My Desk and Team

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在宅勤務・テレワークを導入するなら読んでおきたい『リモートチームでうまくいく』

2016/01/18   更新:2018/11/30

ソニックガーデン代表の倉貫義人さんによる『リモートチームでうまくいく』を読みました。ソニックガーデンは、「好きな場所に暮らし、好きな仕事に打ち込む働き方」でインタビューした伊藤さんが所属する会社です(インタビューからもう3年も経ちました!)。

タイトルに「リモートワーク」ではなく、あえて「リモートチーム」という言葉を使っているのは、「リモートワーク」でイメージされがちな「フリーランスがクライアントの外注先として仕事を請け負う」といった働き方とは明確に区別した、リモートワーカーたちによる新しい組織のあり方を提唱するという意図があるからでしょう。

 しかし、顔を合わせて一緒に働いて、相談しながら作り上げていくような仕事であっても、離れた場所でやっていくことができるーーこれこそが、本当のリモートワークだと私は考えます。アウトソースできないような仕事をリモートワークで実現することこそが、これから求められる新しい働き方なのです。

『リモートワークでうまくいく』21ページ

この本ではリモートワークを前提とした組織を「リモートチーム」と呼び、同社の実践で得られた具体的なメリットやノウハウが紹介されています。

本サイト「My Desk and Team」も、個人の柔軟な働き方とチームとしての仕事の成果をうまく両立するための事例やノウハウをシェアしたいと考えてやってきましたので、とても共感する内容でした。

出社が当たり前の組織でも「リモートチーム」に変化できる

いろいろな事例を見聞きしていると、「最初から自然発生的にリモートワークをしていた」ような組織はリモートワークをしやすいという傾向があります。小さいスタートアップなど、最初の頃は決まったオフィスがなかったり、あったとしてもメンバーそれぞれがあちこち飛び回っていたり他の仕事と兼務していたりということで、「仕事をする=オフィスに出社する」ではない仕事の仕方が常識になっていて、後から入ってくるメンバーもその常識を受け入れていくようなパターンです。

裏を返せば、「出社して仕事するのが当たり前」だった組織がリモートワークを取り入れようとすると、何かしらの困難があるわけです。その困難を乗り越えられず、「リモートワークはイマイチ。やっぱりやめよう」となったり、やめるまではいかなくても使われない制度になってしまうケースもあるでしょう。

ソニックガーデンは一見、「最初からリモートワーク」型の会社のように見えますが、実はそうではありません。

 私たちの会社は、とある大手企業の社内ベンチャーからスタートしました。そのため、当時は母体企業のオフィスの会議室を一室借りきって、そこで全社員が働いていました。大手企業だったので、もちろんビルやセキュリティはしっかりしていましたし、社員は皆、やはり当たり前のようにオフィスまで通勤するワークスタイルでした。

『リモートワークでうまくいく』184ページ

そんな彼らが、「英語を勉強しながら仕事をしたい」と海外でリモートワークを始めた社員の存在や、東日本大震災や親会社からの独立、リモートワーク前提での中途採用など様々な契機を経て、少しずつリモートチームという考え方を確立させていったことが、「第7章 リモートチームに至るまでの道のり」を読むとわかります。

この例を見れば、リモートワークをすることなんて思いつきもしないような会社でも、その気になればできるということが言えるわけです。ただ、前述のとおりそこにはいろいろな困難が付随します。成功するためには必要な考え方や工夫がある。だからこそ本書が著されたのでしょう。

「トップが在宅勤務を実践」の重要性

紹介されている考え方や工夫の中でもとても重要だと感じたのが、「リモートワーカーをマイノリティにしない」ということです。

ソニックガーデンの場合、社長の倉貫さんもあえて在宅勤務をし、オフィスには必要最低限しかいかないという働き方に変えたそうです。それでリモートワークのメリットをさらに感じるとともに「リモートワークをする側が多少の情報のハンディキャップを持っていたことに気づいた」とのこと。

大多数の社員が出社して働いている中で一部のメンバーが在宅勤務をしていると、どうしても在宅勤務者には伝わらない情報があったり、多少のやりづらさを我慢しながら働かざるをえない状況になるのはよくあります。それを放置していると、出社しないと最大のパフォーマンスが出せないということになり、在宅勤務者のストレスやモチベーション低下に繋がるばかりでなく、オフィスにいる他の社員もしわ寄せを受け、「リモートワークはなるべくなら避けるべきもの」という位置づけになってしまいます。

「リモートワーカーにとって何がやりづらいのか?」は、実際にやってみないとわかりません。リモートワーカーが訴えることはできても、体感していない人にはそれが配慮すべき重要なことなのか、単なる個人のわがままなのかわからないでしょう。社長やマネージャーなど、社員の働き方を方向づける影響力のある人ほど、実際にやってみるということが重要です。

リモートワークの課題は教育とセキュリティ

出社が前提となっていた組織にリモートワークを取り入れようとした時、以下のようなことが課題になります。

  • ツール(リモートワークを可能にするハードやソフト)
  • コミュニケーション(情報共有、仕事の評価、組織文化の醸成など)
  • 教育(リモートワークを可能にするスキルや行動規範の付与)
  • 情報セキュリティ(オフィス外で仕事をすることに伴うリスクへの対応)

今のところツールとコミュニケーションについては様々な議論がされており、ノウハウもたくさん共有されつつありますが、教育とセキュリティについてはまだまだまとまった情報が少なく、リモートワークを取り入れる際のネックに感じている企業も多いのではないでしょうか。

ソニックガーデンの場合は採用に時間をかけ、セルフマネジメントができてチームワークも大切にするという資質をもった人を見極めることで教育のコストを下げているようです。ただ、ベテランだけではなく新卒採用もしていて、その場合は入社して数年間オフィスで働いてセルフマネジメント力を身につけるまで、リモートワークはさせないそうです。

在宅勤務が可能な条件を「入社◯年目以上」としている会社は他にもありますが、「いずれはリモートワークできるように」というソニックガーデンの育成方針は、本人がリモートワーカーにならなかったとしても、これからの社会人として必要な力を身につけるのに有効な気がします。

情報セキュリティ対応に関しては、本書ではほとんど触れられていません。ソニックガーデンの場合、情報リテラシーやモラルの高い人を採用・育成することでリスクを下げているということが言えそうです。ただ、そういう人たちばかりでない企業はルールやツールでいろいろ対策を打たないと危険、取引先の了承が得られないという面が多分にあるでしょう。柔軟な働き方ができる人たちがもっと増えていくためには、セキュリティに関するノウハウが、より世の中に共有されるようになる必要があると感じます。

だからこの本を読んで真似ればすべて解決、というわけではありません。社員の一部であっても在宅勤務、テレワーク、リモートワークを取り入れようとするなら個々の組織なりのルール作りや工夫は必要です。でも、その前提として「リモートワークを取り入れるならチーム全体での取り組みにすべし!」という考え方やそのためのどんな努力がなされているか、本書の内容を知った上で考えてみることをおすすめします。

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参考記事

☆☆

文/やつづか えり

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