東洋経済オンラインで、ソウ・エクスペリエンスさんの子連れ出勤の様子を取材させていただきました。
それでも「子連れ出勤」を薦める理由 | WORK AGAIN | 東洋経済オンライン
詳しくは上のリンク先の記事を読んでいただきたいのですが、社内保育所を設けたりベビーシッターを雇ったりせず、大人が仕事をしている場所に子供がいて、みんなで協力してめんどうをみているというのは、以前にインタビューさせてもらったモーハウスさんと同じでした(男性社員もいて、彼らが子供を連れてくることもあるという点でさらに進んでいる印象)。
子連れ出勤者の葛藤と給料2割削減
ちょうど原稿をまとめているときに、「子連れ出勤している人の時給を下げましょう、というお話」というブログの記事がネット上で話題に。読んでみると、なんと取材時に子連れ出勤実践者として私たちの質問に答えてくださったスタッフさんのブログでした。
「ネット上で話題」というのは、ここで書かれていた「給料2割引き下げ」の是非について議論になっていたのです。その内容については、こちらの記事にだいたいまとめられています。
「負い目があるのは分かるけれど、時給下げるのは悪手な気がする。分刻みで勤務除外時間を計算してその分下げるのがよいのではなかろうか」
時給ダウンの前例を作ってしまうと、「事あるごとに値下げ交渉される危険性」が出てくるという指摘もある。「気持ちはわかるけど、経営者側の都合の良い様に利用されやすい内容なのが痛い」というのだ。
また、時給を下げるかどうかは「ママ各々の判断」によるものだが、この点にも疑問が寄せられた。この取り組みを理解しつつも、「私が下げたんだから、あなたも」という同調圧力が生まれないかと心配しているようだ。
自ら時給を下げた「子連れ出勤ママ」でネット議論 「今後も値下げ交渉されるのでは」「双方納得なら問題なし」 | キャリコネニュース
ご本人も訂正の記事(時給を引きます、ではなく、みなしお世話時間を引いてもらうお話)を書かれていますが、給与制度変更の意図は「時給を下げる」ではなく「勤務時間の一部は、子供のお世話にかかっている時間とみなして差し引く」ということ。なので「時給下げちゃうのは良くないでしょ!」という批判は誤解です。それでも、「子供の世話をしている時間をきちんと記録して、その分を勤務時間から除外すれば」と考える人はやはり多いでしょう。
でも、これは実際やろうとすると難しく、「2割」が妥当かどうかは部外者にはわかりませんが、「みなし」で差し引く時間を決めるというのは良い方法だと思います。例えば社内託児所があって、仕事中に様子を見に行った時間を勤務時間から差し引くという話なら正確な「お世話時間」が計測できます。でも、ずっとそばに子供がいる場合、仕事と子供のお世話が同時並行になることはよくあるでしょう(私も小さい子供がいるので、もし子連れ出勤という立場だったら、たとえ子供がスヤスヤお昼寝中でもどこかでその様子を気にしながら仕事をすることになりそうです)。また、周りのスタッフも子供の相手に多少の時間を費やすので、その時間まで計測して子連れスタッフの給料から差し引く? みたいな話になるとますますややこしく、給与計算が現実的でなくなってしまうでしょう。
子連れ出勤で会社が得られる”副産物”
取材では、子連れ出勤をしているスタッフさんの葛藤もよく伝わってきました。
その葛藤の原因は、「子連れでなければもっと成果をあげられるのに」「子供がいることで他のスタッフに迷惑をかけているのでは」という意識が大きいと思われます。
特に後者に関しては、「それで職場全体の生産性が下がってしまうなら、子連れ出勤て意味あるの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。
私は、ソウ・エクスペリエンスさんのようにスタッフみんなの協力で可能になるのであれば、多少子供の世話に手が取られても、子連れ出勤には多大なメリットがあると感じました。
メリットとして分かりやすいのは、人材獲得の面で有利になるという点。これは、今後ほかの会社にも子連れ出勤制度が広がっていくカギになるでしょう。
でも、今回の取材ではそれ以外の「副産物」の部分に大きな社会的意義を感じました。それは、「周囲の社員の子育てリテラシーの向上」です。
例えば2歳位の子供だと、その時の体調などによってどうしたって不機嫌がなおらないときがある。そういうことは、身近に小さい子供がいないとわかりませんが、ソウ・エクスペリエンスでは独身のスタッフでも自然に受け止められるようになっているようです(参考:本日の子連れ出勤 たまさんは不機嫌)。
つまり、会社が「子育てを学ぶ場」になっている。これって、核家族化で子育ての様子を身近に見る機会がなく大人になる人が多い今の時代においては、すごいことだと思います。
子育てで悩んだり戸惑ったり、そもそもちゃんと育てられるのか不安で子供を持つことを躊躇したりということが、「子育てってこういう感じ」というリアルな体験があるとかなり減るんじゃないでしょうか。「子供って不機嫌で手に負えないときもあれば、ものすごく可愛いときもある」そんな実感が得られれば、「子供ほしいな」と思う人が増えるかもしれません。
子連れ出勤は、女性のキャリアの問題だけでなく、「孤育て」と言われる家庭の問題や少子化問題への処方箋にもなり得るのでは、そんなことを考えました。
☆☆
<お知らせ>
2016/1/27(水)に東京都港区で開催する「ワーク・ライフ・バランス 経営講座&お悩み相談会」にて、本サイトを運営するやつづかがコーディネーターとなり、ソウ・エクスペリエンス 西村社長、ウィルド 大越社長(参考記事:ワークライフバランスと生産性 両立の秘密は「おやつ」? あるIT企業の試行錯誤)をゲストに迎えてお話します。
無料で参加者を募集しておりますので、ご興味のある方はどうぞいらしてください!
詳細:https://www.facebook.com/events/1536252043357343/
☆☆
文/やつづか えり

FOLLOW US
おすすめの本
BOOKS