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地域をゴールではなくスタート地点に〜XSCHOOLに見る地域活性化のあり方〜

2017/03/31   更新:2018/12/01

「パラレルキャリア」、「地域とのつながり」――、これは今、面白い働き方をしている人の多くが持っている共通のキーワードだ。まだその状態に至っていないとしても、「会社の仕事さえ頑張っていればOKという時代じゃない」、「人や地域とのつながりが自分の資産になる」という思いで、何か行動したいと考えている人が増えている。

XSCHOOLはそういう人たちのための、「大人の学校」だ。福井県福井市による「未来につなぐふくい魅える化プロジェクト make.f」の一貫で行われていると聞いた時は、「最近よくある地方創生プロジェクトか……」と思った。しかし、2月に行われた発表会に出かけてそのイメージを覆された。大きな目標は福井市の活性化だとしても、「移住者を何人増やす」というような短期的な利益を追うものではなさそうだ。福井を舞台に今の時代の課題やニーズと真剣に対峙する場が作られ、そこに集まった人達が何か新しいムーブメントを生みだそうとしている、そんな熱気を感じた。

100日間で生み出された提案の内容に驚きの声

まず、XSCHOOLの概要について紹介しよう。

スタートしたのは2016年11月。そこから4ヶ月かけ、24名の受講者達が地元企業をパートナーに、講師陣の指導を受けながら新たな事業やプロジェクトを企画立案。その過程で「広義のデザイン」を学ぶというプログラムだ。

東京での発表会は開始から約100日、残り20日で福井での最終発表に至るという大詰めの段階で行われた。3人一組で8チームに分かれて練り上げた企画やプロトタイプなどをプレゼンしたのだが、その内容には、ゲストとして呼ばれた林千晶さん(ロフトワーク代表取締役)も「100日間でよくぞここまで!」と驚嘆していた。

3月11日の最終発表後、クラウドファンディングを開始し、実制作に向けて動き出した「こよみッション」チーム。クラウドファンディングについてはこちら→https://readyfor.jp/projects/koyomission

TSUGUMIチームは、パートナー企業である廣部硬器の技術を活かす「子どもの安全を願うお守り」を考案し、プロトタイプを完成させた。

お皿の上にひっくり返して食べるという新しい「お弁当」の形を考案した「Sakasu Deli」(東京で発表時の名称は「SAKASA DELI」)チームは、試作品をゲストと講師陣に振る舞い、大好評を得た。

上の写真では「商品パッケージとしての完成度の高さ」が印象づけられるかもしれないが、本当のポイントは、各アイデアの新しさや深さにある。

講師陣とゲストによって行われたパネルディスカッションにて、林さんと、事業化アドバイザーを務めた山口高弘さん(GOB Incubation Partners株式会社 Co-founder)はこんなことをおっしゃった。

左から、GOB Incubation Partners株式会社 Co-founder 山口高弘さん、ロフトワーク代表取締役 林千晶さん。

「どのチームも共通して、価値の再定義がされているなと思いました。通常では気づかない点や逆側を見てみることで、誰の目にもとまっていなかったような価値や機会を見出しているのが、すごくいいなと。
もうひとつ、新しい価値って今までのものを代替していくんですよ。これは良いことだと思うんですけれども、今までよりいいものが、イマイチだったものを置き換えていくということがどうしても起こります。ちょっと怖いことになるなとも思ったんですけど、そういった『あ、これがなくなるな』というのが、全チームの提案にあったことが、すごく良かったです」(山口さん)

