※この記事は、「平成27年版 情報通信白書」のための調査の一貫で行ったインタビューを元に作成しました。記事の内容は、2015年3月にインタビューした内容に基づいています。
在宅勤務を前提に入社

浅草にあるダンクソフトのサテライトギャラリーで話をする遠山さん
株式会社ダンクソフトの遠山和夫さんは、宇都宮で在宅勤務をしている。2014年7月の入社直後は3週間ほど東京の本社に通い、遠山さんの担当となった社内のサーバーやネットワークの管理を遠隔でできる環境を整えた。それ以降は、自宅での仕事が7割、会議などでの外出や出張が3割程度、というワークスタイルだ。
遠山さんの入社当時、他に在宅勤務をしている社員はいなかったが、宇都宮で働きたいという遠山さんの希望を会社が柔軟に受け入れた。その背景には、会社がワークライフバランスを重視した働き方の変革に積極的で、徳島県にサテライトオフィスを設置するなど、テレワークの社員も交えた働き方に慣れていたという背景がある。ビデオ会議システムの活用、経費処理や各種申請処理などの電子化により、会社に出向かなくても仕事ができる環境が整えられていたのだ。

様々な場所で働く社員の様子が映しだされているビデオ会議システムの画面
時間の柔軟さにテレワークのメリットを感じる
在宅勤務を始めてみて、遠山さんは働く場所が選べることはもとより、時間を自由に使えるという点に大きなメリットを感じているという。例えば、遠山さんは仕事を始める時間を、秋冬は9時頃から、春夏は8時頃からと変えている。「夏はナイターを見るために18時には仕事を終えたい」というのが、開始時間を早める理由だ。サーバーやネットワークの作業を夜中や週末に予定しているときは、昼間の早い時間にいったん切り上げ、夜になってから仕事を始めることもある。また、妻が週3日ほど外で働いているので、その日は遠山さんが家にいて二人の子供の世話ができるように、外出日を調整しているという。
このような自由を得られるのは、「少ないコミュニケーションで仕事がまわるしくみ」が会社にあるからだ。遠隔で何度もやり取りをしたり、わざわざ出向く必要が生じると、それだけ仕事が滞ってしまう。様々な手続きの電子化や自動化によりなるべくコミュニケーションなしで物事が進むようにしておけば、仕事の進め方も各々の裁量でコントロールできる部分が大きくなるのだ。
もちろん、本当に必要なコミュニケーションには時間を使うべきだし、直接会って話すことが重要なときもある。そのため、遠山さんも東京や地方に出かけていく機会がコンスタントにある。しかしそれは必要最低限に抑えられており、遠山さんはテレワークのメリットを十分に感じているようだ。
自宅で仕事をする時の配慮

遠山さんの自宅の仕事用デスク
遠山さんの仕事机は、子供たちの勉強部屋の片隅にある。子供たちが小学校に行っている間はビデオ会議システムを利用し、本社や他の拠点の社員といつでも顔を見ながら連絡が取れるようにしているが、家族がいるときはその姿が映ったり声が入ったりしないよう、メールでのコミュニケーションに切り替える。
在宅勤務の難しい点として、家族がいると集中できないということがよく挙げられる。家で仕事をするためには、家族が入ってこない独立したスペースが必要であるとも言われる。しかしその点に関して、遠山さんは異なる意見を持っている。いわく、日本では何よりも仕事を優先させる考え方が根強く、家の中であっても仕事優先で静かな状態を保たなければいけないと考えがちだ。でも、家族にとって家は生活の場でありくつろぐ場なのだから、子供が騒ぐのも仕方がない。「電話しているときは静かにしてね」というような最低限の配慮を求めることはあっても、基本的には家に仕事を持ち込んでやらせてもらっている、という考え方に立たないとうまくいかないのではないか、と考えているのだ。
集中できるかどうかという点でも、在宅勤務の方が会社のオフィスよりも集中できるという人もいれば、逆の人もいる。それは環境によるのだろうが、遠山さんの場合はどちらもそれほど変らないそうだ。
企業にとってのテレワークのメリット
遠山さんが宇都宮で暮らすようになったのは、13年ほど前だ。その前は東京で個人で仕事をしていたが、仕事が減ったことをきっかけに就職を考えた。その際、満員電車での通勤が嫌で、妻の故郷である宇都宮に転居し、地元の企業に入ることにしたのだ。
その企業は情報システムの開発を主な業務としていたが、宇都宮で採用したエンジニアを東京の大手企業に派遣するというビジネスも手がけていた。リーマン・ショック後に景気が落ち込んだ時期以降は、派遣業務の方により力を入れるようになったが、せっかく地元の企業に就職した社員達が東京に派遣されているということに、遠山さんは疑問を感じていた。転職先にテレワークが可能な会社を選んだ背景には、そんな理由もあった。
このエピソードからも分かるように、地方ではその場所で暮らしていきたいという人材と、その人達が就ける仕事の数にアンバランスが生じている。仕事がないから仕方なく東京などの都会に出て行く人も多いだろう。裏を返せば、東京では大手企業と比較して人材獲得に苦労している中小企業も、地方でなら優秀な人材を得られる可能性が高い。遠隔地でのテレワークを認めるということは、会社の所在地にかかわらず全国各地の良い人材を集められるという利点があるのだ。
ダンクソフトでは、近い将来宇都宮にサテライトオフィスを開設しようとしている。その目的のひとつには、宇都宮の優秀な人材を獲得するということがある。宇都宮には大手メーカーの工場があり、ITの技術者がたくさんいるほか、工学部のある宇都宮大学からも優秀な人材が排出される。サテライオフィスを作ることによって、そのような人たちにアピールすることもできると考えているのだ。
オフィスを作ると言ってもそこに誰かが常駐するわけではなく、遠山さんが誰かと打ち合わせをするときに利用したり、新しく入社した人が一定期間そこに通ってOJTを受けたりするという使い方を想定している。空いているときは、地域の人と一緒に何かをするような場にするなど、フレキシブルな使い方を考えているそうだ。
常時在宅勤務で働いていると聞くと、対面でのコミュニケーションが一切ないような働き方を想像しがちだが、遠山さんの場合は在宅で済むことは在宅で行い、必要であれば人に会いに出向いて行くという合理的で柔軟なスタイルが印象的だ。今後サテライトオフィスができれば、普段はバラバラに働いている人たちが必要なときは集まるといった形で、より生産的な働き方ができるようになりそうだ。
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関連情報
- 「平成27年版 情報通信白書」(第4章第3節P.229から、新しい働き方をする4名の方のインタビューが掲載されています)
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取材・文/やつづか えり
「ITmedia エンタープライズ」に寄稿しました
第4章第3節

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