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働き方・生き方の弁証法 〜「踊る広報」柴田菜々子さんの選択〜

2015/11/05   更新:2018/11/30

今年7月から、会社員として週3日勤務し、残りの4日はダンサーとして活動するというパラレルキャリアを実践する女性がいる。人材派遣や就職・採用支援を行うビースタイルの広報担当、柴田菜々子さんだ。入社3年目に、大きく働き方を変える決断をした。仕事のやり方を見直すことで、勤務日を減らしてもきちんと成果を上げている柴田さんだが、今の働き方にたどり着くまでには、悩みに悩んだ日々があった。

柴田菜々子さん

Profile

柴田 菜々子 shibata nanako

【踊る広報】
静岡県出身。8歳より新体操を始め、アンジュ新体操クラブに8年間所属。
県指定強化選手として中学時に全国大会へ2度出場。
その後は、桜美林大学に入学しコンテンポラリーダンスを始め、
舞踊家の木佐貫邦子に師事する。
大学在学中より先輩らとダンスチーム「TABATHA(タバサ)」を結成。2015年1月よりソロ活動も開始。

2013年大学卒業後は、ダンサーの道に進まず、
主婦に特化した人材サービス会社ビースタイルに入社。入社以来、企業広報を担当。
2015年7月より、出勤日数を週3日勤務へと変え、「踊る広報」としてダンスと仕事の両立を目指す。
会社の企業理念『時代に合わせた価値を創造する~新しいスタンダードを創る~』を体現中。

ダンスとともに生きてきた学生時代

柴田さんが最初にダンスに出会ったのは、小学校2年生のとき。小学校にできた新体操クラブに行ってみたらすっかりハマり、気づいたら週5、6回レッスンに通うようになっていた。5、6年生のときには県大会で優勝し、中学校でも2回全国大会に出場した本格派だ。

見た目は軽やかで優雅な新体操だが、柴田さんによれば「とてもキツイスポーツ」。休日は朝9時から夜の9時まで、踊るだけでなく走ったり筋トレしたり。指導者は厳しく、身体的にも精神的にもものすごく鍛えられたそうだ。

「十分やりきった」と感じ、柴田さんは中3で新体操をやめた。

「もっと自由な表現をしたいと、高校時代はいろいろ模索しました。そんななか、Noism(ノイズム)というダンスカンパニーの作品を見て、その身体表現の豊かさに衝撃を受けたんです」

ノイズムをきっかけに「コンテンポラリーダンス」というジャンルに興味をもった柴田さんは、桜美林大学の演劇専修に進学。授業の他、公演に向けて練習を重ねる日々を送った。

「社会人は意外と楽しそう」と気づき、就職に興味

「卒業後は就職せずにダンスの方に進む」というぼんやりとしたイメージがあったものの、ダンスで生活していく確固たる自信もなく、迷っていたという柴田さん。気持が変化したのは、バイト先のバーに飲みに来る社会人と接したことがきっかけだった。
柴田菜々子さん
「それまで、“社会人”というと電車の中で疲れきっているイメージで、就職することには魅力を感じなかったんです。でも、バイト先で接する社会人の方々は、仕事について熱く語っていたり、これから叶えたい夢をもっていたり、イキイキしている人が多くてびっくりしました。『社会って、私がイメージしているものとは違うのかも、もっと踏み込んでみないと』と思いました」

視野を広げたいという思いで就活を始めた柴田さん。初めてダンス以外の世界に目を向け、いろいろな人や業界を知ることが、とにかく楽しかったそうだ。

最終的に就職を決めたビースタイルは、最初にふたりの創業者のトークにがっちりハートを掴まれ、その後に接する社員たちにもとても好印象をもった。

「会う人会う人、みんなとてもオープン。残業もあるし仕事は大変と言いつつ、楽しいんだろうな、好きなんだろうな、というのがすごく伝わってきました。印象に残ったのが、『何かあったら絶対に上司が助けてくれる』とみんなが言うこと。いろいろなことに挑戦させてくれて、何かあった時の責任の所在がはっきりしている、そういう社風にとても惹かれました」

ダンスのために一度は退職を決意

柴田さんは、2013年の入社時から一貫して広報を担当している。

「配属が発表されたときは『広報って何?』と隣の同期に聞きました(笑)」という柴田さんだが、先輩の指導を受けながら仕事を覚えていった。特に入社3ヶ月目からは、その先輩が不在で専任の広報担当者は自分ひとりという状況になり、ぐっと経験値もあがったという。

ダンスも趣味として続けるが、「やるのであれば全力で」と、あくまで会社の仕事がメインという意識でやっていた。だが、やがて柴田さんは葛藤に苦しむことになる。

「コンテンポラリーダンスはヒップホップのように夜に外で練習するというのも難しくて、会社で働きながらだと練習できるのは主に週末だけです。しかし大学のときからチームを組んでいる先輩たちの理解があって、みんなはダンスに重きを置いた生活をし毎日練習しているなか、私は週末だけ参加させてもらっていました。でも、それだと振りを覚えるだけでせいいっぱいで…。ダンスは身体表現なので、やっていないとすぐに衰えてしまいます。他のみんながダンスに注いでいる時間を考えると、自分ももっとやりたいと、だんだん焦りが出てきてしまいました」