「最近、老後には5000万円必要だって言われてるの。そんなに貯金できてる人って昔はいなかったと思うけど、今なんでそんなに高いのかというと、昔は家族がやっていた『助け合う』という行為が、核家族やサービス化の影響で商品化して、お金でしか流通しなくなったから。
人は互恵関係で存在してるんだけど、資本主義はそれを切り崩してお金で流通できるようにして、どんどん経済化しようとするから、こんなにお金がかかるようになるわけ。だから私、お互いに助け合うっていうことを切り崩さないで、ゼロ円ではないとしても、分解しすぎないまま繋げ合うビジネスができるんじゃないか、それがまさに、地方の可能性なんじゃないかと思うの。
東京はお金が流通するから、分解して一千万人に流した方が得だっていうドライブがかかりやすい。だけど顔が見える200人とかであれば、お金じゃなくて、ちょっと違うまとまりでつながり合うことができると思う。持続可能だしやる意味もあって、全部がボランティアベースでもない……、そんなビジネスを、ここから作ってくれると嬉しい」(林さん)

XSCHOOLで出てきたアイデアは、福井という場所やパートナー企業を始めとする様々な出会いが発想の元にはなっている。だが、その発想を事業企画にまでブラッシュアップする中で、福井という場所に限定されない、新しいビジネスのあり方を予感させるようなものにまで昇華したのではないだろうか。

テーマ設定や講師の魅力が感度の高い人たちを呼び寄せた

受講生はそれぞれ本業や学業などをこなしながら、月に1〜2回、週末に泊りがけで福井に通い、それ以外はオンラインで連絡を取り合いながら、試行錯誤を続けてきた。100日間でこれだけのアウトプットが生まれた背景には、テーマ設定やプログラム設計、講師陣など、あらかじめ用意されたしくみの素晴らしさと、集まった人達との相乗効果があるようだ。

XSCHOOLプログラムディレクターと講師の皆さん。左から内田友紀さん、萩原俊矢さん、高橋孝治さん、原田祐馬さん。

プログラムディレクター 兼 講師の原田祐馬さん(UMA/design farm代表)さんは、このように語った。

「最初は『この人たち、環境が恵まれてる』と思っていたんです。例えば今回みたいに色々なゲストやたくさんのお客さんが来てくれたり、パートナー企業の方たちが熱心にいろんなものを作ってくれたり。でも、実はそれだけではなくて、彼らが非常に熱心であるということが、恵まれた環境を生んでいくんだと気づいたんですよね。
今回、僕らは講師としてワークショップを何回もやっているんですけど、予定より3〜4回ぐらい多く福井に行ったりしていて。ちょっと内田さん(プログラムディレクターの内田友紀さん リパブリック共同代表)に騙されたなと思ってるんですけど(笑)、これもきっと彼らの熱意みたいなものに僕らが勝手に動かされているんですよね。彼らの熱意があるから、パートナー企業の皆さんもすごく親身に相談に乗ってくれたりするんじゃないかと感じました」

受講生の熱意の源には何があるのか、それについては同じく講師を務めた高橋孝治さん(デザイナー)の発言を紹介したい。

「(みんながここまでたどり着けたのは)このXSCHOOLに参加した動機とか熱量みたいなもので突っ走れているのかなと。ここで変わらなきゃっていうか、ある種自分が設けた壁を超えられるかどうかで今後の仕事や人生が変わっていくというような、ある種切迫した思いがあったのかな、という気がしています」

今回の受講者24名は、志望動機の文章を書いて選考されたそうだ。プログラムディレクターの内田さんによれば、選ばれたのは「今いる組織の中だけで生きていけるような時代じゃない」ということを分かっていて、XSCHOOLが発するある種「わかりにくいメッセージ」に反応した人たちだという。

集まった受講生の職種は、デザイナーや建築家から金融機関の職員、保育士まで、多岐にわたる。世代も幅広く、20代の大学生と40代のベテランがチームを組んでいたりする。福井との距離感も様々で、半分くらいが首都圏在住者、4分の1ほどが関西在住者、福井県出身者や福井在住者が5名という構成だ。

福井出身者や在住者を除いては、特に福井に思い入れがあるわけではない人が多そうだ。そんな人達がなぜ、毎月福井に通う必要のあるプログラムに応募したのか。

大学でインダストリアルデザインを学ぶ蛯名さんは、「広義のデザイン」を実践的に学べるというところに惹かれたという。大阪のアパレルメーカーでグラフィックデザイナーとして働く吉鶴さんは、「以前からファンだった原田さんが講師をするというので、XSCHOOLを知った。福井には行ったことがなかったけれど、ずっと大阪で過ごしてきたので、他の地域とつながることをしてみたいと思っていた」と語る。

