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危機感が企業の働き方を変える〜ヤマト運輸の事例から〜

2016/03/27   更新:2018/12/10

3月26日に、「iction! Forum 2016」に参加してきました。これは、リクルートホールディングスが「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る」を目指して立ち上げた「iction! プロジェクト」によるイベントです。

iction! FORUM 2016 サイト

3つのパネルディスカッションが行われたのですが、その中でヤマト運輸株式会社 人事戦略部長の渡邊一樹さんが話されたことがとても印象に残りました。

約1万2千人の女性がパートタイムの配達業務に従事

ヤマト運輸では現在、約1万2千人の女性パートタイマーが配達業務を行っているそうです。

宅急便の配達というと、男性が1日じゅうトラックで走り回り、重い荷物を玄関まで運んで…、という印象がありますが、自転車や台車で働ける軽い荷物を、お客さんの在宅率が高い午前中に集中して届けて回るという部分を女性の配送員が担っているとのこと。

このしくみ、2010年頃からトライアルで始め、2014年には全国展開し始めたようです。

配達は通常、セールスドライバー(SD)が地域を1人で担当する。チーム集配は、SDが地域の主婦などの女性を中心としたフィールドキャスト(FC)と呼ばれるスタッフとチームを組んで配達を行う。
あらかじめ決められた時間、駐車場所の一カ所に集配車が停車する。そこへ待機しているFCとドッキングして順次、荷物を各自、台車や自転車で荷物を配達する。SDも入れて3人のFCと組めば時間効率が4分の1に短縮、4倍のスピードで配達される。
そのエリアの配達が終了すればバス停方式でSDが次へ移動、そこにもFCが待機している。
宅配便の不在率は10時を過ぎると一気に上昇すると言われるが、チーム集配では荷物を10時までに配達先に届けることが可能だという。

日本流通新聞 2012年8月13日付誌面から

 ヤマト運輸は配送の効率化に向け、女性配送員を今後3年で5割増やし2万人体制にする。3~4人がチームを編成し荷物を届ける仕組みを新たに導入、ドライバー単独での配達から切り替える。午前中に集中して配ることで、再配達による時間ロスを減らす。インターネット通販の普及で宅配便の取扱個数は増え続けており、地域に詳しい主婦層を戦力に活用して、迅速できめ細かな配送サービスにつなげる。

ヤマト、女性配送員5割増の2万人 主婦を戦力に:日本経済新聞  2014年8月13日の記事)

徒歩・自転車圏内で短時間働きたい女性のニーズにマッチ

今回のイベントでは、「出産後、仕事を続けられない(第一子出産後に仕事を辞めた女性の約4割が辞めたことを公開している)」、「再就職したいのにできない」といった女性の仕事に関する課題が何度も言及されました。

再就職したいのにできない理由スライド

「再就職したいのにできない」理由のひとつは、「希望の条件に合わない」というものです。アンケートで「希望条件に合わない」と回答している人のうち、「徒歩・自転車圏内」を希望する人が81%、「勤務時間3〜5時間」を希望する人が28%とのこと。

確かに、これを満たす仕事となると選択肢は限られそうですが、このニーズにぴったりマッチしたのが、全国6000箇所に営業所を持つヤマト運輸の女性配送員の仕事だったのですね。

上に引用した記事にあるように、営業所に出向くのではなく配達する現地に集合するのでかなり近距離での出勤が叶うし、子どもが幼稚園に行っている間だけ働く、といったことも可能になっているのです。

とは言え、「運送業=男性の仕事」というイメージは根強く、求人広告を出しても女性には反応してもらえないので、担当の地域を熟知しているセールスドライバーが女性配送員のスカウトをし、そこから女性配送員になった人が自分の知人を誘い…、という形で地道に担い手を増やしてきたのだそうです。

危機感が働き方を変えた

渡邊さんによると、このように自宅近くで短時間働きたい女性のニーズにマッチする配達のしくみを作った背景には、「今後、必要な労働力が確保できなくなる」という会社の危機感があったようです(上に引用した記事にあるように、午前中の集配を手厚くしたいという意図もあると思いますが)。

「労働人口が減っていくという中で、就労者の求める働き方にしないと、会社が発展しないという危機感がありました。会社の方から変えていかないと、企業の競争力が削がれていく。逆に変えることで、将来的に企業が発展していくという考え方です」(渡邊さん)

こういった危機感は、今現在人材獲得の面で苦労している運送業や建設業は持っていると思うが、いずれ他の業界にも波及していくだろうとも、渡邊さんは言います。

今回のフォーラムの基調講演では、リクルートワークス研究所の大久保幸夫さんが、「長年、日本の労働環境はなかなか変わらなかったが、この4年間では劇的に変わってきている」とおっしゃっていました。「まずい! 人が採れない」と危機に直面する、あるいはその兆しをリアルに感じる企業が増えてきて、変わっていくのでしょう。そういう意味では、働きやすい職場は今人気の職業ではないところから生まれてくるのかもしれない、なんてことを感じました。

☆☆

文・撮影/やつづか えり

 

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