エンジニアも企業も幸せに 副業・リモートワークはどうしたら広まるか
2016/09/15 更新:2018/11/30
個人が複数の仕事を並行して行うワークスタイルに注目が集まっている。
ボランティアなどの無償の活動も含め、社会で複数の役割を持つことを指す「パラレルキャリア」、複数の仕事に優劣を付けず、むしろ相乗効果で成果を出すことも目指す「複業」――、少しずつニュアンスの異なる呼び名があることからも分かるように、仕事を複数持つ理由は人によって様々。今回紹介する「コデアル」は、本業の傍ら「副業」で稼ぎたいITエンジニアと企業をマッチングするサービスだ。運営するコデアル株式会社 CEOの愛宕翔太さんと、コデアルを利用して副業をしているエンジニアの吉川利幸さんにお話を聞いた。
エンジニア不足の企業ともっと稼ぎたいエンジニア、双方がハッピーな副業という働き方
コデアル株式会社は、エンジニア向けのインターン、就職、転職紹介サイトを運営するなど、一貫してエンジニアのキャリアを支援するサービスを提供してきた。新たに昨年スタートしたのが、ITエンジニアがリモート(在宅)でできる副業を紹介するサイト「コデアル」だ。
愛宕さんは、このサービスを始めた理由を次のように語る。
「今、『エンジニアが足りない!』という話をよく聞きますよね。企業側のニーズに対してエンジニアの人数は限られているので、採用ができず、必要なシステム開発ができないという問題が発生しています。逆にエンジニア側の視点で考えると、日本の企業は元気がなく、1社から得られる収入をどんどん上げていくことは今の時点でも難しいし、今後はその傾向がより強くなっていくのではないかと思います。この2つの状況を組み合わせてみると、『副業』という形でひとりのエンジニアが2つの会社に関われば、エンジニアが足りない会社にとっても、収入を増やしたいエンジニアにとってもハッピーじゃないか、そういう考えで『コデアル』というサービスを始めました」
しくみとしては、副業エンジニアを受け入れたい企業がコデアルのサイト上に募集を出し、登録エンジニアが応募するという形をとっている。双方の希望がマッチして業務が開始された後の30日間は「試用期間」となるのが特徴で、試用期間を超えて副業が継続する場合に初めてコデアルへの紹介料の支払いが発生する(エンジニアへの報酬は、試用期間中も支払われる)。
エンジニアが副業を考えるタイミングは20代後半と30代後半
開始から1年弱で、コデアルに求人を掲載した企業は約500社。自社サービスの開発をする中小IT企業が多い。
また、登録エンジニアは4000名ほどで、年齢は20代後半と30代後半が多いそう。
「20代後半というのは、1つの会社で3年から5年働いて仕事の概要がだいたい把握でき、『ちょっと他の会社も見てみたい』と考える時期です。また、30代後半はお子さんがある程度大きくなるなど、生活が落ち着いて時間的余裕ができるので、副業に目を向け始める人が多いようです」(愛宕さん)
彼らの「本業」は、自社サービスを作っている小さなIT系スタートアップから大規模な開発プロジェクトを請け負う大企業まで、様々だという。どんな環境であっても「副業」に目を向ける時期がある程度重なっているというのは面白い。
現在は登録者をITエンジニアに限っているが、Web系のデザイナーやWebディレクターなどの需要もあるので、コデアルは対象職種を広げていくことも考えているそうだ。
本業と副業、それぞれにおけるトラブルを防ぐには
気になるのは、「エンジニアたちが所属する会社では副業が認められているのか」という点。愛宕さんによれば、自社のWebサービスを展開しているような会社では副業を認めているところが増えているそう。所属会社で明確な規定がない場合、コデアルとしては「公務員でなければ法的には禁止されていない」ということと、「会社の許可をとった上でやるのがベスト。そうでない場合は、自己の責任においてやってもらう」という説明をしている。
所属会社に副業を認められたとしても、実際に2つの仕事を並行してやるとなると、「思ったほど時間が割けない」「細切れの時間でうまく仕事を進められない」といった問題は起こらないだろうか?
その点については、「30日の試用期間」という制度が役に立っているという。まずは30日間やってみて、副業を受け入れる企業側とエンジニア側の双方が合意すれば継続し、「こんなはずじゃなかった」という場合はそこでストップするのだ。
また、企業が募集を出すときには、時給2500円を下回る報酬は設定できないようになっている。副業という性質上、契約は「雇用」ではなく「業務委託契約」となることがほとんどで、その場合は労働法の適用範囲外となり、法的には最低賃金の縛りはない。しかし、副業エンジニアを単に安い労働力として使ってほしくないという運営側の思いから、制約を設けているそうだ。
このような配慮やしくみがあるからか、今のところ運営側が介入しなければいけないようなトラブルはないという。特に、30日間という区切りを付けてうまくやっていけそうかどうかを確認するというのは、まだ副業経験が豊富とはいえない個人にとっても企業にとっても、良いことだと感じた。
副業により「常に新しいことに触れていたい」という希望が叶えられる
吉川さんは、コデアルの利用開始前から副業を実践しているエンジニアだ。株式会社NAVICOに取締役 IT担当として所属し、同社で大学との共同研究をしながら、個人で他社の仕事もいくつか請け負っているという。いったいどんな時間の使い方をして、副業をこなしているのだろう?
