My Desk and Team

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「好き」と「得意」で、新たな収入源をつくる

2013/06/06   更新:2018/11/30

青木将美さん

Profile

青木 将美 Aoki Masami

ブツゾウアジト代表、東京にしがわ大学スタッフ、日本財団 経営支援グループ ファンドレイジングチーム。中央大学商学部卒。
大学2年の夏休みにみうらじゅん・いとうせいこう共著の「見仏記」を読んで以来仏像好きになる。以降、見仏三昧の日々を過ごす。特に奈良には通いどおし。東京のにしがわ生まれ・育ちにも関わらず、周囲からは奈良出身だと認識されている。
大学卒業後は10年以上システムエンジニアをしてきたが、2011年2月に会社都合による解雇にあったことと、直後に発生した東日本大震災により「働き方」を考えるため1年のブランクを設ける。ブランク中の学びから、「仏像でヒトビトの交流をうむキッカケをつくりたい!!」と思い、ブツゾウアジトを立ち上げる。
現在は、東京と奈良で街角のニッチな仏像のご案内、東京の多摩地域で「ゆるいつながりをつくる場」を作るお手伝い、日本財団で日本に寄付文化を醸成する業務などしながら、奈良市にアジトを設けるべく日々画策中。

「こちらにいらっしゃるのは十一面観音様。まわりには二十八部衆と言って、28人の神様が十一面観音様をお守りしています」

5月のある晴れた週末、東京都青梅市にあり、国の重要文化財にも指定されている「塩船観音寺」の本堂には、ガイドの説明を聴きながら、立ち並ぶ仏像に見入る人たちがいた。

これは「こってりからあっさりまで。意外と奥深いぞ正統派青梅仏ツアー」の一場面。

一行の先頭に立ち、ガイドの旗を掲げている女性が、今回紹介する青木将美(あおき まさみ)さんだ。

この日は青木さんの案内の元、(筆者とカメラマンも含め)8名の参加者たちが、徒歩とバスで4時間に渡る「青梅の仏さまめぐり」を楽しんだ。

仏像めぐりで地元の魅力を再発見

このツアーは、『東京にしがわ大学 キャンパスツアー2013』のプログラムのひとつとして実施された。

東京にしがわ大学』(通称『にわ大』)は、大学という名がついているが学校法人ではなく、特定の校舎があるのでもない。東京の西側に位置する多摩地域全体をキャンパスとみなし、地域の魅力の発見と人々の新しいつながりが生み出されるような様々な無料の授業を開催する団体および活動の名称だ。

『にわ大』は、興味のある授業があれば誰でも生徒になれる。そして、どんな授業をするかを企画するのも生徒を代表する「授業コーディネーター」と呼ばれる人。生徒が先生になることも、その逆もある。

今回行われた『東京にしがわ大学 キャンパスツアー2013』は、5月1日から6月1日の間、地域の市民が“ガイド”となって、その街の魅力を独自の視点で案内する「まち歩きツアー」を集中的に展開するという企画。

青木さんは、普段は団体職員の仕事をしつつ、『にわ大』スタッフとして授業の運営を手伝ったり、生徒として興味のある授業に参加したりしているが、今回は地元の魅力を伝えるガイド役を担った。

青梅で育ち、現在も青梅在住ということで地元を知り尽くしている上、青木さんは大の仏像好き。そこで、青梅の仏さまをめぐるツアーが企画されたのである。

訪れたのは、塩船観音寺と天寧寺。前者は真言宗、後者は曹洞宗の伝統を伝える、非常に貴重な文化財だ。

青木さんは、「こちらにいらっしゃるのは色々な病気を治してくれるという薬師如来さま…」「全体的に密教系はこってり、禅宗系はあっさりしたデザインで…」など、仏像とお寺への親しみをこめた口調で、それぞれの宗派の違いから現れる特徴などを、初心者にも分かりやすく面白く伝えてくれた。

参加者は、八王子市、多摩市、福生市など「にしがわ」に属する近隣の地区に住む人たち。普段青梅を通ることもあったけれど、緑豊かな住宅街を歩き、じっくりと仏像めぐりをするのは初めてということで、青梅の魅力を再発見したようだ。

青梅の住宅街を歩いてお寺に向かう一行。

青梅の住宅街を歩いてお寺に向かう一行。

お堂の中の仏像について説明する青木さん。

お堂の中の仏像について説明する青木さん。

住宅街の奥深くにあるシフォンケーキ屋さん「ちゃんちき堂のひみつ工場」でおやつを購入。地元を知り尽くしたガイドならではのチョイス!

住宅街の奥深くにあるシフォンケーキ屋さん「ちゃんちき堂のひみつ工場」でおやつを購入。地元を知り尽くしたガイドならではのチョイス!

