My Desk and Team

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「仕事」でも「プライベート」でもない第三の自分

2013/06/17   更新:2018/11/30

浅井美和子さん

Profile

浅井 美和子 Asai Miwako

福岡県出身。大学卒業後、大手製薬メーカーに入社。その後学生時代からの目標だった海外生活を実現するために2年で退職し、1年間の日本語教師インターンとして豪州に赴任。
帰国後は海外のリゾート企業、医薬系広告代理店など勤務を経て、参天製薬株式会社に転職。現在は手術関連製品のマーケティング業務のほか事業部風土改革施策のプロジェクトなどを担当している。
プライベートでは2009年グロービス経営大学院大学に入学、2012年卒業。
在学中から徐々に「社会貢献」についての関心が芽生え、2013年1月よりサービスグラントが展開する大阪ホームタウンプロボノの第1期プロジェクトメンバーとして「地域が取り組む子育て支援」の実現に向けて、熱い仲間とともに事業計画の策定に取り組んでいる。

志の醸成との出会い

これだと思ったらまず飛び込んでやってみる!

今回ご紹介する浅井美和子さんはとても行動派の女性のようだ。

浅井さんは大学卒業後、製薬会社の営業マンだった亡き父の背中を追って同じ業界に進んだ。しかし当時与えられた業務は営業マンのサポートが主で、結婚したら退職が当り前の風潮に直面。OL生活は楽しかったが、一方で「自分らしいやりがいの持てるキャリア」が見つけられず、だんだんと違和感が増していった。と共に、大学在学中には果たすことができなかった小さいころからの「海外生活をしたい」という夢を実現するために、お金を貯めたら会社を辞めることを決意。結局2年で退職し、日本語教師としてオーストラリアに赴任した。帰国してからは、海外に関わる仕事にこだわって地元福岡から大阪の広告代理店に就職し、海外での製薬メーカーのプロモーション活動に従事。さらにその後、現在勤務する参天製薬に転職した。

当時職場では、浅井さんのような海外や国内でのシンポジウムや企業展示といったイベントプロモーションがこなせる人材が少なくとても重宝された。浅井さんにとってもそれまでに積み重ねた自分の経験を最大限に活かすことができ、次々に新しいチャレンジができる環境で「こうだ!」と思ったことを主体的に進められる、やればやるだけのやりがいを得られる仕事に没頭した。

ところが5,6年があっという間に過ぎた頃のある日、上司から「もっと幅広いスキルを身につけなさい」とのお達しが…。

この先も同じ業務をずっと続けていくのか、このままでいいのかな、という迷いが出始めていたその頃、この言葉をきっかけに、自身が弱みと思っていた論理思考力を高めてみようと、「グロービス経営大学院」に通い出した。

この大学院に通う学生は相応の職務経験を持った社会人に限られ、民間企業や官公庁など様々な分野で勤務し忙しい人ばかり。それでもそれぞれ業務や家庭に支障が出ないようやりくりしながら通っているそうだ。

この大学院が大切にしていることの一つに「志の醸成」というものがある。

「あなたの志は何なのか?」折に触れて投げかけられる問いに向き合い、浅井さんは「自分の人生をかけて、一定の時間をかけて成し得たいと、心の底から思えること」はなんなのか、徐々に考えるようになった。

それまでは仕事を終えたあとの時間やお金は自分が楽しむために使うことが多かったが、成長意欲高い仲間と出会い切磋琢磨しながら企業経営について学び進めていくうちに、「社会的価値を生み出すということ」について関心が芽生え、自分自身もだんだんと「他の人の役にたてる」「ひとりよがりじゃない道」を歩みたくなっていった。

勤務先では地域社会貢献の一環として視覚障がい者団体などとのスポーツを通じた交流・ボランティア支援や事業所周辺の環境美化活動などを行っている。以前はあまり関心がなく傍観者の一人だったが、大学院に進んだことをきっかけにそれまでの価値観・物の見方がだんだんと変わり、このような社会貢献活動にも参加するようになっていった。

出張の多い「仕事」と「プライベート」、そして課題に追われる「学生生活」でかなりハードな毎日を送りながらどうにか3年で大学院を卒業したころ、CSR部門の人がある日ふと、「浅井さん、こんなプログラムに関心ありますか?」と教えてくれたのが、特定非営利活動法人サービスグラントが運営する「大阪ホームタウンプロボノ」というプロジェクトだった。

プロボノってなに?