「(それぞれの仕事に従事する時間は)曜日で区切ったり、時間帯で区切ったり、週末を使ったり、その時の相手の要望や仕事の状況によって変えています。場所も、個人情報保護の観点から相手のオフィスに出向く必要がある仕事もあれば、在宅でできることもあって、その時々で違いますね」(吉川さん)
マルチタスクが苦手な人にはなかなか難しそうだが、吉川さんは研究肌で、常に新しいことを知りたいという欲求があり、運用フェーズよりもプロジェクトの立ち上げフェーズの問題をクリアしていく仕事に面白みを感じる。そんな性格には、このスタイルが合っているのだそう。
コデアルを知る前は、知り合い経由で副業先を見つけることが多かったという吉川さん。以前はクラウドソーシングのサービスを使うこともあったが、発注者のレベルがまちまちなのでやり取りの手間がかかることが多く、今は利用していない。その点、コデアルは企業との間に人が入ってつないでくれるため、安心なのだそう。コデアルを通じてシステム開発を手伝った結果、今ではパートタイムでその会社のCTOを務めるようになったというから、確かにマッチングが成功しているようだ。
副業エンジニアを受け入れる会社に求めること
社外の人間として、パートタイムやリモートで開発をすることに慣れている吉川さんに、副業を受け入れる会社に求めることを聞いてみた。
「依頼する内容を明確にするということですね。『ちょっとこれやっといて』みたいなふんわりした依頼は、社内にいるエンジニアであればいいかもしれないですが、外部のエンジニアが対応するのは難しいです」(吉川さん)
また、エンジニア側は副業のつもりでも、企業側はその意識が薄いことが多いと吉川さん。吉川さんは自身の裁量で時間の融通をつけやすい方だが、多くの副業希望者は平日の昼間は本業に集中する必要がある。企業側には、その点を理解し、打ち合わせの時間などを調整することが求められる。
副業がうまくいくエンジニアとは?
一方、副業で働くエンジニアの方にはどんなスキルや心構えが必要か?
吉川さんが一番に挙げたのは、「限られた時間で、いかに凝縮したコミュニケーションをするか」ということだった。「こんな機能を開発して」と言われ、いざ手を付けてから疑問や問題にぶつかっても、相手にすぐに確認できるとは限らない。副業として限られた時間でやるからこそ、そういった時間のロスは致命的だ。エンジニア側は依頼を受けたその場で疑問点をつぶし、起きそうな問題を解決しておく必要があるということだ。
こういったことは、ある程度の経験やリモートで仕事をすることへの慣れがないと難しいだろう。実際、コデアルを利用して副業にトライするエンジニアの中には、「やってみたら難しかった」と分かり、30日の試用期間のみで終わる人もいるという。
また、仕事の難易度は相手の会社の体制によっても変わってくる。受け入れる会社側にしっかりとしたエンジニアのリーダーがいて、その人が窓口になっている場合は仕事がスムーズに進みやすい。だが、立ち上げ期の会社にはそういう人材がおらず、システム開発に詳しくない経営者や企画担当の社員とやり取りしながら進める場合も多いそう。そういう場合は特に、専門用語で話しても通じ合えない。コミュニケーションを円滑にするためには、仕事以外の話で距離を縮めるといった努力も必要だと、吉川さんは言う。
「エンジニアはドライでこういうことが苦手な人も多いのですが(笑)、仕事の話しかできないとお互いを知り合うことができないですよね。私の場合は、会話の中にちょっとした『あるあるネタ』を挟んで共感を得るなど、相手とのコミュニケーションをしやすい関係を作ることを意識しています」(吉川さん)
副業を増やすことで「リモートワークを当たり前にする」という狙いも
コデアル株式会社は、「すべての人にリモートワークを」というミッションを掲げている。
「コンピューターって、最初に登場した時はギークだとかオタクだとか、一部の人しか使わないものでしたよね。それが今はみんなが手元に持っている。リモートワークもそういうものにしたいし、できると思っているんです。だから会社としては、リモートワークが『一部の人のもの』という段階を越えていくような提案やしくみを作っていければ嬉しいです」(愛宕さん)
愛宕さんは、世の中にリモートワークを広げる鍵となるのは、「正社員がリモートワークできる」環境が整うことだと考えている。
「今はリモートワークについて、『業務委託で、安く仕事を頼めるやつだよね』と、みんな口には出さないけれど考えていると思うんです。雇用契約ではないので労働法の適用を受けないから、安くできてしまうということなんですね。それは良くないので、コデアルでは時間当たりの単価が2500円を切らない金額しか設定できないようにしています。ただ、それでもフリーランスの場合は、社会保険料を全額個人で負担することになりますので、目に見えないコストが大きいんですよね。だから、『正社員の人でもリモートワークできます』という状況を作っていくことがとても大事だと考えています。正社員でありながら、リモートワークで問題なく仕事できているという事例や仕組みを作っていくことができたら、もっと広がっていくのではないでしょうか」(愛宕さん)
愛宕さんの考えでは、コデアルは正社員がリモートワークできる環境の下地づくりにつながる事業だという。コデアルを利用することでリモートワークへの理解がある会社が増えれば、それらの会社がいずれは自社の社員にもリモートワークを認めるようになるだろうということだ。
「まずは一部の人から始まり、少しずつ理解のある会社さんが増えれば、エンジニアだけでなく様々な職種でリモートワークが可能になると思います」(愛宕さん)
最近は会社にテレワークの制度を導入するにあたり、社内の一部の社員や部署から試行をしてみるという話をよく聞く。愛宕さんと吉川さんの話から、社外のリモートワーカーをプロジェクトに入れて一緒に仕事をしてみるというのも、社内にテレワークを受け入れる文化を作り、ノウハウを蓄積するのにとても良い方法だと感じた。
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文・撮影/やつづか えり
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