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Uターンをきっかけに半農半ITの道を模索 〜ITエンジニアの新しい働き方〜

2015/07/28   更新:2018/11/30

※この記事は、「平成27年版 情報通信白書」のための調査の一貫で行ったインタビューを元に作成しました。記事の内容は、2015年3月にインタビューした内容に基づいています。

北海道で、牧場向けアプリを開発

(株)ファームノートが開発する牧場向けアプリの画面。

(株)ファームノートが開発する牧場向けアプリの画面

株式会社ファームノートは、酪農・畜産業界向けに特化したスマートフォンアプリを開発するベンチャーだ。

牧場の経営をする上では、個々の牛の状態について、健康や繁殖の管理のための記録が欠かせない。これまで多くの牧場ではノートに手書きで記録がとられていたが、昨今は牧場が大規模化し、手書きのノートではスタッフ間での情報共有が難しくなっている。そこで、スマートフォンでいつでもどこでも簡単に、記録の入力と確認ができるアプリが役に立つというわけだ。2014年11月に正式に開始したこのサービスは、牧場の生産性向上に寄与するため、さらなる機能の充実を目指しているという。

ファームノートの本社は北海道帯広市にある。札幌市在住のITエンジニアである田名辺健人さんは、2014年9月にファームノートに入社。サービス開始までの3ヶ月間は帯広に単身赴任したが、その後は同社の札幌オフィスと自宅でテレワークをしている。

オンラインでおたがいの仕事の進捗を把握

札幌オフィスで働いているのは、田名辺さんともうひとりのエンジニアの二名。多くの社員は帯広本社にいるので、在宅勤務時はもちろん、オフィスに出勤しているときでも、オンラインでのコミュニケーションが不可欠だ。

様々な連絡や相談、雑談などは、Slackというチャットツールで行われる。また、エンジニアが作ったプログラムはGitHubというプログラムのソースコードを管理するシステムに登録される。これによりお互いの進捗状況が分かるため、ファームノートでは、日報や週報といった、定期的な進捗報告は必要ないという。

社員がオンラインでのコミュニケーションに慣れている会社だったため、テレワークもやりやすいようだ。

自宅で仕事をする田名辺さん

自宅で仕事をする田名辺さん

震災と両親の病気をきっかけにUターン

田名辺さんは札幌育ちだが、大学進学以来ずっと関東に住んでいた。故郷に戻って来たのは、2011年11月のことだ。

子供が生まれてからは、いつかは北海道に戻って自然豊かな環境で子育てをしたいと考えていた田名辺さんだが、具体的な行動を起こすきっかけになったのは、両親の病気が判明したことだった。東京にいたら、何かあった時にすぐに駆けつけられない。そんな思いから、田名辺さんは札幌に戻ることを決心したのだった。

そのときは10年務めてきた会社を辞める覚悟だったが、話し合いの結果、田名辺さんは札幌で在宅勤務をすることになった。それが実現した背景には、クラウドサーバーの存在がある。

印刷会社でウェブサービスの開発を担当していた田名辺さんは、社内のハードウェアに格納していたデータやプログラムをすべてクラウドサーバーに移行させた。それは2011年の震災を教訓にしたリスク回避のための施策だったが、その結果、インターネットとパソコンさえあれば必要な情報にアクセスできるようになり、田名辺さんは会社に行かなくても仕事ができる状態になったのだ。

ただ、物理的には可能であっても、常に在宅で働く社員というのは前例がなく、仕事がスムーズにできるかどうかは未知数だった。そこで、札幌に移る前に、神奈川の自宅で在宅勤務をしてみるという「お試し期間」を1週間設けたそうだ。その結果、予想以上にスムーズに仕事が進み、この「お試し期間」を経て、周りの同僚も田名辺さんが在宅勤務で仕事を続けることに納得してくれたという。

Uターン後の変化

Uターンの結果、田名辺さんと家族を取り巻く環境は大きく変わった。

札幌に戻ったタイミングで小学校に入学した子供は、自然豊かな環境で野山を駆け巡るような毎日を送っている。東京ではなかなか得られない恵まれた環境で育っていることに、田名辺さんはとても満足している。

また、田名辺さんが家族と過ごせる時間も圧倒的に増えた。東京で通勤していたときは往復4時間を費やしていたが、札幌に移って通勤時間が削減された分、自由な時間がかなり増えたのだ。畑を借りて野菜を育てたり、趣味であった音楽活動を再開するなど、プライベートな楽しみも増えている。

「半農半IT」を実現する方法を模索

田名辺さんは、理想とする仕事と生活のスタイルを「半農半IT」と呼んでいる。札幌に戻るにあたっては、IT分野の経験を活かした仕事をしつつ、いずれ農業にも関わっていきたいという思いがあったのだ。

だからファームノートの存在を知った時、自分のスキルを活かして農家の支援できるという点に魅力を感じて転職を決めたのだった。

転職後、田名辺さんはファームノートでの仕事を通じ、農業の現場とそれをITで支援する側に大きな意識のギャップがあることを知った。現場の農家は「ITなんて面倒だし、わからない」と思っていて、逆にIT業界の側は「ITを使ってちょっと工夫すれば便利になるのに」と考えている。しかし農業とITの両方に通じた人が少ないため、話を通じ合わせることがなかなかか難しいのだ。

そのような状況の中、まずは自分自身が農業に足を踏み入れ、現場をある程度知った上でITの活用を提案していきたいという思いを強くした田名辺さん。2015年春からはファームノートのフルタイムの社員ではなく、外部のスタッフとして開発に関わりつつ、札幌市が開催している新規就農者向けの講座に通い、農業について基礎から学ぶつもりだという。

研修用の農場

研修用の農場

トラクターを使った実習の様子

トラクターを使った実習の様子

 

IT系の仕事は場所を選ばずにできることが多いので、これからは特定の地域や産業など、自分が興味関心のある現場に近いところで、当事者の実情を理解しながらそれをサポートしていくような仕事の仕方が増えていくのかもしれない。

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取材・文/やつづか えり

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