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「サテライトオフィスは宣言である」〜イベント「towner x towner vol.3」より〜

2015/09/25   更新:2018/11/30

9月8日、イベント「towner x towner vol.3」に参加してきました。

towner × towner vol.3会場の様子

「towner x towner」は、株式会社ヒトカラメディアが開催しているイベントです。今回は、「サテライトオフィスってどうですか?社長と社員、それぞれのホンネ」ということで、徳島県美波町のサテライトオフィスに関わる方たちが当事者として実態を語る、という内容でした(都市と地方を行き来する「デュアルライフ」をテーマにした前回のレポートはこちら)。

登壇者の中で、吉田基晴さん(サイファー・テック株式会社/株式会社あわえ)、山下拓未さん(株式会社あわえ)のお二人には、昨年インタビューさせていただきました。
<参考>
「地元での就職は無理」「過疎地で営業はできない」そんな常識が変わるとき
今、都会から田舎への移住で得られる喜びとは?

今回のイベントでは、それから1年後の変化や社員の皆さんのホンネが聞けるということで、期待しつつ参加。そんな私をまず迎えてくれたのは、徳島からやってきたすだち酒と美味しいおつまみでした。

日和佐燻製工房のくんせいと、泉源の干物

日和佐燻製工房のくんせいと、泉源の干物


ごちそうさまです!

サテライトオフィスは”宣言”である

第1部の様子
イベント前半は、株式会社あわえの山下さんと美波町役場の鍛冶淳也さんによる、「そもそもサテライトオフィスとは?」「美波町におけるサテライトオフィスの現状は?」というお話。

印象に残ったのは、山下さんの「サテライトオフィスは、『こういう生き方をしていくよ』という”宣言”なのではないか」という言葉でした。

Wikipediaでは「サテライト・オフィスとは、企業または団体の本拠から離れた所に設置されたオフィスのこと」とありますが、これだと「支社・支店」と何が違うのか分からない(モデレーターのヒトカラメディア田久保さんも、よく「何が違うのか?」と質問されるそう)。山下さんいわく、そこでやっている「業務」は支社・支店と変わらないけれど、「生き方」、つまり「ワークライフバランス」の「ライフ」の部分に重きをおいた場所の定義が、「サテライトオフィス」なのではないかというのです。

サテライトオフィスといっても、美波町や神山町のような地方に作るケースばかりでなく、都会のコワーキングスペースを「サテライトオフィス」として使うこともあれば、元々ある支社・支店の一部をサテライトオフィスとして使えるようにすることも。いろいろなパターンがありますが、確かに、それぞれに社員のワークとライフの関係を変えようとする意図があるように感じられます。イベントの後半では吉田代表が、「会社がサテライトオフィスを作ることが対外的に”会社のスタイル”を提示することになり、それが(サテライトオフィスだけでなく東京での勤務希望者も含む)人材採用に好影響を与えた」という話をされていて、それも合わせて、なるほどな〜と感じたのでした。

長いときは12時間!? 都会のビジネスマンが漁師のおっちゃんから教わること

後半は、サイファー・テックの吉田代表と、社員の成田直翔さん、藤岡祐さんによる、サテライトオフィスでの働き方、暮らし方のお話。吉田さんと成田さんは、東京と美波町を行ったり来たりのデュアルライフ組、藤岡さんは美波町在住です。

昨年美波町に取材に行ったとき、サイファー・テックのサテライトオフィスに常駐している社員は3名でしたが、今では5名体制に。新しく加わった社員のうちのひとりが藤岡さんで、「農業とITをやりたい」と今年5月に入社し、東京から美波町に移住されたそうです(ちなみに新しく加わったもう1名の方は、「美波町で子育てをしたい」と家族で移住されたそう)。

