My Desk and Team

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「個」と「組織」の、強くて新しい結びつきかた

2013/03/27   更新:2018/11/30

「外部の専門知識・スキルの活用」、「人件費の削減」、「景気の変動による業務量の変化への対応」といった目的で、フリーランスに業務を委託する会社が増えている。

特定の個人と継続的に契約を結ぶ場合もあれば、最近では「クラウドソーシング」といって、不特定多数のフリーランサーに単発の仕事を依頼できるWebサービスも増えている。業務の内容にもよるが、こういったものを利用して、世界各国のプロフェッショナルに安価に仕事を頼むことも可能になってきた。

今回紹介する有限会社エコネットワークス(以下ENW)も、フリーランサーを含む、国内外の個人の力を最大限活用して業務を行なっている会社だ。

だが、ENWが個人と一緒に仕事をするのは、冒頭に挙げたような一般的な目的意識とは異なるようだ。

Webサイトには、

従来の「会社と従業員」に依存しない、「個」と「組織」の新たな関係性を模索し、 ライフステージに合わせた柔軟なワークスタイルで多様な個の参加を実現します。

と書かれている。

組織と個人の新しい関係性を生み出そうとしているENWの取り組みについて、取締役の野澤健(のざわ たけし)さんと、運営パートナーとして参加している4人の方々にお話をうかがった。

コワーキングの様子

インタビューは、ときどき「あえて」行うというコワーキングの場におじゃまして行った。

エコネットワークスの仕事のしかた

ENWは、いわゆる社員として専業で働いているのは代表の小林さんと野澤さんも含めて3名のみと、とてもコンパクトな会社だ。

だが、環境・サステナビリティという分野に専門特化し、国内・海外に広がるネットワークを強みとしながら、リサーチ、翻訳、コンテンツ制作やコンサルティングといったサービスを、大企業や政府機関を中心に数多く提供している。

このENWのサービス・活動を支えるのが、専門性をもった個人のパートナー達。ENWではそれを、「個」のゆるやかな集合体として、「チーム・サステナビリティ」と呼んでいる。
プロジェクトごとにチームを編成して仕事を進めるメンバーが、現在は20名ほどいる。その内6〜7名のメンバーは、「運営パートナー」としてこうした「個」のネットワーク作り自体にも深く関わっている。

専業メンバーであれ、運営パートナーであれ、普段はほとんど会わずにSkypeやメールのやりとりだけで仕事が進んでいく。また、各自の状況や希望に応じて、プロジェクトに関わる割合や役割を都度調整するという。

そういったやり方が、海外や地方の優秀なフリーランスや子育てなどでフルタイムで働けない人にも、プロジェクトに参加してもらうことを可能にしているのだ。

相互に学び合い、自立を支援するネットワーク

coworking
ENWが目指すのは、単に個人と仕事をするだけでなく、ひとりひとりの夢やサステナブルな生活へのシフトの力になること。そのために、ネットワークの参加者同士が、互いにライフスタイルやワークスタイルについてノウハウを共有し、学び合えるような場づくりをしようとしている。

具体的には、各自のノウハウやプロジェクトの経験を共有する勉強会を開いたり、「スキルシート」というツールを使って各自のスキルを棚卸し、次のステップを考えるといったスキルアップ、キャリアアップの支援をしている。(参考:ENWがWebサイトで公開しているスキルシート

小林さんや野澤さんがメンバーをプロジェクトにアサインするときは、各自のスキルのほかに、今後の働き方や仕事内容の希望などを考慮する。また、同じプロジェクトでもメンバーを入れ替えていくことで、相互のつながりや相乗効果が発生するような工夫もしているそうだ。

「個」と「多様性」を大切にし、ひとりひとりのライフステージや希望に合った働き方や成長をを支援するENWの姿勢は、どこから来ているのか?

野澤さんはこのように答えてくれた。

「私たちは、自らサステナブルに変化し続け、『個』が輝くことでチームが輝き、チームとして学び、培った『サステナビリティにとってよいこと』を社会に還元していくことを目指しています。それには一人ひとりが、自分のあり方を考え、変化・成長の機会を創っていくと同時に、多様な『個』の混ざり合いが価値を生んでいくような組織を作っていくことが必要だと考えています。」

フリーランスマインドをもったチームが心地よい

小野さん
女性フリーランスをつなぐプラットフォームである「Rhythmoon(リズムーン)」プロジェクトの代表としても活躍する小野梨奈(おの りな)さんは、2011年の秋頃からENWの仕事をするようになった。

きっかけは2人めのお子さんの出産を機に、仕事のしかたや内容を見つめなおしたこと。

それまでやってきたWebプロデューサーという仕事から幅を広げたい、日本でも海外でも仕事ができるようになりたいと考え、海外とのネットワークがあり、バーチャルなチームで仕事をしているENWの仕事に興味をもったそうだ。

