昨年10月、2つの会社に所属する、「複業」という働き方という記事でサイボウズとダンクソフトの2社に所属する中村龍太さんの働き方を紹介した。それから1年、「(副業ではなく)複業」という働き方への注目度はかなり高まっていると感じるが、その実態やノウハウに関する情報はまだ少ない。
そこで今回、複業を始めて2年経った龍太さんと、そのボスであるサイボウズの青野慶久社長、ダンクソフトの星野晃一郎社長の3者にお集まりいただき、2年間について振り返ってもらった。その模様を、前・後編でご紹介する。(後編こちら)

左からダンクソフト社長 星野晃一郎さん、中村龍太さん、サイボウズ社長 青野慶久さん。「公開吊し上げだ!」と言う中村龍太さんに、ふたりのボスたちが下した評価は?
サイボウズとダンクソフトはどんな集団? 複業社員から見たふたつの会社
対談の冒頭では、それぞれの会社における龍太さんの業績レビューが紹介された。

龍太さんより、ここ1〜2ヶ月の間にそれぞれの社長との面談で報告した内容を説明(当然、両社長が面談で報告を受けたのは自社における仕事に関してのみ。他社での龍太さんのミッションや実績を詳しく知るのはこの場が初めてだ)。
龍太さんがダンクソフトで負っている主なミッションは、営業担当者としての顧客開拓。報告によれば、「複業」に注目が集まったことで会社のブランディングや人材獲得、他の社員への影響など、営業面以外でも貢献できたという。一方、サイボウズでは、3年後を意識した事例開拓。複業によって作られた農業や教育の事例が中央官庁との関係作りに役立ったと説明。
面白かったのは、龍太さんから見た2社のキャラクター分析だ。
「僕から見ると、サイボウズは“オーケストラ”みたいなチームです。指揮者である青野さんの振る舞いを見つつ、社員はそれぞれの音を奏でてハーモニーを作っている。青野さんは、指揮者であると同時に、作曲者として楽譜も書く人ですね。青野さんがまず大きな絵を描いて、それから社員と一緒に詰めて音楽を完成させていくという感じ。
ちなみに、僕の前職のマイクロソフトは“マーチングバンド”です。トップの指揮に合わせて淡々と、一糸乱れぬ行進をするという(笑)
そして、ダンクソフトが向かっているのは“ジャズバンド”型。一応楽譜はあるんだけど、誰が指揮者とは決まっていなくて、その時々で違う演奏者がリードする。まだ完成はしていないけれど、そういう組織を目指しているんだろうな、と思います」
複業社員がいるってどんな感じ? この2年で見えてきたこと
さて、いよいよふたりの社長に、「複業」を受け入れてみた結果を振り返ってもらった。
— 2年前の入社時点で、その後の龍太さんの働きぶりはある程度予想されていましたか?
青野:2年前は、正直どうなるのか予想できませんでした。かなりキャリアも人脈もある人が2社で働く、そんなケースは初めてだったので。
やってみて驚いたのは、複業ってAとBというふたつの仕事があったとして、「今日はA、明日はB」とか、そんな感じだと思っていたのですが、実際はもっと重なっているんですね。ミックスされていて、どこがサイボウズでどこがダンクソフトで、どこが農業(※)かよくわからない。だけど分けることにはあまり意味がなくて、僕らはサイボウズの部分だけでなく、むしろ龍太さんの活動全体を見て、「それいいね」とか「もっとこうして欲しい」とか言ったほうがいいみたいだな、と感じるようになりました。
(※ 龍太さんは現在、NKアグリという農業の会社にも所属している)
星野:僕らも、複業ってどういうふうになるのかよく分かっていなかったけど、「サイボウズさんのやり方を見ていればこっちもなんとかなるだろう」と思ってました。サイボウズさんは以前から「副業可」ということで、こういう人がもっといるのかな、というイメージだったんですよ。でも、実はそうでもなかったんですね(笑)
龍太さんはこの2社だけでなく農業の仕事も始め、最近では「日本パエリア協会」の名刺も持って活動していたりして、このスピードでここまで多面的に活躍されるようになるとは予想していませんでした。でも世の中はそういう速さで動いているということなのかな、と思います。