「プロボノ」とは、「社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門的知識を生かしたボランティア活動」のこと。

近年、日本国内でもプロボノに対する社会的関心は急速に高まりを見せており、新しい社会貢献のあり方として注目を集めている。

特定非営利活動法人サービスグラントは、2005年1月からビジネスのプロフェッショナルスキルを必要とする社会課題解決に取り組むNPOと、専門スキルを持つ社会人(プロボノワーカーと呼ばれている)とをマッチングすることで、NPOに対し少ないコストで利用価値の高い成果物を提供する支援を行っている団体だ。

サービスグラントが行っている「プロボノ」の大きな特徴としては

  • 異なる専門性を持つプロのスキルをもつ社会人でチームを編成
  • 本業との両立が可能な範囲での活動
  • 期限付き(6ヵ月程度)
  • サポートは、「お金」ではなく「プロジェクト」を通じて提供

などが挙げられる。

大阪の地下鉄阿波座駅近くのビルの2階にあるシェアオフィス「Facto」にある、サービスグラント関西事務局。

大阪の地下鉄阿波座駅近くのビルの2階にあるシェアオフィス「Facto」にある、サービスグラント関西事務局。

関西エリアでは2011年に活動を開始。

最近では、大阪で活躍する企業人たちがビジネスで培った経験やスキルを活かし、地元大阪の地域コミュニティづくりを応援するという形で市民参加できる、「大阪ホームタウンプロボノ」が本格展開を始めている。

支援内容としては、ウェブサイトやパンフレット制作、事業計画立案など、地域の基盤強化につながる効果的な成果物を提供している。

それまでに浅井さんは、東北復興支援の短期ボランティアや大阪市民フェスティバルでの運営スタッフ、視覚障がい者の手引きなど、単発でいくつかの活動に参加していたが、なかなか本腰を入れて取り組もうと思える活動には出会えていなかった。

しかし今回のサービスグランドの「プロボノ」は、

  • 「終わりの期限が決まっている(有期、6ヵ月程度)」こと
  • 「ビジネス経験を有する社会人」が主体であること
  • 身体で支援するボランティアでなく自分の持っている普段のビジネススキルが活かせて、自分の新たな経験にもつながりそうであること
  • チーム編成による連携を通じたグループワークスタイル

などのユニークなシステムが今の自分の志向に合いそうだ、と感じて、説明会に参加した帰り道、歩きながら内心「参加してみよう」と決めた。

ほどなくして実際に「プロボノ」の活動を始めてみると、そのスタイルは大学院のマーケティングやビジネスプランで取り組んでいたグループワークの「進化版」のようだった。

大学院でのクラスではあくまでも仮想の課題に対して解決策を見出す教室のなかの疑似体験でしかなかったが、「プロボノ」では実際にフィールドに飛び出し、支援を必要としている人たちに役立ててもらえる事業計画を考えることができる。今まで学んできたことを実践で生かせる機会と重なった。

浅井さんが現在取り組んでいるプロジェクトは鶴見区・緑「子育て支援のコミュニティビジネス可能性調査」というもの。

緑地域は、地域の様々なニーズに応えるコミュニティビジネスの立ち上げを検討中で、特に子育て支援分野における事業として小学生を対象として放課後や夜間、休日の預りサービスを地域で事業化していくことを考えている。

浅井さんたちのチームはそのための地域住民ニーズの把握と、新サービスを提供する場合に考えられるサービス内容、リスク対策、収支シミュレーション、スタッフ体制等を検討し提案していっている。

サードプレイスの出現

それまでは「仕事」と「プライベート」の2軸だった生活から、「プロボノ」という精神的・物理的な「サードプレイス」が新たに出現した浅井さん。この新しい三本目の軸をもったことで物理的には忙しくなったものの、精神的にはむしろそれまで以上のゆとりが生まれたそうだ。

「プロボノ」では、普段の生活では接点のない異なる世代や仕事をもつ人たちと出会い、幾度となく対話を重ね、ともに悩みながら地域と関わっていく。

一般にプロボノワーカーとして活動している人たちは、皆社会人としてそれぞれの勤務先で業務多忙な毎日を送っている。なので、いざプロジェクトが始まると、なかなかメンバーが一同に集まって話し合う時間をとるためのスケジュール調整が難しい。そのようななか比較的少人数の浅井さんたちのチームは、通常の仕事や個人の予定と同じテンションでプロボノ活動にも貪欲にコミット。忙しいスケジュールの合間を縫って、結果的には2週間に1回程度みんながそろって顔を合わせ、数時間集中して検討を行い、会わない間はメールやフェイスブック、サイボウズなどのツールをフル活用して検討を進めていくスタイルをとった。このようにして、見知らぬ者同士が「プロボノ」を通じて集まり、スタート直後から活動を通じてメンバー同士のきずなをどんどん深めていった。

