My Desk and Team

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打ちこめる趣味があるから、仕事も頑張れる

2013/04/04   更新:2018/11/30

西田さん

Profile

西田 守子 Nishida Moriko
神奈川県横浜市出身。
短大卒業後、住宅メーカーに勤務。5年勤務後、退社。ふと思い立ち、スキー場でアルバイトを始める。そこでスノーボードにはまり、新潟と地元を行ったり来たりの生活を7年程送る。
2005年、以前より好きだったパタゴニアに入社。会社のある鎌倉近辺に住まいを移し、トレイルランニングを始める。現在は、仕事とトレイルランニングを両立できるよう、日々、試行錯誤中。

パタゴニアは、ロッククライミングやサーフィンなどのアウトドアスポーツのウエアやグッズを製造・販売するアメリカの会社だ。

今回訪ねた日本支社のオフィスは、鎌倉駅からほど近く、由比が浜の海までも歩いて行けるという、とてもうらやましい環境にある。

インタビューさせてもらったのは、経理部門で働く西田守子(にしだ もりこ)さん。

一般的な「経理部の人」のイメージとは違って、Tシャツに、鮮やかなピンク色のパーカー、ダウンジャケットというカジュアルなスタイルがよく似合う。どれも、パタゴニアの製品だそうだ。

 

後ろに見える建物の1階がパタゴニア鎌倉店。オフィスはその上の階にある。

後ろに見える建物の1階がパタゴニア鎌倉店。オフィスはその上の階にある。

社員が自社商品を選ぶ理由

西田さんに限らず、パタゴニアのスタッフは日頃から自社の製品を愛用していて、人気のあるチェックのシャツなどは、社内で偶然ペアルックになってしまうこともあるのだそう。

店員ではないから自社の服を着てくるという決まりがあるわけではないだろう。だが、パタゴニアの社員はある共通点をもっているが故に自然に自社の服を選ぶのかもしれないと、西田さんとお話ししていて感じた。

その共通点とは、「アウトドアスポーツが好き」ということと、「環境問題に関心がある」ということ。この2つは、同社がスタッフ採用時に特に重視する点としてWebサイトにも明記されている。

これらは同社のビジネスにとって、そして社会にとって重要なことではあるだろうが、「職務経験」や「コミュニケーション力」といったことよりもこの2つを「特に重視する」と明言する会社は、めずらしいのではないだろうか。

しかし、同社の理念を知ると、この2点が重視される理由と、社員が自社の服を選ぶ理由が見えてくる。

以下はパタゴニアのミッション・ステートメントである。

最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。

創業者であるイヴォン・シュイナード他の著作『社員をサーフィンに行かせよう』や『レスポンシブル・カンパニー』を読むと、このミッション・ステートメントはきれいごとではなく、同社はこれを実現することが自分たちの存在意義であるとして、たゆまぬ努力を重ねていることが分かる。

スタッフに「アウトドアスポーツ好き」を求めるのは、「最高の製品」を作り、顧客に適切に提供するためには、開発者や店舗スタッフ自身がアウトドアスポーツの経験と知識を有していなければいけないと考えているからだ。

また、環境負荷をいかに下げるかということに関しては、環境問題の担当部署だけでなく、素材開発や製品デザインの段階から、社員全員がそれぞれの担当業務においてできることを追求すべし、という考え方がある。そのために、「環境問題に関心をもつ」というのは最低限必要とされる資質なのだ。

そういう資質を持つ社員だからこそ、品質においても、環境への配慮という面においても、信頼できる自社の商品を選ぶことが多くなるのではないか、と感じたのだった(もちろん、社員だから割引で買えるとか、いつも目にしているから欲しくなる、という理由もあるとは思うが)。

パタゴニアは綿の栽培過程で起きる環境汚染を問題視し、1996年以降、すべてのコットン製品をオーガニック栽培されたコットンを使用して製造している。

パタゴニアは綿の栽培過程で起きる環境汚染を問題視し、1996年以降、すべてのコットン製品をオーガニック栽培されたコットンを使用して製造している。

鎌倉に来て、トレイルランニングにはまった

トレイルランニングを楽しむ西田さん。

トレイルランニングを楽しむ西田さん。

当然西田さんも、アウトドアスポーツ好きである。

以前はスキー場でアルバイトをしていてスノーボードにはまっていたというが、現在はもっぱらトレイルランニングに熱中している。

きっかけは、パタゴニアに入社し、鎌倉に住むようになったこと。

鎌倉にはハイキングコースがたくさんあり、最初は歩いていたのだが、「ここを走るとトレイルランニングになるんだ」と気づいて、走るようになった。すぐに始められる環境があったのが大きかったという。

平日も、気が向けばオフィスから自宅まで5キロくらいの道のりを、遠回りして10キロくらい走って帰る。

また、毎週水曜日には「イブニングラン」といって、2〜6名くらいのスタッフで一緒に走っている。これはもともと始業前に走る「モーニングラン」だったのだが、震災後、節電のために9時から18時だった業務時間を8時から17時に早めたため、朝では時間が早すぎると、夕方にシフトしたのだという。

