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「複業」をIT業界のムーブメントに! サイボウズ×ダンクソフト 複業三者対談

2016/01/06   更新:2018/12/10

2年前にサイボウズとダンクソフトの2社に所属する「複業」を始め、今では3社目の会社にも所属するなど、活動の幅を広げている中村龍太さんと、そのボスであるサイボウズの青野慶久社長、ダンクソフトの星野晃一郎社長の3者対談の後編です。

(前編はこちら

複業を実践する中村龍太さん

複業を実践する中村龍太さん

複業社員の存在が組織に与える影響

— 社内のメンバー、あるいは組織に対して、龍太さんの存在はどんな影響を与えていますか?

青野:2つ切り口があって、ひとつは「イノベーター」としての影響です。龍太さんが他の仕事をしていることで、サイボウズのクラウドの新たな適用場所が見つかってきています。農業でのIoTをダンクソフトさん経由でうまくやっているとか、サイボウズの今までの経験ではできなかったことが、複業している人によって一気に枝が伸びるという効果が出ているんです。

経済学者のシュンペーターは、イノベーションを「新結合」と定義しているそうです。複業って、正にその新結合を生み出すものですよね。会社の中にないものを外の世界から引っ張ってきて結合できる、これこそがイノベーション。そう考えると、みんな僕の知らない世界で複業して、どんどんイノベーションを加速してくれればと思うくらいです(笑)

星野:僕らも、龍太さんの活動が広がることによって彼のネットワークにいろんな人種が加わり、その人たちがITを使った時に何が起こるか? というのを見られることにメリットを感じています。自分たちでも実証実験をしていますけど、地方だとか実業の現場でのリアルな状況を早く見られるというのは大きいですよね。

星野さん、青野さん、龍太さんによる対談の様子

青野:龍太さんが与えているもう一つの影響は、キャリアに関して。先ほど言った「市場性」で給与を決めるということになると、今サイボウズに増えている40代、50代の人はきつくて、普通その年代で転職するとそれほど値段がつかなくなってきますよね。そのときに給料を維持、もしくは増やす方法として「複業」というパスがあるんだと。サイボウズでの給料は減るかもしれないけれど、サイボウズで培ったノウハウや経験を他で高く買ってもらえれば、そこで収入を補える。これはサイボウズにもメリットがあって、外に行ってエコシステムを広げてイノベーションを起こして帰ってくると、サイボウズの評価も上がります。だから、ベテラン社員は無理やり複業させようかな、と考え始めているところです(笑)

中村:サイボウズでは「仕事Bar」といってお酒を飲みながら仕事について語り合う機会がありまして、そこで僕が複業の話をしたときも30人くらい集まったので、興味を持っている人はそれなりにいると感じますよ。

青野:そういえば、僕は龍太さんの「仕事Bar」の資料を見てひらめいたんですよね。「複業をしていると複数のグループウェアを使うことになって、それが不便でかなわん」ということが書かれていて…。

サイボウズ 青野社長

中村:そう、Outlook、Office365、Google、サイボウズOfficeにGaroon、チャットワーク、Facebook…。いろいろ使わなきゃいけないのが、ほんとに不便です(笑)

青野:それを見て「なるほど、これって未来の会社員がみんな経験することになるんじゃないか。ひとりが複数の会社にまたがり、間をつなぐような働き方を始めるとすると、グループウェアの形も変わるはずだ」と気づきました。それを前提に作り変えないと時代遅れになるぞということで、長期の事業プランに組み込みましたからね。

複業を理想のキャリアモデルのひとつに

— もっとこういう人が増えて欲しいということですが、複業がうまくできる人ってどういう人でしょう?