現在は顧客むけのプロジェクトに参加するほか、運営メンバーとして「チーム・サステナビリティ」のコンセプトを具体的な企画にしていくという形で、深くコミットしている。

小野さんによれば、チーム・サステナビリティのメンバーはそれぞれが「フリーランスマインド」を持っている。雇われているという受動的な感覚ではなく、自ら能動的にチームに関わる姿勢があり、どうやったらENWとメンバーひとりひとりが成長できるのかということを真剣に話し合い、提案する。そんなメンバーとの仕事は、とてもやりやすく心地よいのだという。

「以前に会社に所属していたときは会社の歯車のような感覚で、決められた方針に従うのが当たり前だと考えていました。でも、ENWの活動を通じて、そうじゃない組織のあり方があるんだ、と分かりました」

印象的だったのは、組織の理念をリニューアルしたときのこと。

「経営者である小林さんや野澤さんが決めるのではなく、私たちを巻き込んで一緒に考えて、全部聞いて、なるべくみんなの思いが詰まったビジョンになるように、2〜3ヶ月かけて作っていったんですよ。すごく時間がかかって手間だと思うんですけど、そういうやり方に意味や価値を感じているということが、伝わって来ました」

仕事以外のいろいろな話もできるのがうれしい

千田さん
千田智美(ちだ ともみ)さんは、学生時代から始めた翻訳の仕事の中で出会った文書をきっかけに、サステナビリティに関心をもつようになった。もっとこの分野の仕事をしたいと「サステナビリティ 翻訳」というキーワードで検索したところ、ENWを知ったのだそうだ。

現在は海外事例のリサーチとレポート作成、翻訳、翻訳コーディネートをしながら、運営パートナーとしてENWのメンバー開拓や運営の企画などにも関わっている。

ENWの仕事とそれ以外の仕事が半々くらいの割合ということなので、ENWと他の会社との違いを聞いてみた。

「ENWで出会う方はいい人ばかり。
そして、仕事だけのお付き合いじゃなくて、いろんな話をできるのがうれしいです。
今日みたいにコワーキングの場で直接話すこともあるし、Skypeでミーティングするときもいきなり仕事の話にはいるのではなく、『チェックイン』と呼んでいるのですが、最初に一言ずつ近況を話したりします。
Facebookグループでもやりとりをしていますが、環境や社会のことに興味のある人が多いので、身近な人とはしにくい話ができたり、いろんな情報をシェアしてもらえるのもありがたいです」

当初は、フリーランスとしてひとりで働いていると世界が狭くなってしまうのでは、という心配があったそうだが、ENWでのつながりは孤独感を払拭してくれるようだ。

「ENWに関わっているみなさんは、それぞれ違う場所にいて、違うものを見ているので、みんなで話すと多様な視点が加わったり、おもしろい発想が生まれたりします。
こうやって会ったときには、もっとたくさん他愛のない話もしたいんですけど、めったに会わないから仕事の重要な話が優先になってしまうのがちょっと残念です。
でも、しょっちゅう会わないのが、逆にいつまでも新鮮な感じが保てていいんだと思います」

個人としての関係を築けるのが喜び

硲さん
千田さんとは大学の同級生だったという硲允(はざま まこと)さん。ENWのことも千田さんから聞いて知ったそう。

その当時、会社を辞め、その後の仕事を数ヶ月模索した後、フリーランスとしてやっていこうと色々な翻訳会社に連絡をしたが、返事のないところも多かった。そんな中でENWはすぐに連絡をくれ、小林さんと野澤さんと会って話をしたところから、ENWでの仕事が始まった。

「初めて会ったのに、何でも正直に話せるのが自分でも不思議でした。個人同士の関係を大事にしているのが伝わってきて、組織として不都合なことであっても、自分の想いを率直に述べることを求められているような気がして、そういうところに心地よさを感じました」

現在はプロジェクトの状況に応じて、ENWの仕事が8割くらいになることもあれば2割程度のこともある。ENWの仕事にどれくらいの時間を充てたいかを定期的に確認するが、それはあくまでも目安で、状況によって柔軟性をもたせているという。

以前の仕事は、英語でリサーチしたことを日本語でレポートするというもので、今の仕事と似たところもあるということだが、働き方はフリーランスの方が合っていると感じているそうだ。

「前の会社でも、毎日出社するという感じでもなかったのですが、今の方が基本的にはどこでも仕事ができます。どこか決まった場所に行かなくてもいいのは、やりやすいです。
それに、仕事はプロジェクトごとに発生するので、来たものをなんでもやるのではなく、自分が関心のあるプロジェクトを選ぶ、というのも違いますね。特にENWでは、自分の関心の有無を率直に言える雰囲気があります」

また、フリーランスとして関わる上でのENWと他の会社との違いについても話してくれた。

「翻訳の仕事と言うと、自分一人でパソコンに向かって翻訳をする以外には、メールでの原稿のやり取りが主で、人間的な関係が生まれる機会が限られています。でもENWでは、年に2回のキャンプで、それぞれが思い描いている未来や、家族のこと、仕事のこと、社会のことなどについて個人的な想いを深く話し合うことができて、そういう機会をとてもありがたく思っています」

