3M訪問で感じた組織に属することのメリット

先日(といっても暑い夏まっただ中のこと。ずい分時間が経ってしまいました…)、住友スリーエム株式会社のカスタマー テクニカル センター(CTC)を訪問し、センター長の松本さんにお話を伺い、見学をさせていただきました。

3M_CTC

私はこの「My Desk and Team」の取材も含めて、いろいろな新しい働き方を見聞きする中で、「『会社』というものに属していないとできないことというのが以前に比べて減っているな」とか、「個人にとって組織に属することのメリットってなんなんだろう?」と考えることが多いのですが、今回の訪問で、3Mの中では3Mの社員でなければできないことが行われている、ということをとても強く感じました。そのことをお伝え出来たらと思います。

鉱山採掘の会社が、5万5千種類の製品を生み出すに至るまで

3Mというと、私達の日常生活の中では「ポスト・イット」がとっても有名ですよね。でも、実は3Mには、各種工場、医療、自動車、交通、建築、電機・電子など様々な分野向けの、5万5千種を超える製品群があります。私達は気づかないうちに3Mの製品のお世話になりながら暮らしていると言っても過言ではないのです。

そんな3Mですが、元々は「Minnesota Mining & Manufacturing Co.」という社名で、米ミネソタ州の鉱山で“コランダム”とういう鉱石を採掘する会社として創業されたそう。採掘自体はあまりうまくいかなかったようで、やがてこの“コランダム”を使用したサンドペーパーの製造を主な事業とするようになり、1921年、世界初の耐水性のサンドペーパーの発明が、3Mにとって最初のヒット作になります。

それから90年あまりの間に、どうやって5万5千種もの製品を生み出すのにいたったのか。そのひとつの要因は、「技術を”しゃぶりつくす”」という3Mの考え方にあります。

つまり、ある製品を作るのに用いた技術を別の用途に転用して新製品を発明、ということの繰り返しで、基礎となる技術と、それを組み合わせた製品をどんどんと増やしてきたのです。

たとえば、サンドペーパーの製造のベースには、「研磨剤技術」「接着・接合技術」「コーティング技術」がありましたが、この内の「接着・接合記述」「コーティング技術」を利用してマスキングテープやセロハンテープを開発する、といった具合です。

3Mが培ってきたベースとなる技術は「テクノロジープラットフォーム」と呼ばれ、現在ではそれが46個もあります。これらを組み合わせることで、今も次々に新しい製品が生み出されているのです。

technology

住友スリーエムのWebサイトより。46の技術を元素の周期表のように表現している。

技術と技術、技術とニーズが出会える企業文化

3Mは、新製品を生み出すこと、そしてそれらが売れる製品となることを、とても大事にしています。現在は、過去5年間の売上げにおける新製品の割合を40%にすることを目標にしているそう。

でも、いくらたくさんの技術を持っていても、次々に新しいものを開発し、しかもそれらがちゃんと売れる状態にするのは、とても難しいということは想像に固くありません。

3Mには、「研磨剤技術」「接着・接合技術」といったそれぞれの技術に対して、高度な知識をもち、研究を続ける専門家がいます。46あるという要素技術のひとつひとつは、研究開発によって常に発展を続けているのです。

でも、自分の専門とする技術しか知らない専門家がいるだけでは、技術と技術のかけあわせによる新商品のアイデアは生まれません。

さらに、今世の中で求められているものが何かという「ニーズ」が分からなければ、技術をどう活用したら「売れるもの」になるのかが分かりません。

3Mほどの多様な製品群をもつ企業でなくても、各部門で持っているノウハウや情報が部門内に囲い込まれていて他の部門では活かされない、といった話はよく聞きますよね。研究開発部門では最先端の調査をしているけれど、事業部ではそのことを知らずに似たようなこと調べているとか、業界別にわかれた営業部門がそれぞれ似たような提案をバラバラに考えているとか…。「隣は何をする人(部門)ぞ」という状態です…。

3Mの場合は、社員の自主性や助けあいを重んじる企業文化と、それを支える仕組みが、そんな問題を払拭し、異なる技術同士、そして技術とニーズがうまく結合できる状態を作り出しているようです。

「15%カルチャー」に代表される、社員の自主性の尊重

3Mでは、技術者が労働時間の15%を、自分自身のアイデアの研究・開発に費やしてよいという、「不文律」があります。(似たようなものではGoogleの「20%ルール」が有名ですが、それよりも早くからあるものだそう)

就業規則で触れられているわけではない(ゆえに「ルール」ではなく「カルチャー」と呼ばれている)のですが、かなり浸透していて、自分の業務の責任をきちんと果たしている限り、それとはまったく違うことを勤務中にやっていても、上司は何も言いません。