青野:これはサイボウズが大事にしていることと同じなんですが、ひとつは「公明正大」であるということ。こういう働き方をするときに、「この人は絶対にウソをつかない」という信頼があることが必要ですね。もうひとつは「自立」で、その人が自分でマネジメントできないと、まさに引っ張り合いになってしまったり、仕事を抱えすぎて行き詰まっちゃうかもしれないので。それが重要な要素で、そこがない人は「まだ複業は早いかな」と思いますね。

星野:うちの会社では、採用するときに説明する「こういう人になってほしい」というのを、「ポリバレント」と表現しています。サッカーの用語で、一人の人がいろんなポジションでいろんなことができるという意味ですが、「エンジニアでかつデザイナーで経営も少し分かる」みたいな人を求めるということで、あくまで社内での話だったんですね。でも、会社の枠を超えちゃった人がここにいる(笑)

ポリバレントを突き抜けたような、こういう働き方を目指そうとしたら、龍太さんがやっていることをちゃんと見て、個人個人が何をしなきゃいけないのかというのを考えなきゃいけない。でも考えればそこにたどり着けるというモデルがいるというのは、若い人にとっていいことです。

それと、うちも30,40代の社員が多いんですよ。ひと昔まえだと「SE35歳定年説」というのもあって、キャリアプランを描けなかったんですよね。それがこういう形で新しいモデルが出始めているというのは、ITの業界にとってもすごくいいですよね。

そして、もうちょっと我々のユーザー(顧客)側に近づいていくとユーザーに取ってのメリットもあって。中小企業ではなかなかスキルのあるエンジニアを抱えられないですから、そこを複業で補完してくれるような人がいると面白いんじゃないかと思うんです。そのためにはユーザーのことをもっと知らないといけないんですけど、うちの社員もそういうところを目指してスキルアップしてほしいなと。

青野:ほんとですね。それムーブメントにしたいですね!

今日本のITの問題はそこにあって、ユーザー側の視点に立ってくれるプロがいないんですよ。「あんな高い見積もりウソですよ」と言ってくれる味方が近くにいれば、相当安心してシステム導入できますから、SEはみんな複業でそれをやればいいと思いますね。

サイボウズ 青野社長

中村:スパイがいっぱい、みたいな(笑)

星野:それってオープンになるということなので、企業にとってメリットがあるはずなんですよ。

 

— IT業界の若い人たちが、そういうキャリアを目指してスキルアップしていけば、みんな龍太さんのようになれると思われますか?

星野:自分のやりたいことを明確にすることで、札の切り方も見えてくるんだと思いますよ。今はみんなITの中でしか考えていないので出先が少ないけど、もっと広げて考えるとやり方があるでしょう。

青野:みんながなれるとも、なった方がいいとも思わないですけど、今は複業をした方が幸せだろうなという人も、それができないという社会だと思います。そこはもっと自由にできるようになるといいですよね。

それと、PTAだとかマンションの管理組合だとか、誰でも会社の仕事以外に複数の顔があるのは当たり前のはずで、そういう「広義の複業」はみんなやった方がいいと思います。

星野:昔の社会は会社第一で、社会との接点を切り捨てて会社人間になっていた人が多かったわけですけど、本当は社会で接点をもっていろんなことをこなせる方が楽しいはずです。できる人は、そこからのフィードバックを仕事に戻せるんですよね。

ダンクソフト 星野社長

中村:青野さんもよく、育児をしたことで社会との接点ができたとお話されてますよね。

青野:そうです。それがなければ近所に誰も知り合いがいないままでした。あれって「社会人」じゃなくて「会社人」なんですよね。病院も教育も自治体がやっていることも、社会のことを何も知らないですもん。

そういう意味では、お金をもらうもらわないは別にして、複数の組織に属して複数の顔を持つということが、ひとりひとりの幸福にとって大事という時代になっています。それが相当達人になってくると、龍太さんみたいになるということですよね。

星野:そういう風になると、周りからどんどん「これもやって」と求められるようになるんでしょうね。キャリアプランを描くときに「求められる人材になるために何が必要か」と考えるのもポイントかもしれないですね。

中村:求められるようになってきているな、という雰囲気は感じますね。2016年は忙しくなりすぎてヤバイかもしれないです(笑)

 

— 複業が、個人にとってはキャリアの選択肢として、企業にとってもイノベーションや人材活用のあり方としてもっと取り入れられるような社会になるといいですね。そのために参考となるような情報発信を今後も続けていきたいと思います。今日はありがとうございました!

 

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参考

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取材・文/やつづか えり 撮影/五月女 郁弥

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