龍太さんがいるおかげで、「そんな働き方、ありなんだ!」と周りの人も気づいて、結果的に地方でサテライトオフィスを立ち上げようという人なんかが何人も入社してくれたりしました。「そういうのを許す会社があって、そこで上手く動いているプレイヤーがいる」という事象そのものが面白くて、そこに引き寄せられている人が多いんじゃないかと。
— 逆に何か困ったことはありませんでしたか?
青野:まあ、評価がしづらいというのはありますね。こういう人をどういう風に評価していけばいいのか、軸がまだ見極められていないという状況です。さっき言ったように複数の活動が交わってますから、時間も測りにくい。
星野:時間は測れないですよ。物理的に月曜日はうちにいて、残りはサイボウズさんにいるというのは決まっているけれど、実際にいつ何の仕事をしているかはわからない。この瞬間はこっちのこと考えているけれど、次の瞬間は別のこと考えているというのは、自分自身でもありますよね。それはコントロールできないので、「出力」を評価するしかありません。こういう人がいると早くそういうやり方にたどりつけるわけで、それがちゃんとできると、こういう働き方を面白がってくれる人が入りやすい環境ができるんだな、と感じています。
青野:サイボウズでは給与体系を「市場性」で決めています。要するに「この人転職したらいくらだろう?」という考え方です(参考:サイボウズの給料は「あなたが転職したらいくら?」で決めています | サイボウズ式 )。でも、龍太さんみたいな人はあまり転職市場にいないから、それも難しいんですよね。
中村:最悪、いくらにもならない人かもしれない(笑)
ただ、過去の実績は置いておいて、「今のスキル」をどう評価するかというと、僕はやっていることをFacebookなんかでバンバンオープンにするんです。そうすると、反応が返ってくる。僕がやっていることに興味がある人が相談に来られるみたいな形で、フィードバックを得られるんですね。「地方でドローン飛ばして映像撮りました」と投稿したら、「こっちでも撮ってほしい」という人があらわれたりとか(笑)。そういうのをもとに、このスキルは外から見るとこんな価値がある、ということが言えるようになるんです。
青野:なるほど。
— 「いろいろやっているけど、もっとうちの仕事してよ」ということにはならないですか?
星野:その辺は上手いというか、全然関係ないことはしてないですからね。
中村:あれもこれもやってと言われたらどうコントロールするのか? というのはよく聞かれますよ。僕は複業を始める前に自分がやりたいことを5つの項目にまとめていて、それがはっきりしているので自分にとって重要でないことは断ることができるんです(龍太さんが注力する5つの項目については、前回のインタビューを参照)。そうやって仕事をデザインするというのは、大事ですよね。
青野:その5つの項目がサイボウズにとっても関心がある分野だからやりやすい、というのはあるでしょうね。それが全然重ならないと、葛藤が起きるかもしれない。お互いの理想がかぶっているかどうかの確認が大事で、最初にそれを確認しているから、ある意味放置プレイでも大丈夫なんです。
星野:そういう意味では、ダンクソフトとサイボウズさんはワークライフバランスに関する考え方も含め、向かっている方向が相当に近かったので、そこは思った以上にやりやすかったですね。
中村:ほんとに絶妙ですよね。僕はもう1社にダンクソフトを選ばなかったら大変なことになっていたかもしれない(笑)
— 複業でそれぞれの仕事に引き裂かれるような状態だと大変ですよね…。
青野:(笑) 「引き裂かれる」って、面白い表現ですね。
星野:でも実際多いですよ。農業やってたりすると、その土地にいないといけないということもありますからね、ITでそこも変わろうとしていますけど。物理的な場所と時間の問題というのは結構起こることだと思います。
中村:引き裂かれなくて良かった〜(笑)
(後編に続きます)
☆☆
参考:
- 「複業」をIT業界のムーブメントに! サイボウズ×ダンクソフト 複業三者対談
- 2つの会社に所属する、「複業」という働き方
- 田舎暮らしに海外放浪…。会社員でも自由なワークスタイルを選択できる理由
- 基本は在宅勤務、必要ならば出張も 〜柔軟で合理的な働き方が人材獲得の切り札に〜
☆☆
取材・文/やつづか えり 撮影/五月女 郁弥

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