「イブニングラン」の場合、会社の周りを走ってまた戻ってくるので、その後に仕事を続けることもできる。だが、通常はなるべく残業はせず、17時か17時半には帰るようにしている。

これは西田さんだけでなく、早く帰って自分の好きなことをしたり家族と一緒に過ごしたりする時間を大切にしよう、という考え方が会社の文化として根付いているのだそう。

「社員をサーフィンに行かせよう」は本当?

interview
残業をしないで早く帰ることを推奨するだけでなく、『社員をサーフィンに行かせよう』という本には、勤務時間中であってもサーフィンに行きたければ行ってよい、という考え方が書かれている。

「サーフィン」は一例で、他のスポーツでもいいのだが、その真意はこうだ。

アウトドアスポーツは自然のコンディションに左右されるもので、いつ良い波が来るかなんてあらかじめ分かるものではない。サーファーとしては、いつサーフィンに行っても差し支えがないよう、責任や計画性や余裕を持って仕事をすること、社員同士カバーしあえるよう、ひとりで抱え込まないでよくコミュニケーションをとること、仕事と趣味のバランスをとって生産性を上げることなどが求められ、会社としては社員がそのようにできることを信じで任せる、という考え方なのだ。

とは言え、これはアメリカで始まった話。日本ではなかなか難しいのでは…と思い、本当に社員は仕事中にサーフィンに行くんですか? と聞くと、あっさり「行きますよ」という答えが返ってきた。

「もちろん仕事の状況が許せばですが、『行ってくるね』と言われたら『どうぞ〜』という感じ。私はサーフィンはやりませんが、お天気がいい時とか、走りに行きたいな、と思えば都合をつけて行くことができます」

ただ、西田さんの場合は仕事の途中よりも、全部終わらせてから走りに行く方が好きなのだそう。

「私の場合、ランから戻ってきてからだと仕事ができなくなっちゃう気がするんです。それよりも、今日は絶対何時までに終わらせて走りに行くぞ!と気合を入れるほうが、頑張れますね」

それぞれが自分にあったやり方で、仕事と趣味のバランスを取れるからこそ、仕事も頑張ることができるのだろう。

みんなが、仕事以外にも打ち込めるものを持っている

鎌倉店のトレイルランニングウエアのコーナーで。

鎌倉店のトレイルランニングウエアのコーナーで。

西田さんが感じるパタゴニアと他の組織の違いは、「全員が、仕事以外に楽しみを持っていること」だという。

「みんな何か好きなことがあるので、仕事のときでも『最近どこに行った?』とか『何をやってるの?』といったプライベートなことも交えて話しをすると、お互いの共通点が見つかったり、自分がやらないスポーツのことを教えてもらえたりと話が広がって、コミュニケーションのきっかけになるんです」

それぞれ趣味を持っているだけでなく、そのことをお互いに共有し、尊重しているからこそ、仕事中でもスポーツに行く人を気持ちよく送り出したり、ワークライフバランスを大切にしたりということが自然にできるのかもしれない。

また、スポーツだけでなく環境問題について詳しい人が多いのも、同社の特徴だ。

西田さんは、以前はそれほど環境のことを気にしていなかったが、パタゴニアに入ってからは、周りの社員と話をしたりしているうちに自然と環境意識が高まり、行動にも変化が現れたという。

例えば、以前よりもものを大切にするようになった。買い物をするときも、むやみに買わずに、それがどういうところで作られたものかを考えて、できるだけパタゴニアと近い考え方を持っているところから買うようになったそうだ。

60,70になっても、健康で走り続けていたい

最後に、西田さんに今後の目標を聞いてみた。

仕事については、経理の仕事をするようになってまだ2年目なので、もっと仕事を覚えて先輩方のようにどんと構えていられるようになりたい、とのこと。

アクティブな西田さんだが、事務作業は好きで、コツコツとやるような作業は向いていると感じているそうだ。

プライベートな面では、60歳、70歳になっても健康で走り続けていることが目標だそう。

「レースに出て他の出場者の年齢を見ると70代の方もよくいらっしゃるんです。その歳になってレースに出る自信があるというのが素晴らしいな、と思って。
怪我に気をつけて、無理をせずにトレーニングを続け、走り続けていたいです」

いつかおばあさんになって、颯爽と走る西田さんの姿を見てみたい。そのためには、自分自身も健康に気を使わねば!と気付かされるインタビューだった。

☆☆
環境保護への取り組みを第一義とし、社員の自律を尊重するパタゴニアの考え方に興味を持たれた方は、ぜひこの2冊の本も読んでみてください。
『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア創業者の経営論』
『レスポンシブル・カンパニー』

また、今回のインタビューのきっかけになった、日本支社長の辻井隆行さんとショップ店員の方のお話、「社員への信頼、社員からの信頼」もぜひご覧ください。
☆☆

取材・文/やつづか えり 撮影/岩間 達也 (プロフィールおよびランニング中の写真は西田さん提供)

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