他にも、「何か地方に関わることがしたかった」とか、プログラムディレクターや講師の発信する情報に以前から注目していた、という人が多かった。どうやら、多少距離があっても通いたいくらい魅力的なテーマ設定や講師陣が、時代の変化を感じ取るアンテナの高い人たちを呼び寄せたようだ。

「何かが始まる場所にする」という地域の魅力化

XSCHOOLは3月11日に福井での最終発表会を終え、パートナー企業との共同事業化が決まったチームや、福井でのイベントの定期開催、クラウドファンディングによる製品制作などをスタートさせているチームもある。彼らの内で福井在住のメンバーは数名、多くは東京や関西にいながら活動を続けていくことになる。

プログラムディレクターの内田さんによると、受講者のほとんどが、今後何らかの形で福井と関わっていきたいという意向をもっているそうだ。すぐに定住者が増えずとも、都会で活躍する人達の中に地域との架け橋になる存在を生み出したということは、大きな成功ではないだろうか。

また、各チームの提案を見て感じたのは、地域がゴールではなく「スタート地点」となることが、地域の活性化に大きく寄与しそうだということだ。

バーでのトークイベントを開催し、地域の良さを共有する緩いコミュニティを作ることを提案した「おふくわけ」チームは、そのしくみが福井以外の地域にも広がっていくというビジョンを示した。メンバーの篠崎さんが、「『おふくわけって、福井から始まったんだ』と言われるようになったら嬉しい」と語るのを聞いて、「なるほど!」と膝を打った。

バーのマスターに扮し、「おふくわけ」チームのプレゼンをする篠崎さん。

地域活性方のためのアイデアを出そうとすると、「地域固有の価値」「この地域でしかできないこと」にフォーカスしがちだが、それが逆に企画の幅を狭めてることもある。XSCHOOLの活動は、地域の良さを活かすという視点は持ちつつも、地域の枠に閉じこもらないことで、地域外の人にもアピールする普遍性の高い提案につながっているのだと思う。今後、「あれって福井で始まったらしいよ」と言われるようなものがたくさん生まれれば、XSCHOOL、ひいては福井は「新しいものを生み出す場所」、「面白いことが起きる場所」というブランドを確立できるのではないか。ここに、地域活性化のひとつのあり方が示されたように感じた。

継続による可能性と課題

まとめると、XSCHOOLは「地方から始まる広義のデザイン」という一見分かりにくいが質の高いプログラムと、その価値を敏感に感じ取るアンテナを持った人達の熱意という相乗効果により、素晴らしい事業提案やプロジェクトおよび地域とつながるコミュニティを生み出した。提案がアイデア止まりではなく具体的な形になれば、福井は「新しい価値を生み出した場所」として注目されるようになるだろう。上手く行けば、短期的に定住者を増やそうとするような地域活性化策よりも、息が長く影響力も大きい施策になりそうだ。

そこまでいくには、継続的にこの活動を続け、よりたくさんの素敵なモノやサービスを生み出していく必要がある。XSCHOOLとしては第2期以降も続けていきたいということだが、XSCHOOLの評判が高まり、これまでのように「知る人ぞ知る」という存在でなくなったら、第1期ほど感度が高く情熱のある人達が集まるのか、同じような熱気を保てるのか、と言うのは課題になりそうだ。どちらにしても、今回の24名の受講生達は、福井市を「面白い場所」にしていくキーマンになり得る。ぜひ、今後の動向も見守っていきたい。

☆☆
参考:

XSCHOOL発表会 / 未来につなぐ ふくい魅える化プロジェクト|make.f from make.fukui on Vimeo.

XSCHOOL Webサイト
☆☆
文・撮影/やつづか えり

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