「仕事も楽しいし、これだけ教えてもらったのに辞めては申し訳ない」と大いに迷ったものの、ダンスへ向かう気持が抑えられず、柴田さんは今年の1月に会社に退職の意思を伝えた。しかし、柴田さんは社長の三原さんから考えの甘さを指摘される。

「将来のビジョンを問われて、『5年後には大舞台に立てるダンサーになる』みたいなぼんやりとしたイメージしか語れなかったんです。三原には『ダンスと仕事と生活と、3つをand(アンド)実現出来る方法を考えてみろよ』と言われました。私の将来のことを思って言ってくれていると分かったので、それから3週間くらいずっと考え続けました」

三原さんの言葉をきっかけに、単にダンスに集中するというだけでなく、「どういう風に続けていくのか」、その戦略を考えた柴田さんは、週3勤務で仕事も続けつつ、それまで以上にダンスに力を注ぐ、というプランにたどりついたのだった。

ダンスの世界でビジネス経験を活かす

柴田菜々子さん
「三原には、『自分の勝ち方を考えろ』と言われて、それがすごくヒントになりました。ダンサーとしての成功を目指すには、25歳の今からだと限界がある。でも、私は一生踊り続けていたいけれど、すごいダンサーになりたいわけではない。やるべきことはもっと影響力のあることじゃないかと気付きました。それは、コンテンポラリーダンスというニッチなジャンルをもっと活性化して、アーティストが稼げる状態にするということです。それにはビジネスのスキルが役に立つので、仕事もダンスも両方やることに意味が出てくる。会社での仕事も楽しんでいる自分ならではの方向だと思いました」

ビースタイルで「ゆるい就職」というサービス(参考)を提供していたこともあり、柴田さんは勤務日を減らせば両立できるのではないかと考えた。そしてダンスに費やしたい時間を計算し、週3日勤務というプランを描いて会社に認めてもらったのだ。

攻めの両立生活

7月から、基本は月・水・木曜日に会社に出勤し、それ以外をダンス関連の活動にあてるという生活を始めた柴田さん。仕事の成果目標は週5日勤務の時と変えていない。

「それまでの、とにかく自分が動いて成果を出すというやり方を変えないとまずいということで、上司と相談した結果まずは業務整理をしました。そして、自分が生産性高くできることに集中すると決めたんです。たとえば自分が得意ではないプレスリリース作成は他の社員や外部の方にお願いして、取材対応やメディアリレーションに力を注ぐようになりました」

メディアリレーションもそれまでのやり方を続けるのではなく、他社と一緒に「合同記者懇親会」を開くなど、より効率のよい方法を試みるようになった。「時間的制約があるから最低限で」と消極的になるのではなく、より生産性を上げるために仕事のやり方を見なおしたという攻めの姿勢が、柴田さんらしい。

広報の専任担当は柴田さんだけだが、7月からはブランディングを担当する先輩社員の宇佐美さんが上司となり、急な対応を代わってくれたりしているという。

「宇佐美がいるからできていることがたくさんあります。また、社長を始め周りの皆さんの理解があってこその働き方なので、きちんと貢献することや感謝の気持は忘れないよう、自分に言い聞かせながらやっています」

ダンスに関しても、それまで所属していたチームの活動はもちろん、ソロでコンペに参加したり、プロモーションビデオに出演するダンサーを企業に紹介するといった踊ること以外の活動もできるようになった。相当ハードな生活のように見えるが、かつて新体操で心身ともに鍛えたためか、それほどきつく感じることはないそう。

「自分の中では、仕事の日とダンスの日と、切り替えているという意識はないんです。でも両方をやっていることの相乗効果はすごく感じています」

「何かミーティングに参加するたびに、新しい情報やノウハウを得ることができて、組織って本当にありがたい」という柴田さん。アーティストを支援し、コンテンポラリーダンスを盛り上げていくという新しい目標をもったことで、日常業務の中からもたくさんの発見ができるのだろう。

舞台で踊る柴田さん(撮影:bozzo)

舞台で踊る柴田さん(撮影:bozzo)


先輩らと結成したチーム「TABATHA」の舞台(撮影:bozzo)

先輩らと結成したチーム「TABATHA」の舞台(撮影:bozzo)

哲学の言葉で、ある状態に対し、それと対立する状態が現れたとき、その相反するふたつをより高い次元で統合することを「弁証法」という。

一度は仕事を続けることを諦めてダンスの道を選ぼうとした柴田さんが、仕事もダンスも両方やることに意味を見出したのは、まさに弁証法的な解決だった。2つのことをやるからこそ、オリジナリティが発揮できる。「好きなことを追求したい。その気持に従って突っ走ってもいいのか…」と迷っている人たちにとっても、とてもヒントになる話ではないだろうか。

☆☆

取材・文・撮影(最後の2枚を除く)/やつづか えり

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