ここでとても面白かったのは、地域住民の方との関わりについての話です。
第2部の様子

地元出身の吉田さんでも「行くまでは、想定していなかった」ということですが、今サイファー・テックの皆さんは地域の様々な「お役目」を担っているそうです。たとえば、中学校にITの授業をしに行ったり、中学生の職場体験を受け入れたりということから、草刈りやお祭りの手伝いなどなど…。他の会社の方の話ですが、季節によっては午前4時から大家さんのイセエビ漁を手伝って、その後に自分の仕事を始めるという人もいるのだとか。

こういった「仕事」ばかりでなく、釣りや飲み会など、遊びの誘いもものすごく多いとのこと(そもそも上に上げたような「お役目」は飲み会の席で任命されることが多いようです)。

藤岡さんは移住して早々に飲み会に誘われるようになり、「最初だけかと思ったら、徐々に回数が増えてきて、東京にいる時の倍以上の頻度になっている」と。他所から来た人に対してもとてもオープンな土地であることが伺われますね(加えて、サイファー・テックという会社が地元で受け入れられているということもあると思われます)。成田さんも、美波町に行くたびに地域の仕事に駆りだされ、飲み会にもたくさん誘われるそうで、「草刈りを2時間した後に、その反省会と称して12時間くらい飲み会が続いた」というすごいエピソードを披露してくれました。

この飲み会ですが、吉田さんや社員の皆さんにとって、ただ飲んで騒いで、地元の人々と仲良くなるという以上の意味があるようです。それは何かというと、地元の漁師さんからの学びです。

門外漢の私達からみると、漁師というのは天候などに左右される成り行き任せな職業のように感じられますが(失礼!)、実はいろいろリスクヘッジをしていたりして、その起業家的な生き方に学ばされることが多いというのです。

例えば、「地元の漁師さんに飲み会に誘われたら、遅刻は許されない」と吉田さん。都会で働いていると、少々飲み会に遅れてもお互いさま、忙しければドタキャンもやむなし、という雰囲気がありますが、美波町で漁師さんに誘われた飲み会に遅れたら、「仲間同士の飲み会に遅れるような仕事のしかたをしているのか」と厳しく言われるのだそうです。吉田さんは、「仕事というのは本来、家族と美味しいものを食べるとか仲間と楽しむためにしているはずなのに、いつの間にかそれが逆転してしまっていたことに気付かされた」といいます。前半に登場した山下さんも、「仕事で困ると漁師さんに相談している」とおっしゃっていました。

どこで働くかは、「どう生きるか」につながる

ここからは、皆さんの話を聞いて、私自身が感じたことです。

このイベントの2週間ほど前に神山町のサテライトオフィス視察ツアーに参加しまして、そのとき(およびこれまでの神山町の方々へのインタビューで)見聞きしたことと美波町の話を並べてみると、同じ徳島県内の小さな町でも、かなり雰囲気が違うものだと思います。例えば神山町では、地元の人から飲み会に誘われたり、地域の仕事に駆りだされたということは美波町ほどにはなさそうです。(こちらの記事を見ると、それでも地元の人達との関わりはいろいろあるようですが → 「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会

両地域の違いは、元から地元にいた人と移住者との割合とか、漁師町か農村部かといったこと、それ以外の要因による地域のカルチャーの違いなど、いろいろな要素から生まれているのでしょう。どちらが良いということではないですが、同じサテライトオフィスでもどこに位置するかによって、そこで働く人の生活はかなり生活の仕方が変わってきそうです。

「企業にとって、サテライトオフィスは”宣言”である」という考え方を紹介しましたが、個人にとっても「サテライトオフィスで働く」という選択は、その場所なりの暮らし方を引き受けるという「生き方の選択」でもあるのです。

そういう意味で、「サテライトオフィスと支社・支店は何が違うか?」という問いへのもう一つの答え方として、「『業務命令でそこに転勤』ということが支社・支店ではあっても、サテライトオフィスではありえない(会社はサテライトオフィスという選択肢を用意するが、そこで働くことを選ぶのはあくまで個人)」ということが言えそう、そんなことを思いました。

☆☆

文・撮影/やつづか えり

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