細くても長く続く関係でありたい

大田さん

写真提供:大田さん

大田朋子さんは、スペイン在住プロジェクト・プロデューサーとして世界の様々なプロジェクトに関わりながら、ライターとしても日本の様々な媒体に海外のレポート等を執筆している(大田さんのブログでも、そのグローバルな仕事と生活の様子を垣間見ることができる)。取材当日も、スペインの自宅からSkypeでミーティングに参加していた。

ENWとつながりができるきっかけは、3〜4年前にある仕事で野澤さんと一緒に仕事をする機会があったこと(ちなみにその当時はブエノスアイレスに住んでいたそう)。

それ以来何度も仕事で関わるうちに、メールやSkypeでお互いの関心事についても話しあうように。「個人がその人らしい働き方をするお手伝いを組織がサポートすることで人が働きやすい社会を実現していきたい」という思いに共感して自然と経営の話などもするようになり、運営パートナーとして、ENWの内部からの盛り上げにも参加するようになったのだという。

プロジェクトの状況にもよるが、大田さんの仕事の中でENWの占める割合は1割から多くても3〜4割。また、数カ月後に予定している第2子の出産後は、パートナーとともに仕事の量をぐっと減らして育児セミリタイア期間を取る予定だ。

ただ、ENWとの関係は細くても長く続いていくものと考えていて、仕事の量を減らすとしても、自分のできる時間と分野の範囲で関わっていくつもりだという。

ブエノスアイレス時代には自ら会社を起こした経験もある大田さん。ENWとの関係は、フリーランスとして関わりながらも経営視点で話ができるところが、他の会社と違うところだそう。

「一般的には、経営視点がないままにフリーランスでやっていくのは厳しいのではないかと感じています。
ENWさんとの関わりの中では、小林さんたちの経営の視点に触れながら、金銭的・時間的な自由を謳歌できる自立したフリーになるための学びが得られる。そういうところが魅力ではないでしょうか」

せっかく距離を超えてチームを組んでいるのだから、その利点が活きるように、大田さんだからこその価値を提供していきたいと考えているそうだ。

「ポッセ」型のネットワーク

小野さん、千田さん、硲さん、大田さんのお話を聞いて、皆さんそれぞれの生活スタイルや志向にフリーランスという働き方が合っていて、その道を選ぶべくして選んだ、という風に感じた。

だからこそ、4人ともENWという組織にとても愛着を感じ、一緒に働けるチームの存在を重要なものと感じていることには驚かされた。フリーランスというと、どうしても一匹狼的なイメージがあるからだ。

「フリーランスマインドを持つメンバーとの仕事がやりやすい」「関心のあるプロジェクトを選べるのが良い」といった言葉からは、自らの意思でチームに参加していること、個々人の思いが尊重されることが、大きなポイントであるということが分かる。

会社の場合は、自分がどのチームに所属し、どんな仕事をするか、自分の意思で決めるのはなかなか難しい。ENWのチーム・サステナビリティは、会社のようなおしきせではないチームだから、より結束が固くなるのだろう。

そう遠くない未来の働き方を予測し、幸せに働いていくためにこれから何が必要かを提言した『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』という本がある。

テクノロジーの発展やグローバル化、地球環境の変化などにより、私たちの働き方は大きく変化していく。その未来を漫然と迎えると、孤独で貧困な人生を送ることになる可能性が大きい。しかし、今から主体的に働き方を変えていけば、未来を明るいものにできる、というのが『ワーク・シフト』の主張だ。

そこで提言されていることのひとつに、三種類の人的ネットワークを築き、孤独に競争するのではなく、協力して成功を目指すべき、ということがある。

三種類の人的ネットワークのひとつとして挙げられているのが「ポッセ」。耳慣れない言葉だが、必要があるときに力を貸してくれる、頼りになる同志のグループを意味するのだそう。

『ワーク・シフト』には、ポッセに関する重要な点として次の3点が挙げられている。

 

  • ポッセは比較的少人数のグループで、声をかければすぐ力になってくれる面々の集まりでなくてはならない。また、メンバーの専門技能や知識がある程度重なり合っている必要がある。専門分野が近ければ、お互いの能力を十分に評価できるし、仲間の能力を生かしやすい。
  • ポッセのメンバーは以前一緒に活動したことがあり、あなたのことを信頼している人たちでなくてはならない。知り合ったばかりの人ではなく、あなたのことが好きで、あなたの力になりたいと思ってくれる人であることが重要だ。
  • 充実したポッセを築きたければ、ほかの人と協力する技能に磨きをかけなくてはならない。他人に上手にものを教え、多様性の強みを最大限生かし、たとえバーチャルな付き合いでもうまくコミュニケーションを取る技能が不可欠だ。

 

ENWが作ろうとしているネットワークは、この「ポッセ」にとても近いものに思える。「チーム・サステナビリティ」は、これから必要とされるチームづくりの見本になる存在なのかもしれない。

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運営パートナーの皆さんや、ENWで実践されている分散型チーム働き方の工夫などについて、ブログで詳しく紹介されていますので、ぜひご覧ください!
EWN働き方ブログ

取材・文/やつづか えり 撮影/岩間 達也(大田さんの写真のみ、大田さん提供)

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