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子育ての喜びを存分に味わう「イクメン」の働き方

2013/08/12   更新:2018/11/30

越智聡さん

Profile

越智 聡 Ochi Satoshi

外資系コンサルティングファーム マネージャー
深夜残業・休日勤務が当たり前の日々から一念発起し、育児休業2ヶ月、育児時短勤務2年2ヶ月を取得。家庭と仕事の両立に日々奮闘する2児のパパ。
2010 Mr.イクメンコンテスト準グランプリ者
2013 厚生労働省イクメンプロジェクト推進メンバー(第6回イクメンの星)
ブログ http://uriton.com/

今やすっかり世間に定着した「イクメン」という言葉。最初に注目されて「新語・流行語大賞」のトップ10入りしたのは2010年のことだ。

今回ご紹介する越智 聡(おち さとし)さんは、その2010年に雑誌『FQ JAPAN』の「Mr.イクメンコンテスト」で準グランプリを受賞し、2011年1月には厚労省認定「イクメンの星」に選ばれるなど、まさに「イクメン」の草分け的存在。自身のブログの記事からも、現在小学校1年生の悠莉くんと4歳の悠斗くんの子育てをとても楽しんでいる様子が伝わってくる。

でも、そんな越智さんも最初から「イクメン」だったわけではないそうだ。

本インタビューでは、越智さんが育児に主体的に関わるようになった経緯や、「イクメン」ならではの働き方と生活などについて詳しくうかがった。

激務の毎日で自分も家族も限界に

今でこそ家族で過ごす時間を大切にしている越智さんだが、一時期は仕事に没頭するあまり自分自身も家族も追い詰められてしまったことがある。

外資系のコンサルティング会社で、様々な業界のお客さんに対して業務のアウトソーシングの提案や契約後のサービスの立ち上げに関わってきた越智さんは、4年ほど前にマネージャーに昇進し、ほどなく新しいプロジェクトのリーダーに抜擢された。

大きな仕事を任され、なんとか成功させてやろうと意気込む越智さんは、それから2ヶ月ほど、終電やタクシーで帰宅する日が続いた。ひどい時には、朝の6時に帰宅して家族で朝食を食べ、8時頃に悠莉くんを保育園に送り、そのままタクシーで出勤ということが一週間くらい続くときもあったという。

そんな生活を続ければ身体も頭も休まらず、相当消耗していただろうが、そのときは任された仕事をとにかくやらなきゃという思いから、感覚が麻痺していたようだ。

しかししわ寄せは家族にも及んでいた。ある日奥さんから「話がある」と言われ、「体力的に厳しいので、もう少し早く帰る事はできないか。今のままの生活は、いつまで続くのか」と言われてしまったのだ。

その頃悠莉くんは3歳で、悠斗くんは0歳。保育園へ送ることだけは越智さんがしていたが、それ以外の子育てや家事はほぼ奥さんひとりで担っている状態だった。下の子の世話に手間がかかるものの、長男もまだ3歳でなんでもひとりでできるわけではない。奥さん一人だとふたりにご飯を食べさせることひとつとっても大変で、つい怒って泣かせて、の繰り返しで自己嫌悪に陥り、孤独で精神的にも参っていたようだ。

最初は「あと2ヶ月くらいで終わるから頑張ってくれないか」と答えた越智さんだったが、翌日ふと、「なんか俺、ちょっと間違ってない?」と思った。「仕事って家族を幸せにするためにやってるはずなのに、不幸にしちゃってない?」と気づいたのだ。

それからすぐ、越智さんは上司に相談に行った。「勤務状況がめちゃくちゃで、このままだと家族もあぶない」と説明すると、上司からはしばらく休むことを提案された。

これがきっかけで、越智さんの「育児休業」がスタートした。

仕事からはいっさい離れて家族と一緒に毎日を過ごした2ヶ月間で、子育てに対する意識が大きく変わったそうだ。

interview1

育休で得た気づき

例えば、保育園に迎えに行ったときに子どもが笑顔でかけよってきてくれるのも、毎日送り迎えをしているからこそ(たまにしか行かないお父さんだと、逆に泣かれてしまったりすることも…)。

育児休業中、こういう喜びをたくさん味わうことで、越智さんはもっと主体的に育児に関わって行きたいと考えるようになった。

一方仕事に関しては、「自分がやらなきゃ!」と思い込んでいたが、越智さんと交代でベテランのシニアマネージャーが入ってプロジェクトが進んでいくのをみて、「会社員なので代わりはいる」と気づいたそう。

