつけてくれる人もいました。
基本的にお会いしてイベントについて説明して、面白そうだなと思ってもらえれば参加してもらうという形で、今20人くらいのメンバーになっています」
そうやって集まった人々のバックグラウンドは就職活動中の学生、会社員、フリーランスや求職中の人、中小企業の経営者など多岐にわたる。

キックオフイベント終了後の、スタッフ集合写真 (c)rakuda
ボランティアの集まりでイベントを作り上げていくという経験は、横石さんも初めてだそう。上司・部下・同僚といった関係でも、発注・受注といった関係でもない、自由に集まった人たちとプロジェクトを進めていくことに難しさを感じることもあるのではないだろうか?
「僕は映画の『オーシャンズ11』型の働き方が好きなんです。あるミッションに対して、その時々で必要なスキルを持った人を集めてきて、最適なチームを編成して実行するという…。
今回のプロジェクトも、集まった人たちそれぞれの得意なことを活かして役割を持ってもらうというのは変わらないです。ただ、初めて知り合う人たちなので、1度や2度話したくらいだとその人の得意なことがなかなか分からないということはありますね。会社組織の中でメンバーを集めるんだったら、他の同僚に聞いたりできるんだけど」
今の段階では、4月のキックオフイベントの時から一緒にやってきているメンバーの中では、「あの人にはこの役割をぜひ」という暗黙の了解のようなものができ始めている。11月のイベントに向けて新たに加わったメンバーに関しては、普段の仕事の内容や興味関心なども聞きつつ、自発的にやりたいことに手を挙げてもらうような形をとっている。
全員が「働き方」というテーマに共感し、11月のイベント期待感をもっているからか、チームはとても前向きで良い雰囲気だ
「小さな問い」をもつ人たちで作るTWDW
横石さんは、世の中に「小さな問い」をもった人たちが増えていくことが大事だと考えている。
「greenz.jpの兼松くんがいつも、『座右の銘より座右の問いが大事』と言っています。常に疑問点とか不満を持っていた方が、人はそのために勉強したり行動したりするでしょう。
ひとりひとりが『小さな問い』を持って、アクションを起こしていけば、より良い社会になっていくはずなんです」
会社組織として、大きな資本を投入しないと解決できないような課題が「大きな問い」だとすると、「小さな問い」というのは個人が「自分ごと」として感じられる、小さいけれど、それが故に企業の中では解決できないような課題だという。
そんな「小さな問い」をもち、その問いに向かって何かをしようという人たちが集まる、TWDWはそんな場のひとつだと、横石さんは考えている。
また、実現したいイベントのイメージを、「ここに来たら働き方の答えが見つかるということではなく、むしろいろんな人の話を聞いて、語り合って、モヤモヤして帰って欲しい」と語る。
これは、イベントに参加してくれるお客さんに対して実現したいことであるとともに、今イベントを作っていく過程の中で、すでにボランティアスタッフたちの間で発生している状態だ。
1週間という期間を使って、どういう企画を実現していくのか。自分なりの「小さな問い」を持って集まったメンバーがアイデアを出しあううちに、自然と「これからの働き方」についての議論が生まれ、みんなで頭のなかをモヤモヤさせる。そんなことを繰り返しながら、少しずつイベントの準備を進めている、というのが現在の状況だ。
後編では、そんなスタッフたちの様子や想いを紹介したい。
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取材・文/やつづか えり

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