「15%」の活動に対して予算は与えられませんが、研究設備や余っている端材などを使うことも許されているということです。

また、自分の専門でない分野の技術者の助けが必要になれば、気軽に相談ができ、相談された方も快く助言するのだそう。

お話を聞いていてとっても大事だな、と思ったのが、この「助けあいの文化」と、それを支えるしくみです。

アメリカの親会社も含めると、3Mには世界70カ国に8万8千人もの社員がいて、技術的な助けあいは、グローバルに行われています。

誰がどんな技術に詳しいかということは、データベースで探すこともできますが、人づてに「あの人に聞いてみたらいい」と教えられることも多く、どんなベテラン社員にでもダイレクトに連絡をとることが可能。海外と電話会議もしょっちゅうするし、出張で現地を訪れた際は直接訪ねて行けば、快く受け入れてくれるのだそう。

とは言え、やはり自分の専門を超えた技術に目が行くかどうか、という点はまた別の話。

その点については、技術者同士のグループ活動やイベントを行い、専門外の技術に触れる機会を作っているとのことです。たとえば「TIE(Technical Information Exchange)」という社内イベントでは技術者の成果を発表するポスター展示を行いますが、日本での開催時に投票で1位になったチームがアメリカの大会に行けるなど、これもグローバルに行われています。

もうひとつ、ニーズのある製品が作れるか、という点については、同じ技術者でも「研磨剤」のような材料の技術者の他に、「医療」や「車」といった産業に精通した技術者の存在がとても大事だと思いました。

CTCには、46のテクノロジープラットフォームごとの技術活用事例の他に、産業ごとの製品のデモルームがあります。「これは患者さんの抱えている◯◯という課題を解決するために開発されたものです」「この材料を発明したことで、車の性能がこういう風によくなりました」といった説明をしてもらったのですが、素人には「へえぇ、そんなニーズがあるんですね」ということばかり。医療なら医療で、かなり現場に入り込み、3Mから見るとクライアントである医師と密接なコミュニケーションをとっていないと出てこない新製品であることが分かりました。

要素技術の専門家と、クライアントのいる現場の専門家と、両方の技術者が自発的に課題を持ち寄り、解決のために協力しあう文化が、3Mの新商品開発を支えているのです。

社内集合知を利用できるというメリット

このような3Mの文化や商品開発のしかたを知って頭に浮かんだのは、「集合知」という言葉です。

「集合知」が注目されるようになったのは、「Web2.0」という言葉が流行り、『「みんなの意見」は案外正しい』という本がベストセラーになった2006年頃です。今、その当時以上にインターネットが私たちの生活に浸透してできることが増えた結果「ビッグデータ」や「クラウドソーシング」といった考え方も生まれてきて、集合知の概念はより身近になってきているのではないでしょうか。

そんな中、『ハーバード・ビジネス・レビュー』2013年9月号では「集合知を活かす技術」という特集が組まれました。その中に、情報学者の西垣通氏による「集合知のちから」という記事があります。

『「みんなの意見」は案外正しい』で集合知がうまくいく例として紹介されているようなケースは、瓶に詰められたジェリービーンズの数当てや株価予想など、後で正解が確かめられるような事柄が典型です。それに対して西垣氏は、答えのない課題に対する集合知の活用が求められていると言います。特に、各研究領域が過度に専門分化し、ある領域の専門家だけでは視野が狭くて現実に起きている課題を解決できないという状態を、複数分野の専門家やアマチュアも参加する集合知が解消することへの期待が述べられています。

このような考え方と3Mで起きていることは、とても似ていると感じました。

「自分たちのもつ要素技術をどのように組み合わせ、どんな新商品を作れば売れるのか?」、「ある現場で起きている◯◯という課題を解消するにはどんな方法があるのか?」、そんな答えのない課題に対して、3Mでは社内(およびクライアントとの間)の集合知を存分に活用できるのです。

また、集合知やクラウドソーシングの活用、というと不特定多数の人たちの参加を前提としたものがイメージされますが、その場合、企業秘密や知的財産の扱い、不特定多数の人たちをうまくファシリテートすることの難しさなどが出てきます。3Mの場合は、参加者の範囲がひとつの企業とそのクライアントという枠組みの中に限られてはいるけれど、だからこそすばやく有効に集合知を活用できるのでしょう。(参考:これを「クローズド・オープン・イノベーション」という言葉で説明している記事がありました→日本の製造業にイノベーションが 起こらない〝厄介な〟理由

最初に書いた「3Mの社員でなければできないこと」、「組織に属するメリット」を大きく感じたのは、この「社内集合知を存分に活用できる知的資源やしくみと、メンバー同士助け合う文化がある」というところです。

「My Desk and Team」では、紹介している様々な社会人の属する組織について、多様な働き方を可能にする制度の面に注目することが多いですが、「この組織のメンバーでいたい」と思う大きな要素として、やりたい仕事に取り組め、その仕事を成功させるために「この組織のメンバーだからできることがある」ということは、基本的かつとても大事なことだと、改めて考えさせられました。

☆☆

参考書籍


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 09月号 [雑誌]


集合知とは何か – ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書)


「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)

☆☆

取材・文・撮影/やつづか えり

Article written by mdtadmin