育休中の1日は、例えばこんな感じだ。

7時半頃起床。越智さんが作った朝ごはんをみんなで食べる。

9時までに悠莉くんを保育園(この当時は親が家にいても通える認証保育園)に送る。

昼間は奥さんと一緒に公園や家、児童館などで悠斗くんと遊んだり、家事をしたり。

17時頃に悠莉くんを保育園に迎えに行く。

帰宅後、ご飯は奥さんか越智さんが作って食べさせ、越智さんがお風呂に入れる。

20時半頃に子どもたちを布団に連れて行った後、1時間くらい「戦いごっこ」(これをしないと寝てくれなかったそう)をしてから一緒に寝る。

22時頃奥さんに起こされて、晩酌をしたり一緒に海外ドラマを見たり。

もともと休日には家事や育児をしていたが、以前は「奥さんのサポート」という意識だったという。毎日やる中で、最初は奥さんに言われてやっていたことが、だんだん自分から気づいて自然にできるようになっていった。

週末だけでなく平日もやれば、それだけ家事・育児がうまくなるスピードも早いだろう。でも、越智さんが平日も家にいることには、それ以外のメリットもあったそうだ。

まずひとつは、奥さんの就職活動が可能になったこと。下の悠斗くんが保育園入園前だったので、越智さんがいなければ奥さんが平日に就職活動をすることはできなかった。他にも、病院や区役所に行くことなど平日にしかできないことが結構ある。

また、通常2番目の子はなかなか両親を独占するという時間をもてないものだが、悠莉くんが保育園に行っている間、次男の悠斗くんと親子3人で遊ぶ時間をもてたことも良かったことのひとつだそうだ。
interview2

時短勤務をきっかけに、チームごと仕事を効率化

2ヶ月間休んだ後、新しいプロジェクトにアサインされた越智さんは、いったんフルタイムの勤務条件で会社に復帰した。

育休中に子育てへの意識が変わり、「前みたいな働き方は絶対やめよう」と考えていた越智さん。でもプロジェクトが始まってしまうと、やっぱりタクシーで帰るような日も出てきてしまうなど、なかなか自分や家族の望むようなスタイルで働くことは難しかったという。

これでは元の木阿弥と、再び上司に相談すると、上司は短時間勤務制度を使うことを提案してくれた。周囲に時短勤務をしている女性社員はいたものの、それが男性も利用できる制度だとは、越智さんはそのときまで知らなかったそうだ。

それまで、越智さんは裁量労働制で働いていた。これは、仕事の結果にコミットすれば何時間働くかについては特に制限を受けないというやり方。越智さんのようにマネージャーという立場だと、部下に過重労働をさせないためにも自分が頑張るスタイルになりがちで、どうしても残業が増える傾向にあった。

越智さんの会社の短時間勤務制度は、5時間勤務、6時間勤務、7時間勤務の3つから選択ができ、越智さんは9時から5時の7時間勤務を選んだ。

「9時5時」という言い回しがあるように、「9時から5時」というとあまり「時短」という印象を受けないかもしれない。しかし、時短勤務の場合はこの時間外は一切残業禁止になり、越智さんの実働時間、そして仕事のしかたはかなり変わった。

残業なしが前提となると、仕事の優先順位付けがより重要になってくる。「今やる必要があるか」「自分がやる必要があるか」を常に考え、次の日にまわしたり、より適切な人に振ったりすることでスムーズに仕事が回るようになった。また、あらかじめ時短勤務であることを伝えておき、MTGは自ら時間調整することで5時以降のMTGを避けるようにした。

また、越智さんはメンバーにも残業が発生しないチーム作りを進めていった。

具体的にやったことのひとつめは、「朝ちゃんと来る」。

「夜遅いと、朝もちょっとくらい遅くてもいいや、という雰囲気になりがちです。特に上司が遅刻し始めると部下も引きずられてルーズになり、業務のスタートが遅くなり、生産性が悪くなって残業が増え、という悪循環になるんですね。なので、あたりまえの事ですが必ず時間どおりに来るということを徹底しました」

ふたつめは「無駄なことをしない」。

「例えば、できあがってから『イメージが違う』とならないように、資料についてはしっかりとイメージをすりあわせた上で作るということを絶対にやる。
ToDoリストを作って毎朝みんなで確認し、優先度を明確にしながら進めていく、といったことです」

「ある意味あたりまえのことなんですけど、忙しくなればなるほどそういうあたりまえができなくなってしまうものなので、初めのうちからこれらを心がけてやっていましたね」

こうやってチームごと効率化をし、越智さんは仕事の持ち帰りも一切しないようにしていたという。

中には「◯◯さんは時短勤務でも、自宅でメールや電話の対応をしているのに、キミはしないの?」と言う人もいたそうだが、会社でできない分を持って帰ってやるというのは根本的な解決策にはならないというのが、越智さんの考え方だ。

突発的な仕事が発生した時も、残業をすればこなせる、というのは当たり前。でも、残業はしないと決めることで、今日やらなくていいタスクを判断するなど、できる方法を考えて対応してきたという。

