My Desk and Team

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好きな場所に暮らし、好きな仕事に打ち込む働き方

2013/01/22   更新:2018/12/10

伊藤淳一さん

Profile

伊藤 淳一 Ito Junichi
1977年、大阪府豊中市生まれ。大阪市立大学文学部卒。
学生時代はバンド活動に熱中し、卒業後もしばらく活動を続けていたものの、バンドが解散したため大阪のシステム開発会社に中途入社し、プログラマ人生をスタートする。
長男の誕生をきっかけに兵庫県西脇市に移住し、地元の外資系半導体工場の社内SEに転職。
2012年、プログラマとしてさらなるステップアップを目指して、株式会社ソニックガーデンに転職。現在は兵庫県西脇市からリモートでWebシステムの開発に従事している。
妻、長男、長女の4人家族。
妻は「Coupe Baguette(クープ バゲット)」という小さなパン屋さんを営んでいる。

Webシステムのプログラマである伊藤淳一さんは、奥さんとふたりのお子さんと一緒に兵庫県西脇市に暮らしている。

西脇市は、北緯35度と東経135度(経緯度で日本列島の中心)に位置するということで、「日本のへそ」とも呼ばれる町だ。

一方、伊藤さんが勤務する株式会社ソニックガーデンのオフィスがあるのは東京の渋谷。車だと600キロほどの距離を隔て、伊藤さんは在宅勤務をしているのだ。伊藤さんはこれを「リモート勤務」と呼んでいる。

上司や同僚とはもちろん、お客さんとのやり取りもSkypeやネットを駆使して自宅から行うという伊藤さんに、今のワークスタイルに至った経緯や、日々の様子を伺った。

離れていても孤独を感じない毎日

伊藤さんが毎日仕事をする場所は、寝室と仕事部屋を兼ねた一室。

仕事中はいつもSkypeにログインしている。6名いる他の社員もSkypeで常につながっているため、伊藤さんにも東京のオフィスでどんなことが話されているかがリアルタイムに分かるし、時々Skype越しに「伊藤さん、伊藤さん」と話しかけられることもある。もちろん、何か聞きたいことがあれば、伊藤さんから他のメンバーに声をかけることも可能だ(やはり隣に座っているのとは違って黙っていると存在を忘れられそうで、ときどき意識的に話かけるようにしているそう)。

ソニックガーデンではお客さんとのやり取りもプログラマが直接行う。伊藤さんにも担当するお客さんがいるが、やはりすぐに会いに行ける距離ではない。しかし距離にかかわらず、ソニックガーデンではお客さんとのミーティングもSkypeで行い、Web上の情報共有や進捗管理のツールを使ってコミュニケーションをとることが普通なので、伊藤さんがどこにいようとお客さんが違和感を感じるということは特にないようだ。

そんなわけで、在宅勤務をしていても常にオンラインツールを通じてのつながりがあり、寂しさを感じることはないという。

自宅で仕事をする伊藤さん。(写真提供:伊藤さん)

自宅で仕事をする伊藤さん。(写真提供:伊藤さん)

長距離在宅勤務スタートまでの道のり

伊藤さんは、以前は地元の工場で社内SEとして働いており、ソニックガーデンに転職したのは2012年6月。

「新しいことにチャレンジしたいという思いもあり、転職しようという考えはそれより前からありました。

ソニックガーデンの社長の倉貫さんはIT業界では有名で、Twitterブログなんかでおもしろいことを言っているな、とよく見てました。でも当時はまだTISという会社の社内ベンチャーで、独自に社員を募集したりはしていなかったので、縁がないと思ってたんです。

だけどある日ソニックガーデンが新会社としてTISから独立して、社員の募集も始まったことを知ったんですね。募集があったとしても勤務地は東京、となるのがだいたいのパターンなんですけど、募集要項を見てみたら『在宅勤務もOK』とあったんで『おっ!』と思って、ダメ元でも受けたろう、と…」

つまり伊藤さんは、はじめから「在宅勤務」という前提でソニックガーデンに応募したのだ。

ソニックガーデンが「在宅勤務OK」という背景には、すでにひとりのプログラマがアイルランドに渡り、そこで社員としての仕事をするという実験を行なっていたということがある。離れていても仕事ができる、ということがある程度わかっていたのだ。(参考:離れた場所で働くチームのつくり方〜1年間のアイルランドでの実践で学んだこと – Social Change!

だが、仕事のやり方は会社によってかなり異なるもの。中途入社でいきなり在宅勤務なんて、うまくいくのだろうか?という疑問がわいてくるが、伊藤さんの場合「いきなり」というわけではなかった。

ソニックガーデンではリアルタイムなコミュニケーションではSkype、それ以外の非同期なコミュニケーションではyouRoomを活用している。youRoomの利点については伊藤さんもこちらのブログも参照されたい。

社員募集の告知を見てすぐに応募した伊藤さんだったが、それから入社が決まるまでに、半年ほどの選考期間が続いた。

半年というのは、中途採用の選考期間としてはかなり長い。その上選考方法も、一般的な書類選考と面接、というのとは大分異なる。課題を出されてプログラムを書いたり、ソニックガーデンの自社サービスの開発の手伝いをしたりしながら、最初の3ヶ月くらいは社長の倉貫さんと、後半には他の社員とも、Skypeや情報共有ツールYouroomなどを使って、進捗報告や相談を頻繁にしていたのだ。

もともと「すぐには決まらない」と言われて始まった選考のフェーズは、伊藤さんとソニックガーデンとがお互いに相手をよく知り、一緒にやっていけるかどうか納得のいく判断ができるまでじっくりと行われた。伊藤さんにとっては、いつになったら決まるのか分からない不安もあったが、そうやってよく知り合った上で入社が決まったのは、やはり良かったという。

