My Desk and Team

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「育自分休暇制度」で海外ボランティアへ

2013/04/23   更新:2018/11/30

長山さん

Profile

長山 悦子 Nagayama Etsuko

サイボウズ株式会社にて、中小企業向けwebサービスのマーケティングプロモーションを担当。
1985年、群馬県生まれ。東京大学大学院卒。
旅をテーマに都市と地方をつなぐ民宿PRボランティア「ヤドノマド」の活動をはじめ、仕事で学んだスキルを生かしながら様々なNPOや任意団体の活動に携わり、「パラレルキャリア」を実践中。
仕事とボランティアの”2足のわらじ(パラレルキャリア)”の実践は、新しい働き方・ライフデザインの描きかたとしてTVニュース、書籍などで紹介されている。
2014年1月より会社の「育自分制度」を利用して、青年海外協力隊ボランティアで、2年間ボツワナ共和国に派遣予定。
「世界のチームワークをよくしたい」という思いを学生時代から持ち続け、オンラインコミュニケーションをベースとした新しい共創の可能性を探っている。

長山悦子(ながやま えつこ)さんは、勤務先のサイボウズ株式会社で主力製品「サイボウズOffice」のプロモーション担当として活躍しながら、自ら立ち上げた「ヤドノマド」というボランティアで地方の民宿のPRを行うなど、様々な社外活動にも精を出している。

その様子が、本業の他に自分の興味やスキルを活かして社会貢献活動をする「パラレルキャリア」の実践者として「ニュースJAPAN」(フジテレビ)でも取り上げられたほどの、アクティブな女性だ。

そんな彼女が、今度は「青年海外協力隊」のボランティアとしてアフリカのボツワナ共和国に派遣されることになった。

派遣期間は2年間。会社の「育自分休暇制度」という制度を利用して、いったんは退職するが、帰国後にまた復職するつもりなのだという。

ボツワナ行きが決まった経緯や、仕事、社会貢献に対する思いなどを聞いてみた。

使わなくても安心感につながる、会社のユニークな制度

サイボウズでは、社員が長く働き続けることができるよう、様々な取り組みを実施している。

短時間勤務制度、在宅勤務制度、6年間の育児介護休暇制度、ライフスタイルに合わせて働き方を選択できる選択型人事制度などに加え、最近よく耳にするのが「ウルトラワーク」という制度。

これは、働く時間にも場所にも全く制限がないという新しい働き方の呼び名で、現在は試験運用中という位置づけながら、好評につき運用期間が延長され続けているのだという。

以前から在宅勤務制度が運用されていた上、チームのコラボレーションを支援するWebツールを開発している会社だけあって、メンバーが異なる場所や時間で働くことにはもともとそれほどの抵抗感はなかったと思われる。しかし、「ウルトラワーク」という制度が導入されたことで、子育てや介護などの特別な事情のない人でも「明日はウルトラします」と言って会社に来ないで働くようなことがしやすくなった。結果として、多くの社員がこの制度を活用している。

でも、長山さんが「ウルトラする」ということはほとんどないのだそう。その理由は、会社が好きで、出社して仕事をするのが一番はかどるから。

「ウルトラワーク」の狙いは、社員ひとりひとりが一番効率よく働ける方法を自ら模索して実践していくことなので、長山さんのようなやり方もありなのだ。

そんな長山さんにとって、「ウルトラワーク」の存在は無意味なのかというと、そんなことはない。

「例えば、雪が降ってどんなに交通機関が乱れていても出社しなきゃいけないような会社に比べたら、『今日は外出しない方が効率的なので、家でウルトラします』と柔軟に切り替えられる方が、合理的、先進的でいいな、と思います。
私は今『ウルトラワーク』制度を使っていませんが、いつか、冬の間はボランティアで関わっている民宿に行って、雪下ろしを手伝いながらその場で会社の仕事もするようなことをやってみたいし、こういう制度があることで、将来子育てをするようになっても働き続けられるという安心感があります。
それに、社員それぞれのニーズを汲み取ろうという会社側の姿勢が感じられて、これからも社員が何か提案すればやってくれるかもしれない、という期待が持てるんですよ」

長山さんの言葉からは、社員が働き続けるためのサポートに本気で取り組むという会社からのメッセージがしっかり伝わって、社員の方も会社を信頼して働く意欲を高める、という好循環が起きていることが感じられた。

デスクワークの様子

会社が大好きだという長山さん。周りからも、「楽しそう」「いきいき働いているね」と言われる事が多いそう。

上司に背中を押され、海外行きが早まった

もうひとつのユニークな制度が、「育自分休暇制度」。

名称に「休暇」という文字はあるが、実際には休暇制度ではなく、一度退職した社員が6年以内であれば再び入社できるという制度だ。

長山さんはこの制度を利用して今年の7月末にいったん退職し、10月から国内で青年海外協力隊の研修を受け、来年1月にボツワナに旅立つ。2年間の活動を終えたら帰国し、またサイボウズで働きたいと考えている。再度入社するときは、会社を離れていた間に自分がどれだけ成長したかをプレゼンし、それによって査定が行われるのだそうだ。

会社が大好きだという長山さんが、どうして青年海外協力隊への参加を決めたのか、決まるまでの周囲の反応はどうだったのか、聞いてみた。

「青年海外協力隊は、あるとき会社帰りにふと『行ったらどうかな?』と思ったんです。それで少し考えてみたんですけど、会社には『育自分休暇制度』があったし、私は今結婚もしていなくて自由な身だし、今行かない理由がないな、と…」