9時から5時の勤務を徹底し、育休時と同じように保育園の送り迎えは引き続き越智さんが担当。そのため、子どもたちと越智さんとの時間の過ごし方は、育休中も時短勤務中もそれほど変わらないで維持できたそうだ。

時短勤務の限界

越智さんは2012年の8月末まで、2年2ヶ月の時短勤務を経て、現在は通常勤務に戻っている。

会社の制度としては、下の子が10歳になるまで時短勤務をできる。当初はこの制度をなるべく長く活用したいと考えていた越智さんだが、段々と限界も感じるようになっていった。

それは、仕事の範囲がどうしても狭まってしまう、ということだ。

越智さんの勤務するコンサルティング会社では、プロジェクトごとにリーダーとメンバーをアサインして仕事を進めていく。

中にはAプロジェクトに50%、Bプロジェクトに50%というように、複数のプロジェクトに一定時間ずつ関わるメンバーがいることは珍しくない。だから、越智さんが時短勤務であることで、プロジェクトに限られた時間しか参加できないということ自体が現場で抵抗を受けるようなことはなかった。
しかし、「時短勤務」という条件のもとで割り当てられる仕事は、どうしてもマネージャーよりはプレイヤー的な役割の割合が大きくなったり、プロジェクトの内容が限られたりする。

また、常にワークライフバランスが保証された時短勤務は、裏を返せば一時的にでも仕事に全力投球がしづらいということでもある。契約がとれた時などにメンバーみんなが喜びに湧き苦労話をわかちあったりしていても、「自分はそこまでがんばってないしな…」と疎外感を感じたりもした。
そんなことから、子どもたちも大分大きくなり、奥さんの仕事も見つかって家族の生活がうまくまわるようになっていたので、昨年9月から通常の勤務に戻ることにしたのだった。

「前みたいな働き方は絶対にしないぞ」と決めて通常勤務に戻ったものの、次の週にいきなり2連続でタクシー帰りをしてしまい、奥さんにはあきれられたという越智さん。

「でもそこから持ち直して、今は7時とか7時半くらいには帰ってます。
以前とくらべると、どうしようもなくなったときに『戦う』(なんとしても仕事をがんばる)という選択肢に加えて、『逃げる』(働き方を変える)という選択肢ができたことがとても大きいです」

「フルタイム勤務でも『イクメン』は続けていける」という自信が感じられる言葉だった。

子育てに主体的に関わりたいお父さんたちへ

子どもたちとのキャンプ

(写真提供:越智さん)

現在、厚生労働省のイクメンプロジェクト推進メンバーでもある越智さんに、「父親になった人は、みんな育休や時短を選択するべき?」と聞いてみると、
「押し付けるつもりはないけれど、やりたいと思っているのならあきらめないで欲しいです。すくなくとも、子育てに主体的に関わることによって人生にプラスになることは間違いない」という言葉が返ってきた。

そして、多くの父親が子育てに関わっていけるようになるには、企業側の努力がとても大事であるという。

「人生って、子育てにかぎらず時期によっていろんなイベントがありますよね。それに合わせた働き方ができるように企業が多用なワークスタイルを認めて、まず制度を作り、広報していくことが重要です。
そして、マネジメント層から変わっていく必要がありますね。例えば育休・時短明けの人の扱い方や、人材損失を防ぐ方法を学んだりだとか…」

「制度がなかったり理解が進んでない企業では、『イクメン』になるのは難しいでしょうか?」と聞くと「現実的には難しい、かなりスーパーな人でないと…」とい答えつつ、あきらめずに上司や同僚に相談するなどして力になってくれる人を見つけること、仕事上でスペシャリティをもつことが有効だと教えてくれた。

スペシャリティを持っている人は、その知識・経験、技術が当てにされる分、時間的な拘束を免れやすい。越智さんもそういうポジションにあるので、育休や時短勤務の時期があっても必要とされる人材であり得たということだろう。

また越智さんと話していると、育休や時短を勧めてくれた上司との信頼関係の強さが感じられた。もし会社の制度が整っていなくても、上司の裁量や同僚の協力で改善できることもある。そんなときにも、普段の職場での人間関係や、仕事での貢献度は大きなポイントになるのでは、と考えさせられた。

☆☆
<参考情報>

  • うりとんBLOG
    越智さんの日々の子育ての様子や、子育て中家族に役立つ情報、「イクメン」についての考察など、役立つ情報満載のブログです!
  • イクメン企業アワード
    越智さんも推進メンバーである、厚労省のイクメンプロジェクトによる表彰制度です。
    男性の育児参加を積極的に促進しつつ、業務改善を図る企業を表彰し、表彰企業の取り組みを紹介することで、他企業のロールモデルとして普及させていくことにより、企業における働き方を改革し、育児と仕事の両立を推進するのが目的とのこと。
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☆☆

取材・文/やつづか えり 撮影/八塚 裕太郎(最後の写真のみ越智さん提供)

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