豊富な「見仏経験」を活かしてオリジナルのツアーを企画

『にわ大』での仏像ツアーは今回が初めてだそうだが、青木さんはこれまでも以下のようなオリジナルでユニークな仏像ツアーを実施している。

  • 「ひっそりし過ぎだよ、もうちょっと主張しようよ仏ツアー」@お茶の水
  • 「東京仏像楽(ぶつぞうらく)ツアー」vol.0@上野
  • 「ハイソな街なのにマニアック仏が?!ツアー」@世田谷
  • 「クリスマスだってのにぢごく巡りツアー」@四ツ谷
  • 「東大寺は大仏だけぢゃないんだもんねツアー」@奈良

タイトルを見るだけでも、身近な街の新しい楽しみ方を発見できそうで、ワクワクしてしまう。この他にも、家族での観光向けなど、オーダーに応じたプライベートツアーも実施しているそう。

ガイドブック等には載っていないようなマニアックな、それでいて初心者にも面白い、独自視点での案内ができるのは、青木さんがただの「仏像好き」以上の仏像マニアだから。

青梅のツアーにて、天寧寺の副住職さんのご好意で普段は入れない天寧寺の山門の階上にある仏像を見せていただき、大興奮の青木さん。

青梅のツアーにて、天寧寺の副住職さんのご好意で普段は入れない天寧寺の山門の階上にある仏像を見せていただき、大興奮の青木さん。

大学生のとき、みうらじゅん氏といとうせいこう氏による『見仏記』を読んで以来仏像の魅力にハマった青木さん。全国各地に見仏に訪れているが、中でも特に見仏スポットが豊富な奈良には足繁く通い、生まれ育ちは東京の青梅なのに、奈良が地元だと勘違いされるほどだそう(笑)。

リストラ、震災を機に起業を志す

そして2012年、青木さんはその「見仏」を事業にすべく「ブツゾウアジト」というプロジェクトを立ち上げており、将来的にはNPO法人化して奈良に見仏の拠点を作ろうとしている。

青木さんは大学卒業後10年以上、システムエンジニアとしてデータベースやインフラ構築の専門スキルを磨いてきたが、2011年2月に会社都合で解雇されてしまう。

その直後に東日本大震災が起き、これからの生き方を考えた時、「複数の収入源を持つこと」が必要だと思い至った青木さんは、個人的にシステム構築の仕事も請け負いつつ、起業の道を探り始めたのだ。

その一貫として東京で社会事業家を養成する講座に参加し、「見仏」という自分の趣味と知識を活かし、仏像を通じて人々の交流を生みだす起業プラン構想。さらに奈良市主催の観光事業の立ち上げ支援プロジェクト「好きなまちで仕事を創るプロジェクト in 奈良」に参加することで、地縁がなかった奈良という土地とのつながりも作りつつ、プランを練り上げてきた。

その結果、現在は「観光マッチング」と「見仏人拠点」の2つのサービスを提供していくことを考えている。

「観光マッチング」では、知識豊富な見仏人とちょっとマニアックな観光をしてみたい観光客をマッチングする。

「奈良はひとつひとつの観光地が遠い上、交通の便が凄まじく悪くて、基本は車でないと動けないという問題点があります。また、京都や大阪のついでで、東大寺と興福寺だけ行って1日で帰ってしまう観光客がほとんどです。
それを踏まえて、『観光ガイドに載っているところはつまらない。もっとマニアックなところに行きたい』と思っている観光客と、『見に行きたい仏像があるけど遠い。お金がかかる』と悩んでる見仏人をマッチングさせるのが『観光マッチング』です。
観光客と見仏人で一緒に行ってもらうことで、観光客は自分で調べるだけなら絶対に行かないであろう場所を知識豊富な見仏人の案内で観光することができ、見仏人(案内人)はひとりで行くより安いコストで、お会いしたい仏像にお会いできる。もしかしたら、気が合って友達になるかも知れない。ブツゾウアジトはマッチング料を観光客からちょびっと頂く。これは、お互いハッピーじゃないかな、と思います」

