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「レンタル移籍」「ベンチャー留学」で企業と個人が得られるメリットとは?

2016/08/16   更新:2018/12/02

「レンタル移籍」ーー、スポーツに疎い私にはあまり馴染みのない言葉だったのですが、プロサッカーの世界では所属するチームとの契約を保持したまま、期限付きで別のチームに移籍するということが結構あるようですね。

これを企業と社員の関係に応用した「LoanDEAL」というサービスがあります。出向という形で社員を送り出す企業と、その社員を受け入れる企業をマッチングすることで、人材育成や、リソースの確保などの価値を提供しようというものです。

この「LoanDEAL」を運営する株式会社ローンディール主催のイベントに参加してきました。

【未来の働きかたvol.1】 レンタル移籍は大企業の人材をどう変えるか? 森永製菓×浜松市役所×LUXA | Peatix

実際に他企業に出向中の3名の方とローンディール代表の原田さんのお話からは、「レンタル移籍」が企業にとっても社員本人にとってもメリットの大きい制度であると感じられました。(今回登場した3名は、「LoanDEAL」のサービスを利用した事例ではないそうです)

ローンディール代表 原田さんの経験

ローンディール代表 原田未来さん
はじめにローンディール代表の原田未来さんが、「LoanDEAL」を立ち上げた背景について語りました。

原田さん自身は、大学卒業後、創業期の株式会社ラクーンに入社し、アルバイト時代から通算13年間勤務、会社の上場や新規事業の立ち上げを経験。会社に対して強い愛着を持つ一方で、在籍年数が長くなるにつれて自身の成長の鈍化を感じるようになったそう。その後、企業規模がより大きく事業領域も異なる株式会社カカクコムに転職した際、前職では得られなかった経験をして再び成長実感を得られたといいます。

原田さんが自身のキャリアの中で感じた課題

企業の成長とともにイノベーション人材が育ちにくくなる

「この経験を1社目で得られたら、もっとできることがあったのに……」、「会社にとっても自分にとってももったいない」ーー、その思いが、自社では得られない経験による成長を”転職しなくても”可能にする「LoanDEAL」の原点になっているようです。

「出向」という形での社外留学を経験中の3名

続いて、実際に他社に出向中の3名から、それぞれの出向の経緯や出向中の業務などを説明があった後、全員でのパネルディスカッションが行われました。

森永製菓からウィライツに出向中 澤田佳佑さん

森永製菓からウィライツに出向中の澤田佳佑さん

2005年の入社以来、主にアイスクリームの営業をしてきたという森永製菓の澤田さんは、2015年10月から株式会社ウィライツに出向中です。

ウィライツは学童保育などの子ども向けの施設におやつを提供するサービスを展開するベンチャー。昨年、森永製菓が新規事業創造を見据えてベンチャーを支援する「Morinaga Accelerator」の支援先に選ばれ、その際に森永製菓社内で「ベンチャー留学」の希望者が公募されたそうです。

澤田さんが応募した動機のひとつは、「経営をやりたい」という入社前からの希望を実現するため。社内では「営業から経営へ」という例は少ないため、キャリアの軌道修正を図りたいと考えたのだそう。もうひとつは、以前に人事部の先輩と飲みながら「会社をよくするためには、社員が他流試合ができるといいよね」という話をしていたことを思い出したから。また、過去に澤田さん自身、今ウィライツで手がけているようなことを新規事業のプランとして社内に提案したことがあったことも大きかったようです。

出向して約10ヶ月、澤田さんは得難い経験をしているようです。従業員数1,000人を超える大企業から、社長と澤田さん2人だけの会社へと環境が変わり、当然ながら何でも自分たちでやらなければいけませんが、意思決定のスピードは圧倒的に速い。一方で、知名度が全く無い中で新規顧客を開拓していく厳しさも。また、メーカーである森永製菓での習慣から「モノを売る」ということに執着しがちだったが、サービスを提供するウィライツでは「売る」ことに限らない、もっと解のない探求が求められていることに気づいたといいます。

浜松市役所からスペースマーケットに出向中 阿部隼也さん

浜松市役所からスペースマーケットに出向中の阿部隼也さん
2011年に静岡県の浜松市役所に入庁した阿部さんは、今年4月から株式会社スペースマーケットに出向しています。

浜松市は今年、国の地方創生戦略に基づいた地方版総合戦略を策定し、その基本目標のひとつとして「若者がチャレンジできるまち」を掲げています。その一貫でベンチャーに若者を派遣することになり、市の35歳以下の職員から希望者を募集しました。出向先としてスペースマーケットが選ばれたのは、浜松には市町村合併によって発生した遊休施設が多数あり、その活用法を学ぶのに、会議やイベントなどに使えるスペースの貸し手と借り手をマッチングするサービスを展開している同社がうってつけだったからのようです。

5年間役所に勤めてみて、新たな経験をしたいという思いから出向を希望した阿部さん。初めて数字を受け持つ営業という仕事を担当し、それまでのスキルが全く生かせない厳しさを味わったそうですが、その表情からは充実した日々を送っていることがうかがえました。