以前に自宅から通勤できる他の会社に応募してみたとき、これまでやってきたことを知ってもらおうと自分のブログのURLを事前に伝えていたのだが、面接では一切言及されなかった。プライベートの時間を使って勉強していることや仕事に対する思いなど、履歴書と面接だけでは分からないことがあるはずなのに、この会社はそういうことには興味が無いんだなと感じ、とても入社したいとは思えなかった。

ソニックガーデンでは、採用する方もされる方も、納得がいくまで相手を見る。チェックポイントとしては、スキルと仕事内容や待遇といったことだけでなく、会社の考え方になじむか、既存のメンバーとうまくやっていけるか、といったことも含まれている。このような選考期間を経て入社すれば、書類選考と面接のみで採用される場合に比べて、仕事もスムーズに始めやすいに違いない。

さらに、入社後もすぐに在宅勤務が始まったわけではなく、最初の3ヶ月間は伊藤さんが東京に滞在して研修を受けた。その研修が、会社独自の仕事の進め方を理解したり、伊藤さんと他の社員との信頼関係を築くのにとても役立ったのだという。

距離を隔てた在宅勤務は、そういった準備を経た上で始まったのだ。

信頼できるメンバーだからできること

living
入社して7ヶ月ほどたった現在、伊藤さんは今の状況にとても満足している。他のメンバーの技術レベルがとても高くて「早く追いつかなければ」というプレッシャーは感じているが、それも含め、充実感をもって楽しく仕事をしている。

以前の会社では、色々憂鬱なこともあったという。それは例えば、システム開発のプロセスでたくさんのルールが存在し、踏まなければいけない手続きが多いことであったり、残業せざるをえない状況だったり…。

今は残業がほとんどなくトータルの業務時間は減っているものの、純粋に開発に集中できる時間はむしろ増えて、とても効率よい。それは、前述のビジネスモデルの違いと、少数精鋭で互いに信頼出来るチームであることが大きいようだ。

伊藤さんがソニックガーデンに入社して強く感じたのは「これだけ信頼ベースで何もかもやっているんだなぁ」ということだったという。その状態を伊藤さんは「性善説で動ける」と表現する。

お互いのスキルや仕事の進め方について信頼ができているなら、チーム内で余計なルールを作らなくても仕事はうまくまわる。これが「性善説で動ける」ということだ。

逆に、メンバーの数が増えて、スキルレベルも考え方も色々な人が混じっている状態になると、問題を発生させないためにたくさんのルールが作られていく。これは「性悪説」で動いている状態だ。

世の中の多くの組織は、後者に当たるだろう。「ルールで縛らなくても大丈夫」と、社員全員を信頼の目で見られる状態を保つには、採用や教育の面で相当な手間ひまをかけなければいけない。しかし、ソニックガーデンはその手間ひまをかけて、信頼ベースで動けるチームを保ち続けていこうとしているようだ。

だから、急いで社員を増やして拡大していこうとは考えていないし、ひとり採用するのに長い期間と多くの労力をかけ、採用後の研修も丁寧に行う。そういうやり方をしているからこそ、遠く離れた場所での在宅勤務でも仕事を任せられる体制ができているのだろう。

伊藤さんにとっての「在宅勤務」の意味

奥さんがちょっと出かけるときに子どもを見ておくなど、必要なときに手を貸すこともしやすくて、在宅勤務は家族にも優しいという伊藤さん。

ただ、もしオフィスが自宅から通えるところにあるなら、在宅ではなくオフィスで仕事をするという。Skypeでのコミュニケーションでそれほど困ることはないとはいえ、ちょっと教えてもらいたいことがある時などは、やはりすぐそばにいるほうが声をかけやすいからだそうだ。

今住んでいる場所には、ひとりめのお子さんの誕生後に大阪から引っ越してきた。奥さんの出身地でもある西脇市は、自然に囲まれ、子どもたちをのびのび育てるのに最適と考えたからだ。伊藤さんの場合、「在宅勤務がしたい」というわけではなく、自分が住みたい場所に住みつつ、好きなプログラミングの仕事を思い切りやれる方法として、今の働き方があるのだ。

東京では考えられないくらい、ゆったりとした空間に建つ伊藤さんの家。手前に見える白い建物は、奥さんの営むパン屋さんだ。

伊藤さんのような働き方を実現したいと思ったらどんな準備をしておいたらいいか、聞いてみると、
「信頼がないとこういう働き方はできないので、自分のスキルを証明するものが何もない状態で『在宅勤務したいです』と言っても、難しいです。だから普段から技術力を磨いて、信頼度をプールしておくこと。作ったプログラムを公開したり、ブログを書いたり、見せられるものがあると強いですよ」
という答えが返ってきた。

企業にとっては、優秀でモチベーションの高いメンバーを全国から集められる可能性を考えると、「遠隔地での在宅勤務OK」という採用条件も検討してみる価値があるのではないだろうか。その際は、社員のことをよく理解し、いかに互いに信頼しあえる組織を作っていくかが大きなポイントになるのだということが、伊藤さんのお話からよくわかった。

☆☆
在宅勤務の様子やソニックガーデンへの入社のプロセス、研修の内容などがより詳しく分かる、伊藤さんのブログ記事をご紹介します。

また、伊藤さんからのご紹介でこのサイトに「MessageLeaf」を設置しました。
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(MessageLeafは2016年7月にサービス終了しました)

☆☆

取材・文/やつづか えり 撮影/八塚 裕太郎

 

こちらも合わせてお読みください! >> 伊藤さん取材後記

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