My Desk and Team

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ライフワークと会社員の両立をめざして

2013/07/16   更新:2018/11/30

高橋和氣

Profile

高橋 和氣 Takahashi Kazuki

1983年、岩手県盛岡市生まれ。
筑波大学大学院修了後、消費財メーカーに就職。ERP導入のプロジェクトに携わり、その後、経営企画室に所属。
入社4年目に東日本大震災を受けて、自分の生まれ故郷・岩手の復興支援に携わりたいと会社に願い出た結果、承諾を得て、休職して被災地支援活動を始める。その後、NPO法人遠野まごころネットの長期ボランティア・スタッフとして従事。ウェブサイトのリニューアルや雇用創出事業のスタートアップなどに携わる。
また、2012年後半からは、出向という立ち位置で関わり続け、団体の垣根を越えて、多組織にまたがるメンバーとの協働や、マンパワーの足りないプロジェクトにスポットで応援に入るなど、地域・分野横断的に様々な取り組みに関与しながら、人や情報を繋いでいる。
(写真提供:高橋さん)

今回ご紹介する高橋和氣(たかはし かずき)さんの故郷は、盛岡市。祖父は東日本大震災により大きな被害を受けた岩手県大船渡市の出身で、その辺りには親類も多い。

2011年3月の震災発生時には東京にいた高橋さんだが、直後の4月から岩手に戻り、それ以来ずっと復興支援の活動に携わっている。

現在は復興支援団体「遠野まごころネット」の盛岡事務所を拠点に、岩手県全域、そして東京と、日々忙しく飛び回っている。そんな高橋さんだが、実は東京の生活用品メーカーの社員でもある。会社から「遠野まごころネット」に“出向”という形で活動しているのだ。

辞める覚悟で上司に相談、被災地へ

「岩手に戻って復興支援をしたい」
会社を辞める覚悟で、高橋さんが上司に申し出たのは、震災の2日後だった。

「最初は『ちょっと落ち着け』と言われたんですけど、どうしても行きたいということを伝えまして、休職して被災地に行く許可をもらったんです。
会社では予算編成の仕事などをしていて、それがちょうど一区切りつくタイミングでもあり、4月から休職しました」

まずは「休職」という形でそれまでの仕事を離れ、岩手に入った高橋さん。最初に訪れたのは、大船渡市の綾里地域だった。盛岡の実家から頼まれてその地に住んでいた親類の安否を確認しながら、支援物資の整理のボランティアをしたそうだ。

その後も、宮古市や陸前高田市などを訪れて知り合いにニーズを聞いてまわると、様々なところで人手が足りず困っていることが分かった。そんな状況の中、高橋さんは「遠野まごころネット」の存在を知る。

「遠野まごころネット」の拠点である遠野市は、岩手県の中でも盛岡や花巻といった内陸部と、宮古や釜石、大船渡などの沿岸部の中間地点にある。

当時、被害のひどい沿岸部では人手を必要としているものの、混乱していてボランティアの受け入れがうまくできる状態ではなかった。一方遠野市はほとんど被害がなく、かつ内陸部に比べて沿岸部に行きやすいという地理的な利点があることから、後方支援の拠点になっていたそうだ。

高橋さんは5月の中旬から「遠野まごころネット」での活動を始めた。

インタビューを行った「遠野まごころネット 東京事務所」。

インタビューを行った「遠野まごころネット 東京事務所」。

「休職」から「出向」へ

「遠野まごころネット」での最初の主な仕事は、支援物資の帳票整理だった。

高橋さんは、会社では経営企画部に所属し、社内の業務管理や業務設計の仕事をしていた。社内で新規事業が立ち上がるときに、業務の流れを整理してうまく回せるように支援していく、そんな経験が、混乱していた支援物資の出入りについて、管理方法を確立し把握できるようにしていくといったことに役立ったという。

その他にも、支援物資の配送、配送先で必要なことを聞いて回るニーズ調査、IT系のボランティアと組んで団体のWebサイトのリニューアルなど、最初は「遠野まごころネット」という団体内の仕事が多かった。

しかし被災地のニーズは時とともに変わり、高橋さんの仕事の内容や立ち位置も変わってくる。

2011年末頃からは、厚生労働省の緊急雇用創出事業でスタートした事業のサポート、他団体や行政との調整担当を行うようになった。また2012年からは大槌町で、仮設商店街内でのコミュニティスペースを立ち上げたり、被災した小学校をボランティアの宿泊スペースにする、といった活動にも携わっている。

仮設商店街にかかる虹。(写真提供:高橋さん)

仮設商店街にかかる虹。(写真提供:高橋さん)


会社で定められた休職可能な期間は、最長1年半だった。

その期限を迎えるとき、上司から「これからどうする?」と確認されたが、やるべきことはいくらでもある被災地で高橋さんの役割も大きくなっていくなか、途中で抜けるわけにはいかない。そう話し、上司と人事の担当者と検討して出てきた解決方法が「出向というかたちで活動を続ける」ということだった。

出向は期限付きで、2014年3月まで。その後は会社に戻ることが決まっているとは言え、会社としては、高橋さんの意思をかなり尊重した結果と言えるだろう。そこには何か会社側の意図があるのだろうか?