その後、長山さんは直属の上司にそのことを相談した。

サイボウズでは、毎週1回30分、上司と部下が1対1で雑談ミーティングをする時間が設けられている。そのミーティングの場で長山さんの話を聞いた上司はすぐに、「ぜひ行きなさい」と言ってくれたのだという。

「上司に話したのが9月です。青年海外協力隊は秋募集と春募集があるので、春に応募しようかな、と思ってたんですが、上司が試しに秋に受けてみたらと言ってくれて、10月に試験を受けました」

そして、見事合格した長山さん。上司に背中を押され、予定より半年早く、転身することになったのだ。
interview
長山さんの決断に上司が賛成してくれたのは、その人が親身で度量が広かったということもあるが、長山さんの興味関心の方向性が周囲によく理解されていたということもありそうだ。友人や同僚も、びっくりしつつ「やっぱりね」という反応だったという。

というのも、長山さんは東大大学院の国際協力学専攻を卒業しており、国内外の地域の発展や活性化に強い関心を抱いてきた。

もっと遡ると、中学校の授業で自然エネルギーについて調べたことをきっかけに、科学技術で途上国の発展に貢献したいと考えるようになり、群馬高専に進学。そこでは農薬の基礎開発の研究室に入った。しかし、研究者として働くよりは現場に出て行って人とコミュニケーションすることの方が向いているのではないかと、進路の方向を変える。その頃、青年海外協力隊に行くことも考えたそうだが、何も知らないで行くよりは国際協力について学んでからの方が良いと、大学院行きを決めたのだそう。

そして、大学院時代に参加した研修を通し、長山さんは「途上国」と「先進国」を分けて考えるのはナンセンスだと考えるようになる。先進国である日本でも、地方には途上国と似たような課題を抱えているところがある、ということに気づいたからだ。

冒頭に触れた「ヤドノマド」は、そんな長山さんによる、課題解決のアクションのひとつだ。自然がいっぱいの田舎の良さを紹介したり、民宿の情報にWebでアクセスしやすくすることで都会の人たちにその魅力を知ってもらう機会を増やし、地方の活性化を支援できるのでは、という思いから始まっている。

ただ、活動の範囲を日本国内に留めるつもりはなく、やはり海外に住んでみて、そこでどういうコミュニケーションが可能なのか試してみたい、という思いはずっと抱いていた。そしてふと、「今がその時」ということを感じたようだ。

「ボツワナ」という行き先は、第3希望まであげていた希望国の中から選ばれたそうだが、重視していたのは職種と仕事(受け入れ国側の要請内容)で、決まった時に「ボツワナってどこだ?」と思ったくらい、国にはこだわりがなかったという。

長山さんの選択の基準は、「なるべく現場に行けそうなところ」だった。

青年海外協力隊の活動にもいろいろあり、同じ途上国に派遣されても、都市部の役場などに勤務する場合もあれば、地方の村で活動することもある。長山さんは、「コミュニティ開発」という職種を選び、その中でも、村に入り込んで活動できそうな場所を選んだそうだ。

サイボウズ入社の理由

ここまでの話を聞くと、長山さんがJICAや途上国支援のNPO、あるいは開発コンサルタントなどの道を選ばず、なぜサイボウズに入社することになったのか、不思議に感じられる。

「少し天邪鬼なところもあって…」と笑う長山さんは、次のように説明してくれた。

大学院での経験を経て、長山さんのテーマは、いかに普通の人たちと協力しあって、世界を良くするアクションを起こしていけるか、ということに行き着いた。

だから、途上国や地域の発展を目指してそれにどっぷり浸かっている人たちと働くよりは、一般の企業で何ができるかを考え、Webでのコミュニケーションを学ぼうと決めた。そして、大きな企業よりも、今成長中のベンチャー気質のある会社の方が、短い時間でたくさんのことが経験できるだろうと、サイボウズへの入社を希望したのだという。

オフィスの入り口に立つ、企業キャラクター「ボウズマン」と。

オフィスの入り口に立つ、企業キャラクター「ボウズマン」と。

入社後、長山さんは希望していた「サイボウズLive」という製品の担当になる。

この「サイボウズLive」は、パソコンや携帯、スマートフォンから無料で利用できるプロジェクト管理ツールで、「ヤドノマド」のような、何かアクションを起こしたいと集まった人たちが気軽に利用することができる。

長山さんは、製品の企画・導入サポート担当という仕事を通じ、目標であったWebでのコミュニケーション、プロジェクトマネジメントのスキルを身につけ、さらに「サイボウズLive」をNPOやボランティアでうまく使う方法を積極的に発信するなど、自分の興味関心をうまくクロスさせて仕事を充実させてきた。

個々人の感情をアクションにつなげられる世の中を目指して

「以前は、途上国などの情報は入ってくるけれど、それに対して何もできないという哀しい気持ちを持っていました。でも、今はこういう情報共有ツールやクラウドファンディングなどを使って、『何かしたい』という個人の感情を具体的なアクションにすることがやりやすくなっているんです。
例えば私が遠く離れたガーナの子どもたちと一緒に何かをする、ということも実現可能で、それで全部の問題が解決しなくても、ひとりひとりが何かしたいという感情を具体的なアクションに変えられて、リアルにつながっていると感じられればいいと思うんです」

サイボウズでの経験により、プロジェクトの推進にWebを活用するという仕組みの部分は自信が付いた。あとは、チーム作りやファシリテーションといったソフト面でのスキルを身につけたいと、長山さん。

2年の海外派遣を終えて帰国した時、彼女はさらに成長し、日本でやりたいこと、会社でやりたいことも沢山持ち帰ってくるのではないかと思う。ぜひそのときに、もう一度インタビューさせてもらいたい。

☆☆
取材・文/やつづか えり 撮影/岩間 達也

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