この記事によると、米国の複数の調査の結果で、企業が最も成功したワーク・ライフ・バランス施策と、社員が最も感謝しているワーク・ライフ・バランス施策は共に、「柔軟な勤務形態」だったそうです。
男性よ、もっと家事や育児をせよ! | オリジナル | 東洋経済オンライン
日本でも在宅勤務、フレックスタイム制、育児や介護のための休暇制度など、「柔軟な働き方」の必要性が叫ばれています。でも、制度を使う社員とそれ以外の社員との間であつれきがうまれたり、うまく運用されなかったりと必ずしも十分効果があがっていない組織があるようです。
最近感じるのは、組織の形や状況は千差万別であって、それぞれの組織に合ったかたちで制度の運用がされているかどうかで、結果が違ってくるんじゃないか、ということです。
たとえば好きな場所に暮らし、好きな仕事に打ち込む働き方でご紹介した伊藤さんの勤めるソニックガーデンさんでは、在宅勤務制度がとてもうまく行っているようです。一方アメリカのYahoo!は在宅勤務が会社の状態に悪影響を及ぼしていると判断し、禁止を方針として打ち出しました(参考:米Yahoo! の在宅勤務禁止は、大企業病の荒療治?)。
2つの会社は業界こそ同じIT系ですが、組織の形も状況も全然違います。どちらか一方を見て、「在宅勤務」はアリかナシか、ということは言えないと思うのです。
信頼度と自律心でみる組織の状況
組織を導入する時に注意すべきポイントのひとつは、組織の文化やその構成メンバーのスキルや性格・組み合わせから生まれる差異で、組織内の「信頼度」と、メンバーの「自律心」の高低で分類できるのではと考えました。
あくまでイメージですが、図にするとこんな感じです。
組織とメンバー間の信頼度も、メンバーの自律心も低い組織(図の水色の位置)というのは、たとえば単純労働のアルバイトばかりで構成されたチームが典型でしょう。
逆に、組織とメンバーの間の信頼度とメンバーの自律心が高い組織(図のピンクの位置)は、スキルも仕事にかける情熱も申し分なしのメンバーが集まり、組織の理念や目標もよく浸透しているような組織。少数精鋭のベンチャー企業に多いかもしれません。
ただ、世の中の大多数の組織というのは、この真ん中あたり、緑色のところに位置するのではないでしょうか。
経営側は社員を信頼していないわけではないけれど、在宅勤務のメンバーをきちんとマネジメントできるのかという疑問を持っていて、社員は社員で、在宅勤務だときっちり仕事をしていたとしても評価に響くのでは…というような不安を持っていて、といった答えの出にくいモヤモヤが出てくるのも、ここに位置する組織が多いのではないかと思います。
それぞれの状況に応じたやり方がある
この2軸、どちらも高ければ組織としてはメリットが多いでしょうが、低いからダメということでもないでしょう。
たとえば組織とメンバー間の信頼度が高い場合の理由としては、こんなことが考えられます。
- 良く知り合っているメンバーのみで構成された小さな組織だから(コミュニケーションコストが小さい)
- これまで長時間顔を合わせて一緒に働いてきたメンバーだから(あうんの呼吸)
- 担当業務に対してかなりの実績があるメンバーだから(リスクが小さい)
- 難易度が低く、結果がわかりやすい仕事だから(リスクが小さい、見えやすい)
逆に考えれば、組織が大きくなれば信頼感が高い状態を維持するには労力がかかるようになるし、新人メンバーについてはまずはトレーニングしたりその人となりを知ることで、信頼できる状態にしていく必要もあります。
メンバーの自律心(セルフマネジメント力と言ってもいいと思います)も、高い人がエライというわけではなくて、その仕事の経験が少なければ自分で判断できる領域は限られてくるし、性格的に定められた手順どおりにきちんとやることが好きという人もいるでしょう。育った国や文化によってもかなり変わってくるものです。
メンバー自らがどんどん動いていくような、なるべくマネジメントに労力をかけなくて良い組織を作りたいという経営者は、採用の段階で労力をかけて自律心が高くて信頼できる人たちを集めるでしょうし、とにかく人数が必要という局面では、そういったことよりもすぐに来てくれる人をどんどん採用する必要があり、かつ自律心は高くない人の方がかえってやりやすいかもしれません。
