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全社員にフルフレックス・リモートワークを認めたオトバンク 〜最適な働き方は人それぞれ〜

2016/12/26   更新:2018/12/02

「社員のパフォーマンス最大化を目的とし、全社員を対象とした『コアタイム廃止』『リモートワーク制度』を導入」ーー、今年10月にこう発表したのは、日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」を提供する株式会社オトバンクだ。
新制度導入の目的や社員の働き方の変化を、代表取締役社長の久保田裕也さんと取締役 CTOの佐藤佳祐さんに伺った。

Profile

株式会社オトバンク 久保田 裕也氏(代表取締役社長)、佐藤佳祐氏(取締役 最高技術責任者(CTO))

右から 久保田社長、佐藤CTO

久保田 裕也 Kubota Yuya
株式会社オトバンク代表取締役社長。
東京大学経済学部経済学科卒業。外資系投資銀行・米系コンサルティング企業・IT・消費財(アパレル)・不動産などの非公式案件から招集を受ける。証券化Structuring分析、外資系メーカーの日本進出支援、LaterStage企業の組織改善、人材戦略構築を主に経験。2007年1月執行役員就任、2月取締役就任、2009年10月より取締役副社長就任、2011年3月より代表取締役副社長、2012年3月より現職。東京大学経友会理事を兼任。現在は各事業を統括。

佐藤 佳祐 Sato Keisuke
株式会社オトバンク取締役 最高技術責任者(CTO)。
2010年4月に当社入社。開発本部での勤務後、2011年7月に株式会社クロコスを共同創業。2012 年8月、ヤフー株式会社への売却に伴いYahoo! JAPAN グループでの勤務を経て、2014年9月当社入社。開発本部部長就任後、2016年2月より現職。

約1年のテスト期間を経て、正式導入時にはすでにリモートワークに慣れていた

このインタビューを行ったのは、11月。新制度の導入直後はまだその効果が分からないだろうと、あえて1ヶ月以上経ってから伺ったのだが、実は同社内では、10月の時点ですでにリモートワークは珍しいものではなくなっていたようだ。

理由は、1年ほど前からリモートワークのテスト運用をしてきたから。以前の社内規定では出社して仕事をするのがルールだったが、最初にリモートワークを希望する声があがった開発部門から試行を始め、徐々に他の部門にも広げていくと同時に、制度としての改善を繰り返してきたのだそう。

制度のテスト運用というと、人事部などが綿密に計画をして社員はその通りに動く、という形をイメージするかもしれない。だが同社では、個々人が自分に合った働き方を試す機会になったようだ。その点について、久保田さんは次のように語った。

「うちは封建的な上意下達の会社ではないので、社員が『こうしたい』と言ってきたことが正しいことであれば、『それでいいんじゃないの』と受け入れるんです。だから『こういう風に働きたい』と考えている人は、既にテストの間にそうしてるんですよね」

その結果、社内規定を整備して対外的に制度の導入を発表したのは10月だが、その日を境に働き方がガラッと変わる、というような人はいなかったという。

佐藤さんの管轄する開発の部門では、今では常時2〜3割の人がリモートワークをしている。

「ずっとリモートという人はあまりいなくて、毎日会社に来ている人もいれば、週の半分くらいという人もいます。半日リモートで、ミーティングがあるから会社に来て、ミーティングが終わったら仕事終了という人もいれば、帰って仕事をする人もいたり、本当に人それぞれですね」(佐藤さん)

株式会社オトバンク 久保田社長と佐藤CTO

「社員を満員電車に乗せたくない」という思いでコアタイムのないフレックス制度を導入

リモートワーク制度の検討をする中で、働く時間の規定についても見直しの機運が高まった。

同社は以前から10時から15時をコアタイムとするフレックス制を導入していた。さらに事業上、取引先とのやり取りが夜に偏るなど、一般的な勤務時間帯に合わない仕事が多く、以前から「コアタイムは必要?」という声は挙がっていた。それに加えて、久保田さんのある体験が、コアタイム廃止への動きを本格化させたという。

