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サテライトオフィス成功の秘訣はOhanaカルチャー。セールスフォース・ドットコム白浜オフィスに学ぶ

2016/11/25   更新:2018/11/30

営業担当者が1日に何件の電話をかけ、どれだけの商談を獲得しているかーー、ひとりひとりの仕事ぶりが全てデータで可視化され、それを元に評価が決まる。こう聞くと、管理主義的で窮屈な職場をイメージするのではないだろうか? だが、セールスフォース・ドットコムはそうではないらしい。互いの貢献を認め合う文化が確立されているため、日々の活動がガラス張りで成果をきちんとアピールできることが、むしろ心地よいのだという。そしてこのような文化が、今回取材したサテライトオフィスでのテレワークを成功させる大きな要因になっているようだ。

2015年8月に白浜に移住し、同社のサテライトオフィス立ち上げを主導、現在は白浜オフィス長として働いている吉野隆生さんに、その背景を聞いた。

Profile

吉野 隆生さん

吉野 隆生 Yoshino Takao

株式会社セールスフォース・ドットコム
セールスデベロップメント シニアマネージャー/白浜オフィス長
宮崎県出身 42歳
外資系PCメーカーのインサイドセールマネージャーを経て、 2013年に株式会社セールスフォース・ドットコムに入社。2015年8月から和歌山県白浜町へ家族とともに移住し、白浜オフィスと東京オフィスの二拠点のインサイドセールスチームのマネージメントに従事。

商談件数20%増。セールスフォース・ドットコム白浜オフィスの目覚ましい成果

「地方創生」のかけ声のもと、総務省が推進する「ふるさとテレワーク」。初年度となる2015年から2016年にかけては、15の地域で様々な実証実験が行われた。そのひとつ、和歌山県白浜町におけるセールスフォース・ドットコムのサテライトオフィスの取り組みは、顕著な成功例として注目されている。

白浜オフィスで行われているのは、「インサイドセールス」と呼ばれる内勤営業の仕事だ。電話やメール、場合によっては手紙などで顧客とコンタクトを取り、新規案件を獲得していく。

白浜オフィスでは、従来から東京のオフィスでやっていたのと全く同じ業務をしているが、昨年の10月から今年4月末までで、商談件数20%増、契約金額31%増という目覚ましい成果をあげた。単月でも、商談件数で10%以上高い実績がコンスタントに出ているそうだ。しかも、勤務時間は短縮されているので、かなりの生産性アップが実現できていることになる。

白浜オフィス実証結果

資料提供 株式会社セールスフォース・ドットコム

社員のワークライフバランスの面での効果も大きい。吉野さんの場合、東京で仕事をしていたときは通勤に2時間以上かかったが、今は車で10分強になり、業務時間と通勤時間を合わせてかなりの時間が削減されている。メンバー全員の平均を取ると、東京にいるときよりも月に64時間ほど、個人の自由な時間が増えているというのだ。

「この64時間を、社会貢献活動や地域交流、自己投資、そして家族との時間などにあてることによって、まずは人としての生きがいや、ゆとりを持った生活ができる。その上で仕事に臨むので、より生産性があがるというポジティブスパイラルに入った状態が、この7カ月間だったのかなというふうに振り返っています」(吉野さん)

また、セールスフォース・ドットコムは「就業時間の1%を社会貢献活動に、株式の1%、製品のライセンスの1%をNPO団体に提供する」という「1-1-1モデル」というポリシーを持ち、元々社会貢献意識が高い。白浜オフィスではそれがより高まり、海岸の清掃活動や地域の子どもたちのためのプログラミング教室の開催など、メンバー全員がなんらかの地域貢献活動を行っているという。サテライトオフィスが会社にも社員にも地域にも、メリットを生み出しているのだ。

3ヶ月で生産性高い働き方を体得する「道場」のような場所

株式会社セールスフォース・ドットコム 白浜オフィス

大きな窓から海が見える白浜オフィス

白浜オフィスで働く社員は11名で、オフィス長である吉野さん以外のメンバーは一定期間で入れ替わる。普段は東京のオフィスで働いている内勤営業担当者が、3ヶ月間白浜オフィスでの業務を経験し、また東京に戻るのだ(中には延長を希望し、8ヶ月いたメンバーもいるそう)。
サテライトオフィスでの業務を経験したメンバーは、「瞳が変わる」と吉野さん。

