学校から帰ってくる子どもを迎える、各地にいる仲間に会いに行く…、リモートワークだからこそできることと必要なノウハウ
2016/05/16 更新:2018/11/30
札幌在住の中山亜子さんは、小学生の子ども2人を育てるシングルマザー。今年「リモートワークジャーニー」というコミュニティを立ち上げ、3月と4月にかけて札幌、東京、福岡でリモートワークに関するワークショップを開催した(今後も各地でのワークショップなど活動を継続予定)。背景には、「リモートワークという働き方を広めたい!」という中山さんの強い思いがある。中山さんは今年1月、在宅勤務をする前提で東京のラフノート株式会社に転職し、その働き方に大きなメリットを感じているのだ。
先日中山さんが東京に出張されたタイミングでオフィスを訪問し、生活やワークスタイルの変化について伺った。また、後半ではラフノート代表である西小倉宏信さんにも参加いただき、リモートワークを前提としたチーム運営のポイントをお話いただいた。
思春期を迎える子どもたちのため、働き方を変えることを決意
Profile
中山 亜子 Nakayama Ako
ラフノート株式会社 デザイナー
ITバブルの時代、VBプログラマーとして業務系システムを担当。
その後、結婚出産を機に現場から離れるが、小さな出版社で編集のアルバイトや夫の会社を手伝うためあらゆる事を担当。営業から総務、紙モノのデザインまで。
その後、シングルとなり現場に復帰、子供と3人で暮らしている。
フロントエンジニアとして経験を積む中、デザインの担当となりwebシステムの画面デザインを担当する。
Profile
西小倉 宏信Nishikokura Hironobu
ラフノート株式会社 代表取締役
2007年に関西大学を卒業後「株式会社マインディア(現:ラフノート株式会社)」を創業。個人では離れた人と同じ音楽を聞きながら仕事に集中する「245cloud(ニシコクラウド)」をオープンソースで開発・運営している。また、「管理画面チラ見せ♡ナイト」の主催者でもある。
中山さんはとても仕事が好きな人——、それが顕著に感じられたのは、第一子出産を機に退職した理由を聞いた時だ。「仕事が好きすぎて、両立できる気がしなかった」というのだ。長時間残業も苦にせず打ち込んでいたため、育児と両立するために時短勤務で続けるというような働き方がイメージできなかった。だから一度辞め、子育てが落ち着いたらまた働きはじめようと考えたそうだ。
その後、夫との起業、離婚を経て、中山さんは再就職先を探すことに。子育て中女性の採用は敬遠されがちで大変苦労したが、職務経歴書を自分でデザインするなどの工夫をし、札幌の企業に再就職を果たした。
だが、毎日出勤してフルタイムで働き続けているうちに、気が付くと家族がみんな疲れてしまっていたという。
「再就職した時、子どもは小学校2年生と4年生。学童は嫌がったので、放課後は家で留守番していました。私の帰りが遅くなる時は近くの両親に預かってもらったりもしたのですが、しょっちゅう一緒に過ごしていると、『もっと勉強しなさいよ』などと口うるさくなってしまって、子どもたちは祖父母のところにいたがらなくなってしまったんです。そうすると、私の帰宅が21時くらいになっても子どもたちはご飯も食べずに待っていて、こたつで寝ていたりして……。小さいうちはまだ待っていてくれるだけいいけれど、このまま思春期になったら大丈夫かな、勝手に家を出て夜遊びしてしまったりするんじゃないかな、と心配になりました」
「働き方を変えよう」、そう決心した中山さんは、在宅で仕事をするべく「リモート勤務可」を条件に転職先を探し始めたのだ。
「お試しリモート勤務」を経て、転職を実現
中山さんは、転職先をWantedlyで探した。リモート勤務をするからには、価値観が合う会社をじっくり見極めたかったが、従来型の就職情報サイトは「書類選考→面接→内定」という「正攻法」での方法しか開かれておらず、「子育てをしながら在宅で働きたい」、「入社前に価値観が合うかどうかを十分に確かめたい」といった希望が通りづらいと感じたのだという。
「一緒に働いてみないと合うかどうかなんて絶対わからないから、まずは『お試し』で働かせてもらおうと決めていたんです。時間がかかってもいいから、一緒に働いて会社の中を見て、自分のこともよく見てもらってから判断したいと思っていました」
実際、Wantedly経由でラフノート株式会社と連絡を取り合った後は、前の会社に勤めながら空き時間を使い、ラフノートの仕事の「お試し」を2ヶ月間行った。その後で、正式なメンバーになることが決まったのだ。
現在は新しい仕事とワークスタイルに慣れるべく奮闘中だが、場所を限定されずフレキシブルに仕事ができるようになったことに様々なメリットを感じているという。まず何よりも、学校から帰ってきた時に中山さんが家にいられるということが大きい。
「学校が終わって2時とか3時に帰ってきた時に私が家にいることに、子どもたちもとても喜んでいます。私はその時間は仕事中ですが、学校の提出物に書いて欲しいことがあるとか、こんなことがあったとか、ちょっと話をしたいときにできるというのは、やっぱりいいんですよね」