「リモートワークをやってみて、効果があること、セキュリティ的にも問題ないということが分かってきたので、じゃあ就業規則に反映させようという話になった頃、打ち合わせの関係で朝8時頃の電車に乗ったんです。そのとき、とても混雑している車内でトラブルが起きて、『できるだけ満員電車には社員を乗せたくない』と感じました。関係ない社員がとばっちりを食らって『その日は働けません』となったり、あるいはもっとひどいことになる可能性もある。そうなれば会社としても大きな損失ですよね」(久保田さん)

このことをきっかけに、法制度や労務管理の面でもコアタイムは必須ではないことを確認し、廃止を決めたのだという。そして現在では、朝に取引先を訪問するといった理由がない限り、通勤時間帯の満員電車を避けての出勤を公に推奨している。

ルールが少なくてもトラブルが起きないのは、目的意識を共有しているから

1年ほどのリモートワークのテスト運用の中で、制度としての改善を繰り返してきたという話があったが、結果として、リモートワークやフレックス制度を利用するためのルールはそれほどないようだ。テスト導入の中で時間を割いてきたのは、「制度を導入する目的」を全員が理解するためのコミュニケーションだという。

その目的とは、パフォーマンスの最大化。そのために個々人が最適の場所、時間を使って仕事をするということだ。「最適化された場所で仕事をしているわけだから、パフォーマンスが上がらないと困るよね」(久保田さん)ということで、会社の共通のルールを作るというよりは、社員それぞれが、自分にとっての良い働き方を模索するように方向づけてきた。

「会社に定時に来て定時に帰るというのは、ある意味同調圧力的なところがあると思いますが、逆にリモートワークをすることが同調圧力になっても困るわけです。制度を導入した目的は、社員に自分で考えてもらうことです。考えた上で、出社した方がパフォーマンスが上がるというなら来ればいいと思っています」(久保田さん)

こういった意識が浸透しているからか、制度としては全員がリモートワークが可能になったが、各自業務によって働く場所を選ぶような結果になっているそうだ。具体的には、見込み客からの電話が会社にかかってくることの多い営業部門や、人事労務や財務部門などの機密情報を扱うような部署は、通常は出社して仕事をしているという。

ITエンジニアがリモートワークを好む理由

ところで、「ITエンジニアはひとりで集中できる環境を望むものだ(だからリモートワークをしたい)」という話はよく聞くが、それは他の職種以上に切実な望みなのだろうか? その点を佐藤さんに聞いてみると、次のような分かりやすい説明をしてくれた。

「例えば8桁と7桁の筆算をやっている途中に話しかけられたら、どこまで計算したのかわからなくなってまた頭からやり直すことになるじゃないですか。それに似たことが、システム開発の仕事だと起こるんですよね。他の仕事に比べて一区切り付くまでが長いのかもしれません。その都度、途中で保存できるような業務であればいいんですが、頭を使っている最中に何か頼まれて、対応して戻ってきたらまた最初から、となるのは辛いよねっていう……」
株式会社オトバンク 佐藤 佳祐CTO
開発のメンバーに用があるとき、リモートワークを導入するまでは、集中を要する仕事をしているかどうかにかかわらず、その場にいる誰かに声がかかっていた。だが、今は集中したい時はリモートワークをしているため、このような割り込み案件に中断させられることがなくなった。それが生産性に及ぼす効果は非常に大きいと、佐藤さんは感じているという。

仕事の仕方は個人に任せるが、放任はしない

一方で、「リモートワークの問題点は、働きすぎてしまうことだ」というのもよく言われることだ。本人が頑張っているつもりでも、パフォーマンスが上がらないということもあるだろう。個人の自律を重視するオトバンクの場合、リモートワークやフルフレックスによって各自の仕事の仕方が見えづらくなり、実は非効率、不健康なやり方をしている人がいても気づきにくいのではないかという気がした。

しかし、久保田さんによると、決して放任主義というわけではないようだ。同社では上長やコーポレート部門が個々の社員の労働時間を確認し、良くない働き方をしていると思われたときは、早めにケアをしているという。