「見仏人拠点」も、見仏経験豊富な青木さんならではのアイデアだ。

「私も含め、札所巡りをしている人がやりがちなのが、札所巡り用のご朱印帳を忘れてしまうこと。折角来たのにご朱印頂けない、って相当ヘコみます。
ご朱印帳以外でも偏光グラスや双眼鏡、小銭入れ(お賽銭やご朱印代に小銭は必須)など、家から持っていくのは手間だけど札所巡りには持っていたいモノがあります。そんな小物たちを専用ロッカーで預かっておく。これで、家を出るときは旅行の準備だけですみます。
また、京都や大阪と違って深夜バスで奈良についても、駅近にはお風呂や身支度を整える場所がありません。一部のホテルでお風呂に入れたりしますが、そこに泊まることが前提です。これだと日帰り強行軍の方は対応できない。タクシー使ってスーパー銭湯に行くか悩むわけです。更に、夜も早くにお店が閉まってしまうので、ちょっと遅くなってしまうと晩御飯を食べる場所がない。コンビニで買っても、どこで食べよう?となってしまう。
そんな方たちが、身支度を整えたり休憩できる場所を提供したいんです。
やるなら大和西大寺だ、と考えています。大和西大寺は近鉄のターミナル駅で、奈良はもちろん吉野にも、京都にも大阪・神戸にもアクセスの良い駅です。
と言いつつ、一番の理由は、大好きな西大寺が近いから、と言う超個人的理由が大きいですが」

ビジネスプラン発表が縁で就職

現在、青木さんは「ブツゾウアジト」の本格稼働の準備をしつつ、日本財団の職員として働いている。

オフィスでの青木さん

オフィスでの青木さん

その就職のきっかけがまた、とてもユニークだった。

前述の社会事業家の養成講座の中間成果発表会で、青木さんはクラスの代表として、ゲストの前でビジネスプランを発表することになった。

「ゲストが経済産業省の課長代理の方や日本財団の常務理事など錚々たる面々だったので、正直ビビリました。そのゲストの中に今の上司もいたんです。
プランが相当アホだったので、これは思い切りアホにやらないと相当マヌケなことになるなと思って、とにかく楽しんで面白がってプレゼンしたら、今の上司に『アホで面白いヤツがいる』と印象に残ったようで…」

その後、日本財団の実働部隊であるCANPANセンターにインターンに行く機会があり、寄付者のデータベースのデータ分析レポートを作成したところ、それが評価された。

「今の上司がスタッフを1人補充しないとならないタイミングになったときに、私を思い出していただけたようで、CANPANセンターでの評価も聞いて、『単なるアホではなく、仕事もできるのか』とお声かけ頂いた次第です」

「ブツゾウアジト」を立ち上げることは了解の元で、「そっちで食っていけるまでは、こっちを手伝って」というスカウトだったという。
そのため、立場は副業も可能な「嘱託職員」なのだそう。

「今やっていることは、上司のサポートとチームの各プロジェクト繁忙期のピンチヒッターです。あとは、HPの改修や展示パネル、パンフレット制作など、“見せ方”の部分です。ブツゾウアジトのプレゼンが、相当響いたようで…」

起業を応援しながら、青木さんの得意なことを見ぬいて仕事をさせてくれる上司がいるというのは、なかなか幸せなことではないだろうか。

仏像グッズでいっぱいの、青木さんのデスク。

仏像グッズでいっぱいの、青木さんのデスク。

青木さんの属する「ファンドレイジングチーム」では、チャリティオークションの開催や、ジュースを買うごとに10円の寄付ができる自動販売機の設置、歯科医師から集めた入れ歯や金歯などの金属からの換金など、様々な寄付・資金集めの方法とそれを使った社会貢献のプログラムを企画・運営し、その成果を分かりやすく報告することで、協力者も支援される側もうれしいしくみをたくさん作り出している。

そのような活動は、「ブツゾウアジト」で「観光客と見仏人と、彼らを受け入れる地域やお寺、それぞれがうれしいしくみ」を構想する青木さんの姿勢とも共通点が感じられる。日本財団での仕事は青木さんの起業にとっても良い糧になっているのではないだろうか。

奈良の拠点ができても、奈良にどっぷり浸かるのではなく東京での活動も継続したいという青木さん。一年の半分を奈良、半分を東京の「にしがわ」で過ごすのが夢だそう。

そうなると、団体職員と起業家とボランティア(『にしがわ大学』のスタッフ)という3つの活動のバランスも変わってきそうだが、そのときどきの状況に応じて、「好き」と「得意」を活かし、楽しみながら色々なことをやっている、そんな青木さんの姿が目に浮かぶ。

奈良に見仏人たちのアジトができたときには、ぜひ遊びに行ってみたい。

☆☆
近々、「ブツゾウアジト」の青木さんとしてのお話が聞けるイベントがあります。

「にしがわ大学」で初めて青木さんが先生役の授業も開催されます。

7〜8月には「ブツゾウアジト」としてのツアーも検討中ということなので、気になる方はFacebookページをチェックしてみてください!

☆☆

取材・文/やつづか えり 撮影/八塚 裕太郎(最後の2枚のみやつづか撮影)

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