また、子どものひとりは本格的に新体操に取り組んでいて、電車に乗って通う練習には中山さんが付き添う。長い時は6時間くらいかかる練習の間、以前はただ待つしかなかったが、今はその間に近くのカフェで仕事をできるようになり、効率的に時間が使えるようになったのも、とてもありがたいそうだ。
リモートワーカー、クラウドワーカーが活躍する今どきのITベンチャー
本社が東京にあるラフノート株式会社だが、代表の西小倉さんは普段大阪で仕事をしている。3年前、西小倉さんに二人目の子どもが生まれるときに実家のある大阪に家族で行き、リモートで仕事をしてみたところ、全く問題がなかった。それをきっかけに、各自が好きな場所で働くリモートワークが基本の体制になったそう。現在は9人のメンバーが北海道、関東、大阪におり、それぞれの自宅や事務所で仕事をしている。
また、クラウドソーシングで社外のメンバーを集めてチームを作り、「原価共有型受託開発」という新しい形の事業を行っている(参考:ラフノート株式会社 事業内容「原価共有型受託開発」 )。そのための時間管理と原価計算のツール「TimeCrowd(タイムクラウド)」を独自に開発するなど、リモートワークと併せ、IT企業として最先端の経営方法に果敢にチャレンジしている会社だと言えるだろう。
西小倉さんに、リモートワークを前提とした社員を採用するときのポイントを聞くと、「リモートワークのメリットを享受できる人がいい」という答えが返ってきた。
「小さい会社なので、福利厚生とか給与面では他の会社に劣る面もありますが、他社ではできない自由な働き方ができます。だから、子育てしながら働くために通勤時間などの無駄を省きたいといったニーズを持つような人がいいと思いますね」(西小倉さん)
その他、リモートではテキストでのコミュニケーションが多くなるため、「テキストで思いを表現できること」、「ITエンジニアの場合は即戦力となること」などが求められるという。
リモートワークの課題と試行錯誤
お試し期間も含め、リモートワークを始めて半年ほど。中山さんはいくつかの課題を感じているようだ。
ひとつは、遠隔でのコミュニケーションの難しさだ。
「エンジニアの人はコードで話せば分かるというところがありますが、そうでない部分のときに、文字でのコミュニケーションの気遣いが難しいです。会ってしまえばすぐ解決することもありますが、会わないと本当にうまくいかないのかどうかは課題ですね。それと、一緒に仕事をする上でどこまでのコミュニケーションが必要なのかも、難しい問題です。人によって、プライベートな部分まで知り合った方がうまくいく場合もあるし、仕事のことだけ話したいという人もいる。同じ場所で働いていると、一緒にお昼を食べたりして雑談の中でその人のスタンスが見えてきたりもしますが、リモートだと距離感が測りづらい、ということは感じています」
この点、西小倉さんはリモートワークを前提としつつ、各メンバーと会ってお互いを理解し合うことも大切にしている。中山さんを採用するときは北海道まで行って直接話をし、その場で内定通知書を渡したそうだ。毎週水曜日には東京のオフィスで定例ミーティングに出席したり、その他にも機会を見つけて各地にいるメンバーと会う。そういうことができるのは、どこででも仕事ができるリモートワーカーだからこそだ。
西小倉さんが今課題に感じているのは、自分以外のメンバー同士が会う機会があまりないことだという。
「全員で合宿をするというような方法もありますけど、大人数で集まってもあまり話をできなかったりもするので、色々な組み合わせの少人数で会える機会ができればいいな、なんて考えています」(西小倉さん)
もうひとつ、リモートワークで問題になりがちなのが、「仕事をしすぎてしまう」ということだ。
「勤務時間は8時から17時なのですが、ついそれ以降もやってしまうんですよね。クラウドソーシングで仕事をお願いしているワーカーさんが稼働するのが夜だったりして、スマートフォンにメッセージがくると、それに返信したり。ずっと仕事のことが頭から離れなくなってしまいます」(中山さん)
取材当日に行われていた週次ミーティングでは、上述した「TimeCrowd」というツールを使い、各メンバーが何の仕事にどのくらいの時間を費やしたのかを確認しながら振り返りや対応の相談をしていた。お互いの姿が見えないリモートワークでは、ツールを使って仕事の状況を可視化する努力、そして各自のワークライフバランスを尊重するという意識を持つことがとても大事になってくる。

遠隔にいるメンバーもオンラインで参加し、週次の振り返りをするラフノートの皆さん
リモートワークを始めると、どうしても一時的には中山さんのような悩みに陥るものかもしれない。でも、遠隔でのコミュニケーションや仕事のオンオフのコントロールは、学び、実践することでスキルアップしていけるものであるはず。中山さんが始めた「リモートワークジャーニー」は、リモートワークの認知を広げるだけでなく、より上手なやり方をみんなでシェアしていく場にもなっていくだろう。今後の発展が楽しみだ。
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取材・文/やつづか えり 撮影/サリー 富多
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