「人間、単に働き方を変えようと思っても、なかなか難しいですよね。でも、昇格や部署異動、転職など、外的な変化があると変えやすいんです。白浜に来ることは外的な変化に当たるので、メンバーのマインドチェンジが促されるのだと思います。
ここに来ると、最初の月で思いっきりマインドチェンジをして、今までしていた残業をしなくなります。会社の業務時間は9時から18時ですが、東京にいるときは20〜30分前にギリギリで出社していた人も、ここでは1時間前の朝8時にはほぼ全員来ます。そうやって前倒しで仕事の準備をしっかりして、18時30分には必ず帰るようになります。
残業をしなくなると、次は生産性に意識が向いて、働き方がガラッと変わり、2ヶ月目に大きく結果が出ます。そして3ヶ月目になると、今度は自分から働き方についてどんどん発信していくようになるんです」

ツールや場所も重用だが、サテライトオフィスの成否を握るのは「どういうカルチャーを作って組織を動かしていくのかというデザイン」だと吉野さんは言う。

11名という規模も、新しいやり方を試すのにちょうどよい規模のようで、白浜オフィスはチームワークと生産性向上の実証実験や練習をする場となっている。また、メンバーは東京に戻っても残業の少ない働き方を維持し、白浜オフィスで学んだことを東京で発信するという役割を自然に担うそうで、白浜オフィスが合宿所や道場のような場となっていることが分かる。

サテライトオフィスの成否を左右するのは、場所、制度、ツール、そして「文化」

吉野 隆生さん
吉野さんによれば、白浜オフィスで生産性が上がる必要条件のひとつに、同社で普段から活用しているツールがあるという。

「弊社の(顧客管理や営業支援のための製品である)『Salesforce』を使って、色んなものが可視化されてるので、個々にどういった活動をしてどういう成果をあげてるか、全社員がお互いに見えるんです。これは、サテライトオフィスで仕事をする上でもすごくよかったと思いますね。
テレワークの導入でよく問題になるのが、上司と部下が離れたところにいる状態で、お互いに疑心暗鬼になってしまうということですよね。でも私たちは元々、物理的な場所は関係なく、全てが見えるようになっているので、管理者側が『あいつは仕事してるのか?』と不安を感じることすらないわけです」

例えば吉野さんのチームの場合、1日にかけた電話の件数がリアルタイムに見える。また、今月は誰が何件の商談を作ったか、一番貢献しているのは誰かというようなこともすべて可視化されている。こういう状況が窮屈に思える人もいるかもしれないが、吉野さんによれば、セールスフォース・ドットコムの社員はむしろそれが心地よい状態になっているのだという。

「社員同士で褒め称える、認め合うという文化がベースにあるので、やったことをしっかりアピールできるんです。
そのひとつの表れが、社内SNS 上での活動のランキングです。Chatterという、Facebookと同じような感じのツールを使っているんですけど、提案書のファイルなんかも共有して、それに対してコミュニケーションできるようになっています。実はこのSNSで誰がどれくらい投稿して、何件いいねをもらい、何件コメントをもらったかといったこともすべて集計していて、社内SNS上でどれくらいの影響力をもっているかということも分かるんです。ちなみに、私はグローバルのランキングで9位です。こういう風に、すべての仕事を可視化するのがセールスフォース・ドットコムの特徴なんですね。ここまですると、上司が『あいつは何やってるんだ?』なんていうことには、到底ならないですよね。見れば分かるので」

加えて、セールスフォース・ドットコムが元々持っているチームワークのカルチャーが、今回の成功に欠かせないと、吉野さんは語る。

「セールスフォース・ドットコムのカルチャーで、先ほど挙げた社会貢献モデルと同じくらい重用なのが『Ohana(オハナ)』です。これはハワイ語で、血縁関係がある家族という意味合いと、同じ志をもって物事を実行する同士という意味とがあります。セールスフォース・ドットコムではこのOhanaという考え方を非常に大切にしていますので、誕生日を祝うとか、ファミリーデイといって家族を会社に呼んで、普段お父さんお母さんが仕事する場所でみんなで楽しむイベントであるとか、そういうことをグローバルでやってるんですよね」

仲間を大切にする文化が元々あるセールスフォース・ドットコムだが、吉野さんはサテライトオフィスの特性を活かし、さらにチームワークを強化する機会をたくさん作っている。

例えば、メンバーの誕生日には必ず全員で仕事を留めてお祝いをしたり、定期的に開催するランチ会では、みんなで食材を買ってきて食事ををつくる。桜の時期には、鯛めしを作り、炊飯器を抱えて花見に出かけたそうだ。

写真提供 株式会社セールスフォース・ドットコム

写真提供 株式会社セールスフォース・ドットコム


「まさに同じ釜の飯を食うという話で、やっぱりコミュニケーションが活発になってモチベーションあがるんですよね。

セールスフォース・ドットコムは元々チームワークのカルチャーが強いとは言え、都会生活で大きな組織にいると、お互い知ってはいても人間的な部分を見る機会は少なくなります。白浜オフィスでは、土日も含めて一緒にいる事が多いので、互いの人間性をしっかりと理解した上で、『私がこの組織に対して貢献できることは何か?』という発想が出てきました。それが、生産性が上がった理由だと思います」

