Profile
川田 優生 Kawada Yuki
1980年富山県高岡市生まれ。
東京学芸大学美術科卒業後、広告制作会社とデザイン事務所にて、計7年間グラフィックデザイナーとして広告デザインを中心に担当。2009年にフリーランスデザイナーとして独立。広告、Web、パッケージ、CIVI、アパレルのアートディレクションなど、様々なジャンルのクリエイティブを手がける。
ひょんなきっかけから、代官山のセレクトショップCORNOUILLERを手伝うことになり、販売という未知の業界に携わる。販売・バイヤー以外にも、若手作家の発掘やギャラリースペースの運営など、次々に新しい取り組みを成功させ、注目されるショップへと成長させていく。
現在、株式会社ノヴィータにデザイナーとして勤務しながら、2014年に立ち上げたオンラインセレクトショップ『Rocca store』を個人で運営。作家のハンドメイドのアクセサリーを始めとしたオリジナル商品の販売をするほか、自身のアクセサリーブランド『kitchi』としても制作を行っている。
株式会社ノヴィータのWebデザイナーである川田優生さんは、アクセサリーのネットショップオーナー・寺尾優生というもうひとつの顔を持つ。週4日はノヴィータの正社員として仕事をし、毎週木曜日と週末を、ネットショップの運営にあてているのだ。
デザイナー業をしながら覚えたショップ運営
ノヴィータ入社前は、フリーランスのグラフィックデザイナーだった川田さん。「アクセサリーを売る」という仕事に出会ったのは、ふとした思いつきからだった。
自宅でデザインの仕事をしていると誰とも会話せずに1日が終わるという日もあり、「人と話をする機会をつくった方がいい」と考えていたところ、友人が新しくセレクトショップをオープンすることになって声がかかり、週に1度だけ手伝うようになったのだ。最初は「ちょっとレジを打つくらい」というつもりだったが、「なんでもでしゃばりたくなるタイプ」だという川田さんは、自分で見つけてきた作家の作品を取り扱ったり、ネットショップを立ち上げたり、店の運営に深く関わってショップのノウハウを覚えていった。
やがてそのお店は、惜しまれながら閉店することになったが、ショップ運営に面白さを感じていた川田さんは、自らのネットショップを立ち上げた。それが、今運営しているオンラインセレクトショップ「Rocca store(ロッカストア)」である。

川田さんが運営するRocca store。自身の作品の他、10人の作家のオリジナルアクセサリーなどの商品を販売している。
フリーランスから週4勤務のデザイナーになるまで
セレクトショップを手伝っていた頃の川田さんは、デザインの仕事とショップの仕事、両方に魅力を感じていたものの、両立の難しさにも直面していた。
「フリーランスの仕事は、やりがいはありましたが安定はしていませんでした。その上、お店をやりながらだとお客さんからの『今すぐやって欲しい』という要望には答えられないので、納期の短い仕事をお断りするようになっていったのです。『これだったら、お店に注力しようかな』と迷った時期もありました」
とはいえ、デザインの仕事も好きで葛藤を抱えていた頃、元々仕事で付き合いのあったノヴィータから、「うちで働きませんか?」という誘いがあった。フリーランスとしての働き方は十分経験したと思えた川田さんは、そこで会社員としてデザインの仕事をすることを選んだ。珍しいのは、お店の仕事も続けることを認められて入社したという点だ。
「たぶん、全く知らない相手だったら、今みたいな働き方をしたいとは言えなかったでしょうね。以前からノヴィータの仕事を請け負っていて、私という人物や実績を知っていてくれる相手だったので、話が早かったのかなと思います」
最初は今以上に少ない週3日勤務という形で、デザインだけでなく庶務的な業務を担当していたそう。会社としては、川田さんに来てもらえるなら何日でもありがたいということだったのかもしれない。
その後、川田さん自身の希望で、社内においてはデザイン業に専念するようになり、仕事の量と責任が増えてきた。そうすると週3日では足りないという状況になり、途中でお店が閉店したこともあって、現在の「週4日勤務で木曜日はお休み」という形に。川田さんも会社側も、ちょうどよい働き方を見つけるための試行錯誤を続けてきたことが分かる。
週の途中で全く別のことをすることが気分転換に

自宅でショップ運営の仕事をする川田さん

オーダーを受けて自身もアクセサリーをデザイン、制作する
「木曜日も何かあれば連絡をもらって自宅で対応出来る体制にはしています。でも、基本的には私がいない前提で仕事がまわるよう、水曜日に仕事の引き継ぎをしています。ディレクターに進捗や翌日に対応が発生しそうなこと、そのために必要な資料のありかなどを共有するんです。
みなさん、有休を取る前はそういうことをしていると思うのですが、私の場合はそれが毎週あるような感じですね」
できるだけ木曜日に大きな対応が発生しないように案件のスケジュールを調整しているが、同僚にカバーしてもらうことはどうしても発生する。なるべく迷惑をかけないために、できる限りのことをするようにしているという。そこまで気遣いをしつつ、毎週仕事の棚卸しをするのも大変に思えるが、川田さんにとって木曜日を自分の時間として使えるというのはとても大切なことなのだそう。
「ノヴィータで勤務中は100パーセントデザインの仕事に集中し、木曜日は全く頭を切り替えて別のことをするというのが、とても良い気分転換になるんです。週末だけでショップの運営をするということも、きっとできなくはないですが、そうなるとどちらの仕事に対しても『もっとやりたいことがあるのに、これがあるからできない』という気持ちになったりして、ストレスが溜まってしまうだろうなと思うんです。それに、会社の理解を得て木曜日を休みにさせてもらっているという気持ちがあるから、緊張感をもってがんばれているという面もありますね」
2つの仕事を両立できるのは、「目的」が違うから
川田さんが、会社員としての仕事とアクセサリーショップの運営、2つの仕事のバランスをとりながら続けていられるのは、その「目的」が違うからだという。
「私は会社での仕事は100パーセント力をそそぐという意識でやっていて、ネットショップはどちらかというと息抜きみたいなものです。ただ、趣味の活動と違うのは、アクセサリーの作家さんの生活の一部を支えているという責任があるという点です。そこは、忙しいからといって後回しにすることはできません。かけ出しの作家さんや、すごくいいものを作っている作家さんを世に広めるということに目的にしているので、収入はマイナスにさえならなければ良いという考え方です。そういうスタンスだから、両方をやっていけているのかな、と思います」

週末には、野外イベントなどに出店することもある。
ネットショップをもっと拡大し、お客さんへのサービスも良くしたいという川田さんだが、自分ひとりで好きなように運営できることが楽しいので、運営メンバーを増やすことは考えていない。週4日勤務で仕事が回るよう会社での働き方を工夫してきたように、やり方を変えることでなんとかしていきたいと、考えているところだという。
「前例がないので、自分で考えるしかない」と笑う川田さんに、自分にとって心地よい生き方を切り開いていく力強さを感じた。
☆☆
関連記事
☆☆
取材・文/やつづか えり

FOLLOW US
おすすめの本
BOOKS