制度のあり方と運用方法というのは、それぞれの状況に応じて工夫ができるはずです。
たとえば信頼度も自律心も高いという組織の場合は、管理はしないほうがうまくいく、ルールはなくしていったほうがよい、ということもあるようです。
LINEの開発チームについて、NHN japan(現LINE株式会社)の森川社長と舛田執行役員はこんなふうに言っています(特にワークライフバランス施策についての話をしているわけではありませんが)。
「優秀な人材は、管理しないほうがうまくいくと思うんですよね。ですから、かなりの放任主義。」
「もう、いろんな国の人間が入ってきているので、行動原理、原則がシンプルでないと無理なんですよね。ヘンにプロセス化して、ヘンにシステム化しても、機能しない。それぞれがいろんなところで一線級でやっていた人間たちなので、それぞれのやり方がある。そうすると、よくあるフレームを当てはめるよりは、ゴールはどこで、行動原理はこれで、哲学はこれで、さあ、やろう、っていう方がうまくいく。実際、うまくいってきている」
冒頭に挙げたソニックガーデンの倉貫社長も、「マネジメントしない会社」を標榜されています。(セルフマネジメントのレベルと欠かせないスキル 〜 自己組織化されたチームを作るためには | Social Change!)
信頼度と自律心が高いメンバーばかりではないという組織の場合は、適度な管理の仕組みを入れたほうが、経営側も社員安心できるというメリットがあります。
株式会社テレワークマネジメントでは、大多数の社員が最初から在宅勤務という前提で入社をしているようです。それが成り立つように、各メンバーが自分の在籍・離席状況をリアルタイムに申告でき、また管理者はメンバーの在籍中にWebカメラやメンバーのPC画面のキャプチャによって彼らの業務状況をチェックできるしくみを導入しています。
「WebカメラやPC画面のキャプチャで監視されるなんて嫌だな…」と私なら思ってしまいます。でも、在宅勤務は仕事をしている姿が見えないがゆえに仕事の成果を見せなければいけないというプレッシャーを感じているメンバーもいて、そういう人たちからはこのようなしくみがあることで出勤して仕事しているのと同じようにすればいい、という安心感を持てると喜ばれるのだそうです。
(参考:【レポート】「テレワークならではの課題」を解決する『Sococo Team Space』 – 社員同士の現状把握で業務効率を大幅に改善 | エンタープライズ | マイナビニュース)
テレワークマネジメント社のようなやり方は、在宅勤務制度の導入のハードルを下げ、柔軟な働き方のできる人たちの裾野を広げる役割をはたすでしょう。
組織や対象となるメンバーによって、「管理しない」というのは無理だけど、ここまでの監視ツールも必要ないという中間にあたる状況も多いのではないかな、と思います。柔軟な働き方を可能にするためには自分の組織がどういう状態かを把握し、それに合わせて制度をカスタマイズしていくことが必要不可欠です。
また、組織の状態というのは変わっていくものなので、最初はうまくいっていても「なんだか最近おかしいな」と感じられるようになることもあるかもしれません。そういうときに軌道修正できるためには、普段から組織とメンバーとの、そしてメンバー間の信頼度を高める、「うまくいってないからなんとかしよう」と気づいた人から言い出せる、そして言われたほうもそれを受け止めて協力できる状態にしておくことが大事です。
最後の点については、子どもにふるさとを 〜会社を辞めないUターン〜でご紹介した田名辺さんの最近のブログを読んで大いに気付かされました。
code.rock: 同じ空気を吸う、という事
同じ働き方をして同じ空気を吸っていれば簡単に通じ合うことも共有できなくなってしまう、新しいやり方を導入するとそういう難しさはどうしてもあるわけですが、そこで「ダメだ」とあきらめず、良いノウハウが少しずつ共有されて、壁を超えていけるといいな、と思ってます。

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