ひとつには、辞めないで戻ってきて欲しいという高橋さんへの期待があるだろう。そして、被災地支援のために会社から人材を提供する、という意味もある。また、最近では高橋さんの経験を新商品の開発に活かすという取り組みも行われている。高橋さんが被災者の声を伝えるなどの役割で、「緊急時に必要な家庭用品」の開発に参加しているそうだ。

ライフワークと会社での仕事

高橋さんの活動は岩手県の復興という範囲を超え、東北全域の明るい未来を作るための活動へと広がってきている。

そのひとつが「新しい東北創造会議」だ。

岩手、宮城、福島で活動してきた20〜30代のリーダーが集まり、これからの東北をどうしていきたいのか、そのために何をすべきなのかを徹底的に議論し、政策提言としてまとめ、7月7日には復興庁の坂井学政務官にプレゼンテーションをした。

この「新しい東北創造会議」に参画している高橋さんの思いを綴った文章が、Facebookページに掲載されている。この活動の意味や、高橋さんの覚悟が伝わってくる素晴らしい文賞なので、ぜひ読んでいただきたい。(リンク

この活動は政策提言をして終わりではなく、これからは秋田、青森、山形の人も巻き込んで議論を深め、実際にその未来を実現していくアクションへと続いていく予定だ。

復興の現場で活動している若手リーダー達は、こうした議論を展開しながら「もうひとつの日本」を作るくらいの大きなスケールで、本当に望む未来を構想しているそうだ。その未来は、国の復興計画とは相容れない部分もあり、その実現の前に立ちはだかる課題の数々を考えると無力感に襲われてしまうのではないかと心配になる。でも、高橋さんは「一生をかけたいい仕事ができる」と、とても前向きだ。
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そんなライフワークを見つけた高橋さんにとって、「会社」というのはどんな存在なのだろう。

「それでも、会社には所属していたいと思うのですか?」と聞いてみると、「日々揺れ動くところもある」と正直な気持ちを答えてくれた。

だが、会社を辞めるかどうか悩んでいるというよりは、ライフワークと会社での仕事を、どうバランスを取っていくか、その方法についていろいろと考えている最中のようだ。

「会社に戻ったらどういう働き方を提案していくかは、今考えているところです。
もう、家と仕事場を往復するだけのような生活には戻れない。でも、組織に属しながら、内側から組織を変えていくことには魅力を感じています。
会社の制度を変更していくのはすごく大変なことですが、どんな働き方が今後の社会に合っているのか、色々考えていて…。
たとえば、多くの民間企業も行政機関もそうだと思いますが、”副業”はなかなか認められる風土にはありません。うちの会社だってそうです。そうした組織が副業を認めない理由は、副業があると本業に集中できないからだと考えているからだと思いますが、会社の仕事にコミットする範囲を自分で決められるといいと思うし、逆に認めたほうがパフォーマンスが高くなることもあるかもしれないでしょう。
それから、今までみたいに“昇進”にインセンティブを感じる人が少なくなっていて、社員のモチベーションを高めるには別のものが必要ではないかと感じています。それが新しい制度としてうまく作っていければ、みんな生きやすくなると思うんです」

同じ志をもつ仲間と連携したい

会社に所属しながら、2年以上も通常の業務を離れて被災地での活動を続けるというのは、誰にでもできることではないだろう。でも、いきなり退職してしまうのではなく、上司とじっくり話し合ってみれば、高橋さんのように柔軟に対応してもらえることも、ひょっとしたらあるかもしれない。

復興支援活動に限らず、自分にとって大事なことがはっきりしていて、それを実現するためであれば、リスクを恐れずに行動できる。そんなときでも、闇雲に行動するのではなく、会社に対してどのように持ちかけるかや、味方を作っていくことは重要だ。

高橋さんは経営企画の仕事をしていたので、会社に対して相談する際に「こうやれば通じるのでは」というところは想像しやすかったという。また、後に他の人の話を聞く中で、最初は組織を動かせなくても、社内で仲間を作って動くことで最終的に認められる、というようなやり方もあることを学んだそうだ。

高橋さんは、会社で新しい働き方を実現していくこと、東北の未来を創造していくということ、それぞれについて、同じ志を持つ人とはガンガン連携していきたいそうだ。

組織の枠を超えて連携し、組織の内外から社会を変えていくために、高橋さんのビジョンに共感した方はぜひコンタクトをとってみてほしい。(高橋さんのFacebook

熱い思いと人当たりのよさを兼ね備えた高橋さん。

熱い思いと人当たりのよさを兼ね備えた高橋さん。

☆☆
取材・文/やつづか えり 撮影/岩間 達也(プロフィール写真と仮設商店街の写真は高橋さん提供)

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