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会社の中か外かにこだわらず、ライフワークに取り組む方法 第9回「働き方と組織の未来」ダイアローグセッション参加レポート(2)

2015/05/24   更新:2018/11/30

前回の続きで、ふたり目のゲストである幸田泰尚さんのお話をご紹介します。
(ひとり目のスマイルズ田原さんのお話はこちら→株式会社スマイルズが目指す新しい会社の形 第9回「働き方と組織の未来」ダイアローグセッション参加レポート(1) 

震災をきっかけに、社外での活動を開始

幸田泰尚さん
幸田さんは、大手情報サービス企業で不動産やまちづくりに関わる仕事をしつつ、自らが暮らす世田谷区では「空き家研究会」、そして「Code for Setagaya」を立ち上げ、活動を続けています。かなり忙しいという会社の仕事とは別に、社外の活動に積極的に取り組んでいるのは何故なのか、その経緯が詳しく紹介されました。

もともとは夜中の2時3時まで働いているような会社人間だったという幸田さんですが、2011年3月に東日本大震災が起きた時、すぐに東北に行くことを決めました。その決断の背景には、大阪に住んでいた中学生時代、阪神大震災が発生するとすぐに被災地に駆けつけた両親の姿を見ていたこと、その後バックパッカーとして日本中の地方を回っていた幸田さんにとって、東北の各地にもたくさんの思い出があったこと、この2つの理由があったそうです。

4月6日に東北に行き、石巻や女川を始めとする各地を回って瓦礫の処理をした幸田さんは、復興現場の人材不足を感じたといいます。「ボランティアセンターは情報が統制されていなくて、混乱していました。その状況を見て、今東京で会議をしているだろう僕らの会社のマネージャーたちがここに来れば、すぐに解決するんだろうな…、と思ったんです」

幸田さんの会社の事業は、住まいやまちに関わること。その分野で行政をサポートすることにニーズを感じた幸田さんは、会社に戻って「行政をクライアントにすべきです!」と役員に直談判しますが、取り合ってもらえなかったそうです。

でも、振り返ってみれば会社で否定されたのは良かったのだと、幸田さんは言います。これをきっかけに、会社の枠にしばられずにやりたいことをやればいいと考えるようになったからです。幸田さんは自分の住む世田谷区の区長に相談することを考え、そのために区が開催していた「ソーシャルビジネスアワード」というコンテストに参加しました。そして見事優勝し、区長とのつながりを作ったのです。

このとき幸田さんが提案したのは「空き屋Cafe」というプラン。これは、空き家を探して安く借り、自分たちの住みたい空間に改装したという自身の体験から出た案で、区内の空き家を再生してNPOや様々なコミュニティの活動の場にしようというものでした。これをきっかけに、幸田さんは区長と一緒に「空き家研究会」を立ち上げ、実際に空き家の再生に関わるようになったそうです。

その後、自分たちのまちの課題をITの力で解決する「Code for Setagaya」を立ち上げることになったのは、空き家再生の活動の中で経験した挫折がきっかけになっています。空き家の問題は単に建物の問題ではなく、背景にはもっと様々な社会問題が絡んでいる。幸田さんは空き家に関わる中でそのことに気づかされ、とても力不足を感じたそうですが、次の行動へのヒントを与えてくれたのが、「Code for America」でした。このNPOのことを知って衝撃を受けた幸田さんは、なんと創設者に会いにサンフランシスコまで行き、市民の活動の様子を見てきたそう。そして、日本の「CODE for JAPAN」に立ち上げから関わり、「Code for Setagaya」の設立にいたったのでした。

幸田さんは、「空き家の再生は目的ではなく手段にすぎない」と考えるようになり、現在は「シビックテック(テクノロジーを活用して、住民が主体的に社会課題を解決すること)」普及のための啓蒙活動に力を入れたり、大学院で都市の問題への取り組みを学術的な面からも追求したりしているそうです。

会社の仕事と社会活動を循環させる

お話を聞いていると、震災復興のボランティアで得たアイデアをきっかけに、とにかく動いているうちにどんどん視野が広がり、やるべきことが明確になっていくプロセスがよく分かりました。まさにライフワークを見つけたという感じの幸田さんですが、本業の方は大丈夫なんだろうか? 会社を辞めてしまってこれらの活動に集中したいと思ったりしないんだろうか? といったいろいろな疑問が浮かんできます。

その点に関して、幸田さんは会社の仕事と社会の活動と、両方を対立させるのではなく循環させるという意識でやっているといいます。会社の仕事で得たスキルや人脈を社会活動にも活かすし、その逆もまたあるということで、両方を無理に分けることなく一緒にやっているとのこと。

ただ、仕事とそれ以外にかける時間のバランスについてはいつも考えていて、実際にかかる時間を計測しながら、この4年間徐々に仕事以外にかけられる時間を増やしてきたそうです。
仕事と仕事以外の比率

また、会社外での活動について、最初は会社には黙っていたそうですが、現在は上司も知っているとのこと。元はといえば会社に提案したアイデアが否定されたことから社外で始めた活動ですが、外でやって実績ができたことで、幸田さんの仕事内容にも影響を与える可能性は十分ありそうですね。

参加者のダイアローグより

worldcafe

このイベントでは、いつもゲストの話を聞いた後に参加者同士でグループを作り、ワールドカフェ方式で対話をしているそうです。今回も、「あなたにとっての理想の働き方とは?(あなたのやりたいことは?)」「そのやりたいことをどう実現しますか?」というテーマで対話が行われました。

面白いのは、最後にグループ内で意見をまとめ、Facebookのイベントページにその場で書き込むという趣向。スクリーンに映しだされたFacebookの画面にどんどんコメントが追加されていく様子から、各グループの対話の盛り上がりが伝わってきました。(そのとき書き込まれた内容→ https://www.facebook.com/events/798825756874748/permalink/813001015457222/ )

出た意見を見てみると、今の状況を変えたい、もっと自分のやりたいことができる環境がほしいと考えている人が多いことが分かります。それは裏を返せば、今はまだ十分に自分のやりたいことができていないということでもあります。

ではどうするのか?

ゲストの話に刺激を受けて「まずはとにかく行動してみる」という解決策を挙げるグループが多くありました。それは個人の立場では必要不可欠なことだと思いますが、新しいことをやる過程では様々な障害が出現します。幸田さんのように、障害をバネにもっと大きく成長していく人もいますが、運やタイミングの問題もあり、誰もがそうできるわけではないでしょう。

そう考えると、実は世の中には良いアイデアや熱い思いを持っている人がたくさんいるけれど多くが埋もれている可能性が高く、それは社会や企業にとってとってももったいないことだと思います。だからこそ、スマイルズの田原さんが紹介してくださったような、企業として個人の思いを引っ張りだして育てるようなやり方は、もっと広まっていくべきではないか、そんなことを考えさせられました。

文/やつづか えり 撮影/WorkDesignLab、田尻 亨太

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