LUXAからKDDIに出向中 瀬尾萌さん

LUXAからKDDIに出向中 瀬尾萌さん
澤田さんと阿部さんのケースとは逆に、ベンチャーから大企業に出向中なのが、瀬尾さんです。所属している会社のルクサがKDDIに買収されたことがきっかけでルクサの管理本部長と兼務でKDDIに出向し、両社の融合やKDDIにおけるEC戦略の立案などの業務にあたっています。

「自分は大企業に向いていない」「自分でルールをつくりたい」と、2010年に大企業からベンチャーに転職された瀬尾さんですが、今回の出向で再び大企業の仕事を経験し、「意外と柔軟なところもある」など、新たな気づきもあったそう。また、親会社と子会社の間で人材を送り合うのは、育成の観点からも、業務の効率化の観点からも有効なようです。

人材レンタルで企業が得られるメリットとは

皆さんの話を聞いて、「レンタル移籍」あるいは他企業への「留学」は、出向する本人にとっても、送り出す会社にとってもとてもメリットが大きいと感じました。

出向する本人は、「自社では得られない経験」からスキルの面でもマインドの面でも大きく進化できます。

特に大企業からベンチャーに行った場合、事業の立ち上げといったスキルの獲得以上に、マインドの面での影響が大きそうです。

例えば澤田さんは、出向してから「世界をどう変えるのか」と問われ続けているそう。

「そんなこと考えたことがなかったし、森永にいたら部長や役員になるまで考えなかったと思います。それを今できているというのは、すごく良かった。本気で『変えるんだ』と思うから新しいことが起こせるので、そういう考え方ができる人が増えれば、日本経済にとってもいいのでは」と澤田さん。大きな会社から小さな会社に行って、逆にものすごく大きな視点で考えるようになったというのが面白いですね。

送り出す会社側には、以下のようなメリットが考えられます。

社員の成長・スキルの獲得

特に新たな方向性を模索している会社においては、自社では得られない経験をしている人材が必要です。外から採用するという解決方法もありますが、良い人がいくらでも採れるわけではありませんし、自社のことをよく知っていて愛着もある社員が新たな経験を得てくることができるのであれば、それはとてもありがたいことではないでしょうか。

社員のつなぎとめ

パネルディスカッションでは「出向先が面白いがゆえに『辞めちゃおう』という気持ちは起きなかったか?」という質問が出ましたが、澤田さんも阿部さんも、今は「出向先で得たことを持ち帰って活かしたい!」という気持ちがとても強いようです。

会社としては、社員が帰社後に彼らの知見や情熱を活かせる場をきちんと与えなければ辞められてしまうリスクが高まるでしょうが、少なくとも「出向という成長の機会を与える」ということ自体は、社員のロイヤルティや責任感を高める効果がありそうです。

異なる文化、エネルギーを取り込む

阿部さんは、自治体の公務員として働く若者について、最初はみんなイノベーティブな考えや地域のために現状を変えていきたいという意思を持っているけれど、組織にいるうちにだんだんモチベーションが下がっていってしまうと感じているそうです。阿部さんが戻ることで、「もう一度若手の心に火を付けて盛り上げていきたい」と語りました。また、「この地域を変えたい」という想いが伝わったのか、最近は市役所の上司も阿部さんの一見突飛な意見に耳を傾けてくれるようになったとか。
【未来の働きかたvol.1】 レンタル移籍は大企業の人材をどう変えるか? パネルディスカッションの様子

組織によそ者が入ることで新たな風が吹く、という話はよく聞きますが、中にいた人が一度外に出ることで「よそ者」役をできれば、「あいつが変わったのなら自分も!」と周りに伝搬する効果も高そうです。

新たなネットワーク

浜松市が若手をベンチャーに送り込んだのには、事業を学ぶという表向きのミッションの他に、市にベンチャーを誘致するという思惑もあるようです。森永製菓も、ウィライツとの提携で、新たな販路やそれまでは難しかった最終消費者からのフィードバックを直に得るチャネルを持てるといったことが期待できるとのこと。

答えのない時代だからこそ、普通に業務をこなしているだけでは起きなかった出会いが新たな道を開くようなセレンディピティが、大いに期待できるのではないでしょうか。

企業の枠を超えて人を育てる世界へ

以上、出向者とその送り出し元の会社に対するメリットを挙げましたが、受け入れる会社にも、もちろんメリットがあります。例えばベンチャー企業であれば、自社で採用が難しいような人が一時的にでも来てくれればとても助かるでしょうし、そこから生まれる人脈なども魅力でしょう。
LoanDEALの掲げるミッション

原田さんは、「LoanDEAL」のミッションとして「企業の枠を超えて人を育てる世界」を実現したいと言います。今は大企業とベンチャー企業の間でのレンタル移籍を推進していますが、異なる地域や異なる業界など、いろいろな掛け合わせを実現することで、更に様々な経験と成長の機会が作れるでしょう。個人的には、社員本人が自分でキャリアの方向性を考え、「あの企業に留学して、こういうスキルを身につけてきたい」と会社に提案できるような関係が当たり前になったら、とても面白いと思います。

☆☆

参考:LoanDEAL

☆☆

文・撮影/やつづか えり

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