「2〜3日見ていて、この人調子悪そうだなと思ったら、上長が言うこともありますし、私が気づいて言うこともあります。
こう言うと語弊があるかもしれないですけど、あまり長く働いてほしくはないんですよね。長く働いていいパフォーマンスが出続けるのならいいのですが、多分人間はそうできていないですから。すごく集中しているのって多分2、3時間ぐらいで、もたない人は1時間かそこらだと思うんです。逆にパフォーマンスが出る時間を一日に何回創り出せるかが重要な視点で、のんべんだらりとやっていてもしょうがないわけです。
だから、どういう働き方がいいかというのは人によりけりで、夜が強い人もいれば、朝早く始めて夕方には飲みに行きたいという人もいます。そこは本人が正しいんだと思えば、それでいいと思います。ただ、『昼からの方がパフォーマンスが出ます』と言う人が、見てて明らかにパフォーマンスが出ていないなと思ったら、『もうちょっとリズムを変えた方がいいんじゃない?』という話もしますよ」(久保田さん)
株式会社オトバンク 久保田 裕也社長
もうひとつ、世間でリモートワークや在宅勤務制度の導入が難しいと言われる点に「評価」の問題がある。部下が目の前にいないと、何をしているかわからないから評価しづらいというのだ。この点についても、久保田さんはむしろリモートワークの方が分かりやすいという意見だ。

「逆にはっきりするんですよね。会社に決まった時間に来てますとか、一生懸命がんばってます、ということではなく、どういうパフォーマンスを出したかということにフォーカスされるようになるので。
その上で、パフォーマンスが出ていないなら、『もうちょっと改善できることがあるんじゃないの?』という話になって、人によっては『会社に来た方がいいね』ということもあるだろうし、違うところに原因があるのだったらそこをどうにかしましょうという話になります。
時間に関しても、時間通りやっているとか、長く働いているということは評価の対象にならないので、短い時間でもパフォーマンスが出せるんだったらそれでいいわけです」(久保田さん)

柔軟な働き方の導入で、ダイバーシティの拡大にも対応しやすくなる

リモートワークOKでフルフレックスとなれば、地方在住者や、育児や介護で短時間しか働けない人など、今のオトバンクにはいないタイプの社員が加われる可能性も高まる。久保田さんも佐藤さんも、その点は十分想定している。今現在、同社は30代を中心とする約30人の社員で構成されているが、いずれ年齢も各家庭の状況なども幅が出てくるだろう。今回の新制度導入には、そういったことにも対応できるようにしたいという意図もあったようだ。

「今後地方に住みたいという人も出てくるかもしれないし、すごく優秀なんだけど、子どもが3人いて世話がとても大変でフルタイムでは働けなくて、でも1日の中でこの3時間だけ空く……、みたいな人っていると思うんです。
その3時間、在宅で働きたいという人がいるのであれば、働いてもらった方がありがたいじゃないですか」(久保田さん)
株式会社オトバンク 久保田社長と佐藤CTO
時間や場所に制約のある人が増えるとマネジメントは大変になりそうだが、その点も、会社の方針をしっかり伝えた上で、必要以上に管理せず、個々の主体性に任せればうまくいくはずだと、久保田さんは語る。

「管理しようと思うと、大変でしょうね。でも、会社は管理をするために存在しているのではないと思うんです。何かミッションがあって、それを達成するために仲間を集めて、事業をやっているわけで。そうすると基本的にコミットする姿勢自体は、主体的であるべきだと思うんですね。
例えば3時間しか働けないという人がいても、その人にチームの中で働いているという意識があれば、『自分の業務終了後にこういう電話がかかってきそうだな』と思ったときに、チームのメンバーに必要な情報を伝えてくれると思います。なので、『そういう人がいると大変』、というのはあまり考えたことがないです。
逆に先ほども言ったように、長時間働いた人ではなくパフォーマンスが上がった人が偉いし、努力しているかどうかはその後に見るよ、という話は常にしています。そういう会社としてのスタンスをはっきりさせないと、いろんな条件の人が混じってきたときに一緒にやっていくのは難しくなっちゃうと思うので、そこは常に伝えています」

全社員を対象としたリモートワークとコアタイムなしフレックスという思い切った施策は、このような明確な姿勢があってこそ、成り立つものだと感じた。

☆☆
取材・文・撮影/やつづか えり

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