吉野さんは、通常のオフィスとは異なる環境を活かしてチームワークや生産性の向上を図れるのは、サテライトオフィスならではの利点だと語る。

「実はここに来るまでは、在宅勤務もモバイルワークもサテライトオフィスも変わらないのかなと思っていました。ツールがあってネットワークがあれば、いつでもどこでも自分の好きなときに仕事ができるのは一緒でしょと。でも、在宅勤務では生産性はここまで上がっていないと思います。サテライトオフィスというのは、通常のオフィス勤務と在宅勤務の良いとこ取りをした、ハイブリット型みたいな位置づけのものだと、今は理解しています」

都会から来る若い社員がリフレッシュできる場所として選ばれた白浜

8月に訪れた白浜町のビーチ「白良浜」の様子

8月に訪れた白浜町のビーチ「白良浜」の様子


そもそも、セールスフォース・ドットコムがサテライトオフィスを開設した目的は何で、なぜ白浜という場所が選ばれたのだろう?

同社でサテライトオフィスの話が浮上したのは昨年の1月頃、プロジェクトリーダーにアサインされた吉野さんは、候補地の視察から始めたという。

プロジェクト開始時には、サテライトオフィスの目的として3つの柱を建てた。ひとつめは同社のサービスでもあるクラウドツールを使ったテレワークのショーケースの役割を果たすこと(そのために、東京と変わらない生産性を保てることを証明すること)。ふたつ目は、東京以外での新しいワークスタイルの確立。最後に、サテライトオフィスを検討している他の企業に対して情報発信をしていける立場になるということだ。

いくつかの候補地があったが、社員のリフレッシュ効果、話題性、ビジネスへの波及効果、東京とのアクセスの良さという4つの軸で評価し、最終的に白浜に決めた。

「弊社の内勤の営業の平均年齢は28歳前後です。若い年代なので、人里離れた山間部というのは、私は好きですけど、彼らにはちょっと退屈かなと。仕事終わりや土日に思いっきり遊べるようなところにしようということで、観光資源が豊かで、海外と見まがうような美しいビーチがすぐ近くにある白浜はぴったりだったんですよ。私も移住するにあたって、ここなら家族も幸せに、豊かに暮らせると感じました」

白浜では無線LANネットワークが既に整備されていて、テレビ会議などが問題なくできたというのも大きかったというが、吉野さんの口ぶりからは「社員のリフレッシュ効果」がかなり重要視されていたことが伝わってきた。「生産性」に関しては、東京と同じだけあればよいというのが当初の期待値だったが、やってみたら想定外に効果があったというのが実情のようだ。

2年目以降は白浜だからできることを

スタートして最初の年は、生産性向上という点で大きな成果を上げた白浜オフィスだが、吉野さんは第2、第3のフェイズで地域への恩返しをしたいと考えている。

まず第2フェイズでは、IT人材の育成に取り組む。すでに、子ども向けのプログラミング教室を開催し、好評を博しているそうだ。

資料提供 株式会社セールスフォース・ドットコム

資料提供 株式会社セールスフォース・ドットコム


「地方はIT人材が不足しているのですが、いないなら育てましょうということで、10年後、20年後に貴重なITの人材になるべき子どもたちに、プログラミングを教える活動をしています。『Hour of Code』というプログラムを今までに4回開催していますが、やってみて分かったのは、子どもたちは本当に飲み込みが早いんですね。それと、親御さんたちもとても関心を持たれている。『こういった取り組みを継続的にやる予定はありますか?』という問い合わせを数件いただいています。地方における教育格差は当然あるんですけど、これは距離的な問題ではなく、知っているか知らないかの『情報の問題』だということを認識しました」

第3フェイズでは、白浜町の企業にSalesforceを使って経営を改善してもらうという形で貢献していきたいというのが、吉野さんの考えだ。

「どこの地域でもできることではなくて、その地域だからできることをやろうということで、極力地元との接点を多くもつようにしています。ただ場所があるだけで、実態は在宅勤務と同じようにオフィスに閉じこもっているのでは意味がないので、例えば地元の色んなイベントに参加して一緒に何かをする、ただ協賛するだけではなくて、手を動かし、コミュニケーションをするといったことを積極的にやっていきます」

今後、地域との活動が増えてくれば、グローバル企業とローカルの協働の新しいモデルができそうだ。また、あたたかい人間関係の中でクールな数字を使いこなすカルチャーや、サテライトオフィス開設の目的に合った場所選びなど、吉野さんのお話からは、新しいワークスタイル確立のための参考になる点がたくさんあると感じた。

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取材・撮影/八塚 裕太郎 文/やつづか えり

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