このチームではリーダーはいない。メンバー3人が異なる場面でそれぞれの強みとリーダーシップを発揮してピンチは相互に補完しながら進めてきた。

プロジェクトワークでの浅井さんは「みわっち」という愛称で呼ばれ、混沌としている課題事象をメンバーの考えを引き出しながら整理していくことが得意。そんな議論の流れが本質的な検討になっているか、メンバーで一番若手の「かずくん」が、要所要所で確認を入れつつ手際よく資料に落とし込んでいく。地域の方と関わる大事な場面は、チームでも知識と経験がダントツ豊富で、周りを緊張させない和やかな空気を生み出す「いっきー」が全体進行を担う。

チームから地域の方々への中間提案の様子。(写真提供:サービスグラント)

チームから地域の方々への中間提案の様子。(写真提供:サービスグラント)

みどり地域活動協議会のみなさんと、中間提案を終えて。(写真提供:サービスグラント)

みどり地域活動協議会のみなさんと、中間提案を終えて。(写真提供:サービスグラント)

「誰が何をすると決めたわけではないのに、自然とそれぞれが得意な分野を引き受けて、チームが回っているのがとても心地よくて楽しいんです」と浅井さんはいう。

仕事がたてこんで行き詰まり、めげそうになることももちろんある。そんなときはどうやって乗り越えていくのか伺うと
「サービスグラントのプロボノは、一人じゃないから」
という返答が返ってきた。

自分だけだとついつい言い訳して甘やかしてしまうときもあるが、プロボノの提案を待ってくれている地域の人たちや、きっとどこかで忙しい時間の合間を縫ってワークしている仲間のことを想うと、仕事の疲れを忘れて自然に元気が湧いてくる。

もともと地域のために貢献したいという共通の目的で集まったもの同士、みんな口に出しては言わないけれども、プロジェクトが始動したあとはどんなに忙しかったり自身の作業が行き詰ったりしても、

  • 仕事や周りのせいにしない
  • 分担する役割を自ら手を挙げて担う

といった空気感がおのずと出来上がっていったそうだ。

プロボノ活動をするチームのメンバーと。(写真提供:サービスグラント)

プロボノ活動をするチームのメンバーと。(写真提供:サービスグラント)

現在進行しているプロジェクトももうすぐ終わりを迎える。けれど、「最終提案を完了したらそれでおしまい」ではなく、せっかくできた地域の方たちとの温かい繋がりを大切にしたい、そしてこのプロジェクトを通じて出会ったメンバーとも一期一会を大切に、何かまた別の形で一緒に活動できたら」と考えている。

プロジェクトが終わったら「プロボノワーカー」としてもう一度参加したいか?というアンケート調査によるとサービスグラントの「プロボノ」を経験した89%の人が「もう一度参加したい」という回答をしている。浅井さんにも同じ質問を投げかけてみると、「さすがに、休みなくプロボノワーカーとして続けるのは厳しい(笑)。けれど、今後もサービスグラントやプロボノ活動には様々な形で関わっていきたいし、今個人的に関心を寄せている、次を担う世代の育成や女性の社会進出にまつわる課題、あるいはBOPビジネスの分野であればプロボノに限らず取り組んでみたい」と、今後さらに幅を広げて活動する意欲をのぞかせた。

最後に、これから「プロボノ」の活動をしようと思っている方にメッセージをお願いした。

「短期的にみると、仕事だけでは自分の思い通りに経験やスキルを存分に発揮したり、意欲的に新しいことに取り組んだりできる機会は案外限られるものかもしれません。そんなとき、遊びでなく仕事でもない、必要としてくれる人たちが待っているフィールドでのびのびと自分らしく取り組める活動の場が『プロボノ』。もし関心が生まれたら、思案しているだけでなくほんの少しの勇気を足して行動に起こしてみる。そうして6か月の活動を通じて得た経験はきっと、会社でのこれからの業務に役立つ場面も出てくる…。よい連鎖が生まれる場であり仕組みだと思います。」

さぁ今後、浅井さんはどのような行動を起こしていくのか。これから先も楽しみだ。

サービスグラント関西事務局のスタッフの方たちと浅井さんの3ショット。みわっちという愛称で呼ばれていて和やかな関係性。

サービスグラント関西事務局のスタッフの方たちと浅井さんの3ショット。みわっちという愛称で呼ばれていて和やかな関係性。

☆☆
取材・文/渋沢 清夏 撮影/渡辺 智彦(一部の写真はサービスグラントより提供)

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